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ボーイズ・イン・ブルー

「はー、腹減りすぎて死ぬ!シズ、よくそんなパン一個で足りんね」

 言葉に詰まる静の様子に気付いているのかいないのか、焼いた豚肉と白米とがぎゅうぎゅうに詰め込まれた弁当をかっ込みながら千尋が言う。その言葉に曖昧に頷き、購買のサンドイッチをちみちみと咀嚼しながら、静は自身の気持ちが凪ぐのを待った。

「千尋と違って燃費が悪い訳じゃないからね」
「あっ、ひでー。シズって見た目によらず結構言うよな。そこも面白いんだけどさ」
「俺のことそんな風に言うの、千尋くらいだよ」

 いつも通りのペースで言葉を交わせたことに、内心ほっと胸を撫で下ろす。こうして千尋と話していると、今まで知り得なかった感覚が次から次へと舞い込んでくるから不思議だ。
 食の細い静とは対照的に、千尋は頬めいっぱいに米を詰め込んで、あっという間に弁当の中身をすべて平らげてしまった。
 良い食べっぷりだな、と何となく微笑ましく思っていると、千尋は俄かに立ち上がり静の斜め前あたりの席に座っている男子生徒に声を掛けた。

「おーい、かっちゃん!ちょいこっち来て」
 
 突然の呼び出しを食らったクラスメイト―梶ヶ谷啓士は、気だるそうな態度でゆったりと振り向く。

「何?俺、次の小テストの勉強したいんだけど」
「だいじょぶだいじょぶ!かっちゃんなら予習なんてしなくても余裕で満点取れるっしょ」

 千尋の勢いに押され半ば強引に腕を引かれた梶ヶ谷は、ため息を漏らしながらもしぶしぶという態で静の前の席に腰掛ける。切れ長の涼しげな目元を崩さないまま、少し掠れたハスキーな声で「で、何?」ともう一度問うた。
 そういえば、これまでに何度か梶ヶ谷が教室に楽器のケースを背負って来ていたことがあったことを思い出す。バンドのメンバーについて千尋に詳しく聞いたことはなかったが、二人の間の気安い空気で、千尋と梶ヶ谷がいつもつるんでいるであろうことが分かった。

「シズ、こいつバンドメンバーのかっちゃんね。パートはベース。ってか、同じクラスだし二人とも顔と名前くらいは分かるか」
「うん、一応は。ええと、どうも…?」
「はい、どうも。…ちょっとさ、千尋。お前が最近滝沢と仲良いのは知ってるけど、だからって俺を連れてきてどうすんの」

 戸惑いがちに発せられた静の挨拶に、梶ヶ谷は顔色ひとつ変えずに淡々と応じる。
 仏頂面とも取れなくもない梶ヶ谷の表情を全く気に留めることなく、千尋は花開く前のひまわりのような期待感をもって静を見た。

「シズとかっちゃん、多分すっげー趣味合うと思うよ。シズ、ちょっとアレ貸して。中見せていいっしょ?」

 言われるがままに鞄からプレーヤーを取り出し手渡すと、千尋は受け取ったそれをそのまま梶ヶ谷へと渡した。
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