このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

生意気な年下にうっかり惚れられまして。

翌日。

思い悩んでいても仕事は待ってくれるわけでもなく、ふわふわとした気持ちのまま出勤する。
苦悩というほどでもないけど落ち着かない。今の気持ちとして一番近いのはそれだった。

「めずらしいな、しかめっ面してるぞ」

同僚の苦笑に、そんな顔をしていたのかとすぐに笑顔を作る。

「はは、バレたか。ちょっと昨日ぶつけた足の小指が痛くて」
「アーーーー、すっげ痛い奴……それはきちぃな」
「あるあるだよな。まったくドジふんだよ」

笑って誤魔化されてくれる同僚に安堵する。

(まったくらしくねえ。振り回されてンな、俺)

何か問題が起きた時は、客観的かつ論理的に、速やかに解決してきたつもりがうまくいかない。
一番わからないのは自分がどうしたいのかだから手に負えなかった。

「白井さん」

突然の自分を呼ぶ低音に、びく、と身体が硬直してしまう。
振り向くと澤村が感情の読めない顔で立っていた。

いちいち澤村に過剰な反応をしてしまう自分が憎らしい。

「なんだ、問題でもおきたか」
「いや。たまたま通りかかった」
「そうか。あ……おはよう」

挨拶をしていないことに気づいて顔をあげる。

「……」

挨拶にたいしての返答はなかった。少しだけ、顔に憂いがあるようにみえる。

(何か……悪いこと、したか?)

澤村は少し悲しそうにじっと椋太を見つめる。
すると、そのまま何も言わずに立ち去ってしまう。

「あいつ……澤村だっけ。なんか感じ悪ぃな」

同僚が険しい顔でため息を漏らす。

「いや、なんかあったんだろ。普段はあんなんじゃないよ」

思わず澤村をかばう。そう、もしも感じ悪く見えるのであれば。

(原因は、俺)

大人になってからは、あまり人に嫌がられたり悲しまれたりはしないように生きてきたためか余計に堪えるものがあった。

「ふ、優しいな白井は。まあなんかあったらなんでも聞くよ。てか飲みにいこうぜ最近いってねーし」

おおげさに肩を叩かれる。

「ありがとう。相談ごととかはないが、飲みにはいこう」
「よっしゃ。スケジュールあとでチャットで送っとくわ、開けろよ」
「りょーかい」

わざとらしく破顔してみせると、気を使ってくれる同僚に心の中で感謝した。

(しっかりしないとな)

椋太は自分を奮い立たせるように仕事に打ち込んだ。
17/39ページ
スキ