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生意気な年下にうっかり惚れられまして。

「無理に、答えなくて――」
「その、俺は……澤村が言ったとおり、恋愛対象は女性で」

沈黙に耐えきれず澤村が声をあげるのを遮るように、椋太は声を絞り出した。

「真面目に、思いを伝えてくれたんだと、いうのは、わかる。けど……」

真剣に伝えてくれた相手に、せめて誠意をもって答えようと、椋太も澤村の目を見つめた。

「正直、よく……わからない。嫌いじゃないけど、………好き、でもない。あ、いや。人としては……俺は結構、信頼してんだ、澤村のこと」

今まで一緒に働いてきて、厳しいことも生意気なことも言われて、むかっとすることもあった。
けど、それはクライアントのこと、会社としての立場なども考えての発言だというのはわかっている。
だからこそ自分もぶつかって、いいものを作ろうという発破剤でもあったんだな、とこの時改めて感じた。

「今は、よくわからないんだ、ごめん」

そう言い終わると、椋太は脱力したように目を伏せた。
澤村は何とも言えない表情を一瞬だけ浮かべると、僅かの間椋太の肩に手を触れてから身体を離す。

消えてしまった温もりに、何故か一抹の寂しさを覚える。

「――わかってる。俺の方こそ……すみません。白井さんを困らせたいわけじゃ、ないんだ」

ぎこちなく微笑みながら呟く。
そして決意したように顔をあげると、澤村は奮い立つようなしっかりと響く声で告げた。

「無理にとは言わないし、迷惑をかけないようには気をつけるけど。もう少しだけ――好きでいても、いいか」

憂いの影を残しながらも、澤村は少しだけ口角をきゅっと上げる。
その表情に、椋太もざわざわと胸が締め付けられるような痛みを感じた。

少しだけ沈黙の後、椋太は口を開く。

「まあ……減るもンじゃねーしな」
「ありがとう、白井さん」
「べ、別に……礼なんて。つーか、そういうならキリキリ働いてくれよなっ」
「それとコレとは別だ。仕事は当然、しっかりやる」

椋太は妙な空気のまま別れるのも嫌で、冗談交じりにチャラけると、澤村も察したように合わせる。
今まで数ヶ月かけて築いた二人の信頼関係を壊すのは嫌だと、無意識に強く思った。

「白井さんが悔しがるようなシステム作ってやるよ」
「おう。頼んだぜ」

なんとなくお互いに握手をすると、澤村はいつもどおりの感情の見えづらい飄々とした表情に戻った。

「はあ……腹が減った……それ、下さい」

いつも通りの生意気な口調で言うそばから、椋太の手に残っていたサンドウィッチを奪う。

「あっそっち、俺が食べようとしていたたまごの方……ッ」
「あんた、俺にくれるっていってただろう」
「ちげーよお前にやるのはこっちのレタス!!!!」
「ごちそうさま」
「あーーーー楽しみにしてたのにーーーーー」

こうしてさっきのことはなかったかのような雰囲気のまま日常は戻っていった。
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