このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ボーイズ・イン・ブルー

「じゃあ、あいつがどこ受けるか知ってる?」
「……聞いたことない。から、今度千尋に直接訊いてみる」

 再び左右に首を振って、静は梶ヶ谷の目をまっすぐ捉えた。
 その視線を受け止めた梶ヶ谷は、「あーあ」とつまらなさそうにぼやいて静の前の席へと腰を下ろした。いつも通りの不愛想を微塵も崩さず、頬杖をついてぶっきらぼうな調子で言う。

「何だか円満そうで何よりデスネ?」
「ええと、お陰様で……?」

 荷物をまとめながら静が応えると、梶ヶ谷ははあ、と盛大に溜息を吐いた。
 例のライブの日以降、梶ヶ谷は静と千尋の変化にすぐに気が付いたらしい。別に隠しているつもりもなかったので千尋が改めて事の顛末を説明したところ、梶ヶ谷は物凄く嫌そうな顔で「良かったね」と祝福してくれたとのことだった。口ではああだこうだ言いつつも、梶ヶ谷は梶ヶ谷なりに千尋のことを気に掛けているのだろうな、と静は常々感じている。

「からかい甲斐がなくなってつまんないな。もう俺が出る幕もなさそうだしね」
「うん、でもほんと梶ヶ谷がいてくれて良かったよ」
「……ほんと、そういうことさらっと言えちゃうのが滝沢だよね」

 梶ヶ谷は一瞬だけ口元を緩めたように見えたけれど、その表情はすぐに戻ってしまった。斜め前の自席へ戻り楽器ケースを背負った梶ヶ谷を追って、静も立ち上がり、鞄を肩にぶら下げてその背へ言葉を投げた。

「あのさ、梶ヶ谷。悪いんだけど、ちょっと買い物したいから今日は部室寄らないで先に帰るって千尋に伝えておいてくれる?」
「えー…いや、まあいいけどさ」

 至極面倒くさそうな表情をつくってはいるものの、梶ヶ谷は静の頼みを断ることはしなかった。何だかんだ言っても、梶ヶ谷は自分たち二人の良き理解者でいてくれている――本人には否定されてしまいそうだが、少なくとも静はそう思っている。
 教室を出た後、階段のあたりで梶ヶ谷と別れた静は、そのまままっすぐに駅前の本屋へと向かうべく昇降口を後にした。
46/50ページ
スキ