ボーイズ・イン・ブルー
「あ~~……ほんと、めちゃくちゃ嬉しかったりする時ってこんな風に何も言えなくなるんだな~……」
千尋は真っ赤な顔でそんな風に呟きながら、静からゆっくりとその身を引き離した。遠くなっていく熱は名残惜しかったけれど、いくら人の目がないとはいえこんな歩道のど真ん中でいつまでもくっついている訳にはいかない。
どちらともなく再び歩き始める。ちらりと見上げる千尋の横顔は、やはりまだ赤いままだった。
「そういえば、前にも訊いたような気がするんだけど。千尋が俺のことを好きになってくれたきっかけって、何だったの」
老若男女誰からも好かれるであろう明るい性格と、人懐こい笑顔。卑屈な言い方になってしまうが、やはり自分と千尋は明らかに釣り合っていないような気がする、と静は常々思っている。
もちろん誰かを好きになる感情に理由などはないのだが、単純な興味というか、好奇心というか。千尋に関することは、ひとつでも多く知りたい。
「きっかけっていうか、気付いたら……?って感じかも。まあ、あるにはあるかもしれない、けど」
「けど?」
歯切れの悪くなった語尾について尋ねると、千尋は「かっこ悪いからあんまり言いたくないんだけど」と前置きし、苦く笑って続けた。
「オレの兄貴がめちゃくちゃ優秀だったって話はしたよね?高校入ってからさあ、ほんといっつもどの授業でも『あの瀬田の弟なのに』って視線を感じるんだよね。被害モーソーかもしんないけど、多分実際センセーらには多かれ少なかれそういう目で見られてると思う。面と向かって言われたことも何回かあるし」
「……クラス違うと、そういうのって全く分かんないよね。当たり前だけど」
「うん、まあそんな感じで。そういうのってセンセーたちだけじゃなくて、兄貴が会長やってた時代を知ってる生徒からもあるんだよね。特に一年の頃とか、よく二、三年の女子が教室に来てたりとかさ~」
千尋は何でもないように語っているが、常に自分ではない誰かを被せられていることにいい気をする人間などなかなかいないだろう。きっと、こうして淡々と話すことができるようになるまで、千尋は随分苦い思いをしてきたに違いない。
「……それってさ、かなりしんどくなかった?」
つい口をついて出た静の率直な問いに、千尋はやや言葉を選ぶような仕草をして、静の顔を覗き込んだ。
千尋は真っ赤な顔でそんな風に呟きながら、静からゆっくりとその身を引き離した。遠くなっていく熱は名残惜しかったけれど、いくら人の目がないとはいえこんな歩道のど真ん中でいつまでもくっついている訳にはいかない。
どちらともなく再び歩き始める。ちらりと見上げる千尋の横顔は、やはりまだ赤いままだった。
「そういえば、前にも訊いたような気がするんだけど。千尋が俺のことを好きになってくれたきっかけって、何だったの」
老若男女誰からも好かれるであろう明るい性格と、人懐こい笑顔。卑屈な言い方になってしまうが、やはり自分と千尋は明らかに釣り合っていないような気がする、と静は常々思っている。
もちろん誰かを好きになる感情に理由などはないのだが、単純な興味というか、好奇心というか。千尋に関することは、ひとつでも多く知りたい。
「きっかけっていうか、気付いたら……?って感じかも。まあ、あるにはあるかもしれない、けど」
「けど?」
歯切れの悪くなった語尾について尋ねると、千尋は「かっこ悪いからあんまり言いたくないんだけど」と前置きし、苦く笑って続けた。
「オレの兄貴がめちゃくちゃ優秀だったって話はしたよね?高校入ってからさあ、ほんといっつもどの授業でも『あの瀬田の弟なのに』って視線を感じるんだよね。被害モーソーかもしんないけど、多分実際センセーらには多かれ少なかれそういう目で見られてると思う。面と向かって言われたことも何回かあるし」
「……クラス違うと、そういうのって全く分かんないよね。当たり前だけど」
「うん、まあそんな感じで。そういうのってセンセーたちだけじゃなくて、兄貴が会長やってた時代を知ってる生徒からもあるんだよね。特に一年の頃とか、よく二、三年の女子が教室に来てたりとかさ~」
千尋は何でもないように語っているが、常に自分ではない誰かを被せられていることにいい気をする人間などなかなかいないだろう。きっと、こうして淡々と話すことができるようになるまで、千尋は随分苦い思いをしてきたに違いない。
「……それってさ、かなりしんどくなかった?」
つい口をついて出た静の率直な問いに、千尋はやや言葉を選ぶような仕草をして、静の顔を覗き込んだ。