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Vol.11 凪良ゆう先性

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―先生の原稿が出来上がるまでの工程を教えてください。

凪良先生:脳内でアイデア練り→脳内であらすじ立て→プロット作成→初稿。

一番時間をかけるのはプロットです。作家さんによってはほとんどプロットは書かない方もいらっしゃいますが、わたしは初稿は感情の赴くまま書くタイプなので、基礎になるプロットをしっかり組んで手綱を取っておかないと、どこに走っていくかわかりません。

事件性や特異な環境設定のない日常の話が多いので、肝になるキャラクターの心理の積み重ねはプロットの段階で丁寧にやります。プラスの共感だけでなくて、こういう嫌な奴いるよねというマイナスの共感も。

キャラクターの心理を追ううちに自然と構成が流れ出します。しっかり練ると、初稿の書き出しの負担が減ります。……が、その分プロットが長くなって、文庫で80ページ分のプロットを送って担当さんにドン引きされたこともあります(笑)。

―「マイナスの共感」という部分について、少し詳しくお伺いできますか?

凪良先生:普通、人間って嫌なところもあればいいところもあるじゃないですか。100%嫌な人、100%良い人っていないですよね。
だから、キャラクターを奥深く書いていこうと思うと、いいところもあるし悪いところも出てくるのが当たり前だと思っています。

ただBLというジャンルだと、メインキャラに関してはそういう嫌なところが描写される場合、いい人のイメージを崩さないよう、そこに至るまでのきちんとした裏説みたいなものをエピソードで積み重ねないといけない空気があって。

でも実際のところ、人間ってそんなに深く考えてないですよね。結構無造作に人を傷つけるようなことをサクッと言って本人は気づいてなかったりするじゃないですか。相手の何気ない言葉に傷ついたり、反対に傷つけてしまったり。私にもそういう経験があるし、誰でもそういう経験をしたことはあると思います。人間には、そういう誰でも持ってるごく普通に嫌な面がありますよね。

マイナスの共感っていうと凄く大げさな感じなんですけど、「あ!いい子だなぁ」って受けや攻めのことを思う一方で、何か嫌な事をした時に「あ~、でもこういうことする時たまにあるよね」ってなる感覚ですかね。

―受けも攻めも、しっかりと人間くさい部分を描くといったような。

凪良先生:受けに関しては、多少何をしても読者さんも受け止めてくれるんですけどね。受け視点が多い理由っていうのも多分そこにあると思うんですけど、これは受けに共感して受け側の立場で読まれる方が多いからではないかと思います。

例えば、凄く極端な事をいうと、受けが前の彼氏と今の彼氏との間で迷っていてもそんなに責められることはないんですが、攻めが同じことをすると凄く怒る読者さんもいらっしゃいます。でも、基本的に一人の人としか付き合わない人ってそういないと思いますし、大概の人はその時に付き合ってる人と上手くいっていない時にタイプの人と出会ったら「あ!あの人いいな!」って思ってしまったりすると思うんです。
でも、そういう場合でも、受けは許されるけど攻めは許されないじゃないですか。「受けがいるのになんてことを!」という。

でも私は結構攻めの方に肩入れして書くことが多いので、受けに関しては許されるけど攻めに関しては許されない、そういう部分をどう上手く書いていくかというのがテーマの一つではありますね。受けも人間だけど攻めも人間なんですよっていうのを訴えていきたいかなぁと思っています。なので、プラスの共感だけでなくマイナスの共感もしっかりと書いていきたいんです。

―小説を描く上での先生なりのこだわりはありますか?

凪良先生:先ほども少しお話ししましたが、お話によってアプローチはそれぞれなので、こだわりはないのが自由でいいような……。
物語も毎回違うし、人の考えも変わっていくし、BL業界も変わっていくし、そのときどきのシーンに対応しつつ、自分が書きたいものを書く、しかないんじゃないでしょうか。

―BL業界が日々変化していると感じる時は、どんな時ですか?

凪良先生:昔よりも色々なものが書けるようになったなと感じる時です。昔だったら許してもらえないようなネタでも書けるようになったというか。
それは業界の広がりと、私がある程度年数を重ねて担当さんとの繋がりで色々なものが書かせてもらえるようになったっていうのが半々ぐらいだとは思うんですけど、でも昔よりはタブーみたいなものがなくなってきているのではないでしょうか。

とはいえ、やっぱりさっきも言ったように絶対ハッピーエンド至上主義のところで結局結末が全て同じになってしまいがちというところに関しては大きな変化はなくて。
成就するものよりも壊れてしまう恋愛のほうがいろいろ書き込めるので、作家としてはバッドエンドの方が書きがいはあると思うんです。商業BLなので、そんな喧嘩を売るようなことはしないんですけど(笑)。もうちょっと広がっていけばいいなぁと思います。色んな結末を許せるように。

―ここ数年、漫画の方ですとバッドエンドのものも増えてきていますよね。

凪良先生:そうですね。その流れが小説にも普及してほしいなぁと思うんですけど、なかなか難しそうですよね。
小説の方が読者さんの年齢層は高いと思うので、やっぱりどうしても年齢が上がっていくにつれて「しんどいものは読みたくない」って思っちゃうのかな(笑)。

―語彙や表現の磨き方、言葉選びのポイントなどについて教えていただけますか?

凪良先生:語彙はたくさん本を読んで、引き出しを増やしていくしかないと思います。どんなに素敵な表現でも、キャラクターの年齢や性格に合わないと、すっと読者さんの心に落ちていってくれないので。
あと基本的に難しい言葉や華美な表現や凝った言い回しは使わないようにしています。水みたいに、弱ってるときでも飲みやすい言葉が好きです。

―参考にすることの多い資料は何ですか?

凪良先生:国語辞典、現代国語表記辞典、類語辞典、記者ハンドブック、その話に必要な各種資料です。

―お恥ずかしながら、記者ハンドブックって初めて聞きました。

凪良先生:辞典と並んで結構活用します。どっちの表記で統一するかとか、字おくりとか、ここ開く(ひらがなにする)のか閉じるのかっていうようなちょっと迷う言葉にぶつかった時に参考にさせてもらってます。
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