Vol.14 宮緒葵先生
―「BL小説」というジャンルだからこそ気を付けていることはありますか?
宮緒先生:BL、つまりBoys Loveというからには、このジャンルで求められているのは『愛』だと思うのです。なので、中心にあるのはあくまで『愛』であり、不要な要素はなるべく省くようにしています。脇役やそれにまつわるエピソードなども、必要最低限に。攻めの言動も常にその根底にあるのは受けへの愛情、という具合です。むしろ愛以外は必要無い、という意気込みで書いています。
―原稿作成の手順について教えてください。
宮緒先生:担当の編集さんと『今回はこういう感じのお話にしましょうか』と電話などで話し合った後、それを基にプロットを作成します。
プロットは作家さんによって千差万別だと思いますが、私の場合はキャラ(攻めと受け、脇役)の簡単なプロフィールと、ストーリーを起承転結の四つに分けた粗筋で構成されています。だいたい、文字数にすると15,000字前後です。これを編集さんに提出します。
宮緒先生:編集さんからOKを頂ければ執筆開始です(こはもっとこうした方が、といったアドバイスを頂いたら、執筆前に修正します)。
私の場合、プロットは編集さんにどんなお話か説明するための企画書のようなものなので、書き始めたらほとんど読み返すことはありません。なのでプロットには存在しなかったキャラや展開がちょこちょこ入ってしまうんですが……。
宮緒先生:執筆のペースは、これまた人によって大きく違ってくるでしょうが、私はだいたい一日に必ず6,000字前後(文庫のレイアウトで8~9ページ程度)書き進め、一月から一月半で一作書き上がるペースを守っています(文庫の文字数は、だいたい12万字前後です)。
このペースだと、所々お休みを入れても締切の十日前までには完成するので、推敲の時間もじゅうぶんに取れるのです。
初稿が完成したら数日間を置いてから推敲し、編集さんに送ります。その後、編集さんが修正点などを指摘して下さるので修正して再び提出、OKが出れば完成稿となります。
その後は校正や挿絵のキャララフのチェックなどの作業に移っていきます。
―15,000字というと、プロットとしては結構分量がありますよね。
宮緒先生:そうですね、編集さんからも『宮緒さんはかなり多いほうです』とよく言われます。少ない方だと、A4の紙一枚程度という方もいらっしゃるそうなので。
作成に掛かる時間は、短ければ一日、長くても五日程度ですね。
―キャララフのチェックのお話がありましたが、先生の中でキャラのデザインはどのタイミングで固まっていくのですか?
宮緒先生:私自身は、『妖艶な美少年』とか『犬』とかおおまかなイメージはあるのですが、ビジュアルが完全に固まるのはイラストレーターの先生にキャララフを頂いた時ですね。
髪の色とか目の色とか、精悍な顔立ちとか、方向性はもちろん私が決めていますが、あとは基本的にイラストレーターの先生にお任せしています。
―そうなりますと、執筆の際には先生の頭の中で映像としてキャラクターが動いたりすることはあまりないのでしょうか?
宮緒先生:映像というか、私の場合はキャラクターが私に向かって自分の生い立ちややりたいことなどを語りかけてきますね。
私はひたすら聞き役に徹して、時折、『そうなの、それで君はそれからどうしたいの?』みたいに質問したり、相槌を打ったりしています。
―キャラクターと対話しながら、それを拾って物語を綴っていくといったような……。
宮緒先生:そうですね。だから私の役割は、あくまで『物を語る』ことです。
―プロットには存在しなかったキャラや展開が入ってしまうこともあるということでしたが、そうしたキャラやシーンは実際に書いていく中で自然と生まれてくるのでしょうか。
宮緒先生:プロットに書いたキャラは、あくまでプロット作成時に存在したキャラなので、書いていくうちに『実はこういう奴も居て…』とキャラが言い出すこともあり、そうするとプロットには居なかったキャラも登場することになりますね。
―そこでも、やはりキャラクターの口から語られた新たな存在を先生が綴っていくのですね。
宮緒先生:そうですね。おせっかいな親戚のおばちゃんみたいにキャラの話を聞いて、それを語ることになります。
―小説を書く上での先生なりのこだわりについて教えてください。
宮緒先生:なるべく難解な用語や言い回しは使わず、平易な表現を心がけています。私自身、くどくどと説明されるのが嫌いなので、可能な限り少ない文字数で、最大の情報を伝えられるように努めています。
物語、というからには、作者は語り手でもあるのですよね。どう語れば読者さんの心に響くか、常に考えながら書いています。
―参考にされる資料はどのようなものですか?
宮緒先生:最近は時代もの(江戸時代)を書くことが多いので、資料もその関係のものが多いのですが、基本的に気になった資料は必ず目を通すようにしています。
以下、最近使うことの多い資料(の一部)です。
―これで一部……!やはり時代ものの作品は莫大な資料を元に書き上げられているのですね。
宮緒先生:いえ、これらは資料というよりは、どちらかというと私の趣味の読み物なので……。興味をそそられた本は、読まずにはいられないんですよね。それが結果的に執筆に役立っているだけなんです。
こちらのリストはごく一部で、実際はその二十倍くらいの量がありますよ(笑)。