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ボーイズ・イン・ブルー

 自分の趣味全開のプレイリストを他人に見られるのは、これで二度目。もちろん、一度目の相手は千尋だ。
 そわそわと落ち着かずに梶ヶ谷の様子を伺うと、先ほどまでの色のない表情がほんの少しだけ柔らかくなったように見えた。

「へえ、滝沢ってこういうの聞くんだ。知らなかった」
「だから言ったじゃん!絶対守備範囲似てるって」

 興奮気味の千尋の声を「ハイハイ」とするりと躱して、梶ヶ谷はスラックスのポケットから取り出したスマートフォンを静に手渡した。
 千尋の言う通り、確かに梶ヶ谷の端末の液晶には面白いくらい見覚えのあるアーティストの名前ばかりが並んでいる。

「ほんと、同じようなのばっかり入ってるね。梶ヶ谷も北欧系好きなんだ」
「うん、最近よく聞いてる。まあ部活ではちゃきちゃきのロックばっかりやらされてるけどね。誰かさんの希望で」
「ああ…千尋はコードとかシンプルなの好きだもんね」

 頬杖をついて息を吐く梶ヶ谷に同調すると、千尋が「シンプルイズベストって言葉があんだろーが」と拗ねた声を上げたので、静は小さく笑った。

 それから、二人で過ごしていた昼休みを三人で過ごすことが増えた。
 もともと同じクラスだったこともあり、梶ヶ谷は静のことをよく気に掛けてくれている。梶ヶ谷自身口数が多いタイプではないが、周りをよく見ており機転も利くので、クラスの輪に入れない静をさりげなくフォローしてくれることも少なくない。

 これまで共通の趣味を語り合える友人というものをもたなかった静にとって、今の状況は夢のようにすら思える。千尋と梶ヶ谷は全くタイプの違う性格だが、二人ともとても良くしてくれるし、何より二人と他愛無い話で盛り上がっている時間は静にとってとても充実したものだった。
 歩調と同じペースで流れていた川の流れが急に激しくなったように、以前よりも、月日の過ぎ去っていくスピードを速く感じる。ふとカレンダーを見れば、あっという間に7月の1週目が終わろうとしていた。

 授業と授業の間には梶ヶ谷と音楽の話をして、昼休みになったら大きな弁当箱と共に千尋がやってくる。
 二人のバンドのこと、それぞれが行ったライブの感想、静の絵の話など、話題に困ることはない。
 目まぐるしく移り変わっていく会話に相槌を打ちながら、くるくると忙しなく動く千尋の表情を眺めていると、どことなく退屈だった以前の日々が嘘のようだ。

「つーかかっちゃんさあ、いくらオレが馬鹿だからって『大人しく赤点取って担任に絞られとけば?』とか言わなくたってよくね?期末でコケるとマジでやばいから手伝ってくれって言っただけじゃん!」
「お前っていつも何だかんだ言ってギリギリのところで赤点回避してて癪なんだよね。ていうかその中途半端な物真似、寒気するからほんとやめろ」
「辛辣!あとシズもそこまで笑うことある!?」

 今日も今日とて繰り広げられる二人の会話に、静の表情が自然と明るくなる。全く似ていない千尋の物真似が妙に面白く思えて、静は肩を揺らして笑った。

「そうだ、シズ――」

 そんな折、それまでぎゃあぎゃあと騒いでいた千尋が、思い出したようにやや低めのトーンで切り出す。その様子をやや不思議に思いながらも次を待ったが、千尋はぐっと言葉を飲み込んだようだった。
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