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生意気な年下にうっかり惚れられまして。2年目!

「ちょっと早いですけど、そろそろ出ます?」
「そうですね。乗換駅の構内がややこしいので時間とられても困りますし」

椋太は印刷した資料をバッグにしまいながら、隣の小原に声をかけた。

今日は小原が既に付き合いのある会社へ、感触を確かめるために同行訪問することになっていた。
2年以上付き合いのある会社とのことで、最低でも2ヶ月に1回は訪問しているため率直な意見を聞きやすいとのことだった。

(長期での付き合いがきちんと信頼関係ができているのはありがたいな……)

オフィスを出ると、すでに夕暮れを越え、うっすらと紫色が残るくらいの夜空になっていた。
どうしても担当者がこの時間にしか取れず、訪問としてはやや遅い時間となった。

目の前のエスカレーターを降り、そのまま地下鉄の改札へと吸い込まれる。
遅い時間ということもあり、車内は帰宅ラッシュで混雑していた。

空いているスペースを見つけて滑り込み、吊革を掴む。

「見事帰宅時間とぶつかりましたね」
「18時ですしね、仕方ありません」

クライアントの最寄り駅までは乗り換えを含め、40分ほど電車に揺られることとなる。
打ち合わせも含め、開放されるのは20時を回る頃になりそうだな、と少しため息をつく。

(何も話さないのもアレだし……何か話しふるか)

「そういえば、小原さんってどこらへん住まれてるんです?」
「東横線沿線ですよ。都立大です」
「あ、じゃあほんのちょっとだけど同じ方面ですね。2駅だけですけど」
「ええ、見かけたことはありますよ」
「え?」

椋太は全く認識していなかったが、帰り際に同じ電車だったことがあるようだった。

「いいところに住んでいるなと」
「駅前は騒がしいですけどね。家賃手当がなければ住めてません」
「そうですよね、それは私も同じです」

珍しく小原は優しそうに微笑んだ。

(へー……小原もそういう顔するんだな……仕事抜きにすれば、もしかしたらもうちょっと話せるヤツなのかも)

その後も、それぞれの地元話に花を咲かせているうちに目的の駅についた。

今まで仕事が多忙すぎて思えば余裕をもって仕事仲間としての親密度が上がるような話はできていなかった。
意外性を感じながら少しだけ親しみを感じる。

少しだけ気持ちが浮上したまま、客先でも良い方向に話を進めることができた。



充実感を感じながら、客先のビルの外でコートを羽織ると、改めて小原に向き合う。

「今日はありがとうございます。良い話ができたのは、小原さんが信頼関係を築いてくださっていたおかげですよ」
「いえ、担当に恵まれただけですよ」

ふふ、と小原は小さく笑った。

「あは、本当に良い人でしたね」

人の良さそうな客先の担当とは自社の状況だけでなく、同じ業界の近況など様々な意見交換をすることができ、思っていた以上の成果を得られた。

「もう、こんな時間か。さすがに直帰しましょうか」

椋太は腕時計を指して小原に見せる。気に入って毎日付けている厚めのアナログ時計は、話が盛り上がりすぎて20時半を示していた。
とっぷりと暮れたオフィス街は、人通りも少なく淋しげだ。

「そうですね。……せっかくですし、何か予定なければ少し食事か飲んで行きませんか?」

(え……)

小原はあまり人と好んで付き合うようには見えなかったため、誘われたことに少し驚く。
だが、これからの長くなる付き合いを考えるとこの機会は好機とみて椋太は付き合うことにした。

「ええ。せっかくでしたら少し飲みませんか?この近辺でもいいですけど、できるだけ家に近い方向まで移動したほうがいいですかね」
「そうですね。ではせっかくですし、さっき話していた白井さんの地元のお店にしませんか?気になっていたので」
「途中下車してもらう感じですけど、それでもよければぜひ!」

そうと決まると、二人は駅を目指してあるき始めた――。
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