ボーイズ・イン・ブルー
端末を耳元にあてると、すぐにプツッという独特の機械音が聞こえて、通話が繋がったことが分かる。
『……なんか、電話って変な感じ』
聞こえてきた第一声がそんな調子だったので、静の口元がふっ、と緩んだ。
「電話で話すの、初めてだもんね。……千尋、大丈夫?」
『んー、落ち込んでるっていうより、なんかぼーっとしてるかも。何となく分かってたけど、あー、やっぱりかーって感じで』
「そういえば、千尋の外のバンドの話ってあんまり聞いたことなかったな」
静がそう言うと、千尋が一瞬押し黙る。電波の向こうで、きっと千尋は複雑そうな顔をつくっているに違いない。静が何も言わずに答えを待っていると、はあ、息を吐いたのが聞こえた。
『ごめん、ちょっと……避けてたから』
気まずそうな様子で弁明した千尋は、そこから一テンポ置いて、再び口を開く。
『……オレが駆り出されてる外のバンドってさ、もともと兄貴が組んでたやつなんだよね。ちょうど空いた穴に入れて貰ったっていうか、突っ込まれたっていうか』
――……それはまた難儀な。
わざわざ部活以外にもバンドを組んでいたのはそういう理由だったのか、と静が納得していると、スマートフォン越しに語り掛ける声が続ける。
『それって単純に、友達に言うにはちょっとかっこ悪いじゃん。実力じゃないんかい!みたいな。それに、相手がシズなら尚更。オレが話したくないんだろうなっていうの察してくれちゃうしさ』
「……そんなに大層なことは考えてないけどね」
確かに、千尋が話そうとしないことを無理に聞き出すような真似はしたくなかったので、今まで静の方からこの話題について深く追求したことはなかった。この間千尋が話してくれた兄との関係性などを考えると、すんなりと言い出せる話ではなかったのだろうな、というのは想像に難くない。
『まあメンバーみんな楽器上手いし、別に兄貴の代わりとして扱われてる訳じゃないから文句はないんだけど。さっきも言ったけどさ、今回の解散云々も、まあしょうがないかーって感じで。みんなどこまで続けんのかなってのはずっと思ってて』
「うん……」
『そりゃバンド一本で食っていけるほど甘くないのも分かってるつもりなんだけどさ。……多分、兄貴もそれ分かってたからすっぱり辞めたんだろうし……』
煮え切らない思いを抱えているのだろう、つらつらと言葉を吐き出す声が曇っている。
――顔、見たいな。
電話越しにしか繋っていない、今この時がじれったい。
吐き出す息が白く上っていくのを眺めながら、この感情が自分の千尋に対する答えなのかもしれないと、静はそっと考えていた。
『……なんか、電話って変な感じ』
聞こえてきた第一声がそんな調子だったので、静の口元がふっ、と緩んだ。
「電話で話すの、初めてだもんね。……千尋、大丈夫?」
『んー、落ち込んでるっていうより、なんかぼーっとしてるかも。何となく分かってたけど、あー、やっぱりかーって感じで』
「そういえば、千尋の外のバンドの話ってあんまり聞いたことなかったな」
静がそう言うと、千尋が一瞬押し黙る。電波の向こうで、きっと千尋は複雑そうな顔をつくっているに違いない。静が何も言わずに答えを待っていると、はあ、息を吐いたのが聞こえた。
『ごめん、ちょっと……避けてたから』
気まずそうな様子で弁明した千尋は、そこから一テンポ置いて、再び口を開く。
『……オレが駆り出されてる外のバンドってさ、もともと兄貴が組んでたやつなんだよね。ちょうど空いた穴に入れて貰ったっていうか、突っ込まれたっていうか』
――……それはまた難儀な。
わざわざ部活以外にもバンドを組んでいたのはそういう理由だったのか、と静が納得していると、スマートフォン越しに語り掛ける声が続ける。
『それって単純に、友達に言うにはちょっとかっこ悪いじゃん。実力じゃないんかい!みたいな。それに、相手がシズなら尚更。オレが話したくないんだろうなっていうの察してくれちゃうしさ』
「……そんなに大層なことは考えてないけどね」
確かに、千尋が話そうとしないことを無理に聞き出すような真似はしたくなかったので、今まで静の方からこの話題について深く追求したことはなかった。この間千尋が話してくれた兄との関係性などを考えると、すんなりと言い出せる話ではなかったのだろうな、というのは想像に難くない。
『まあメンバーみんな楽器上手いし、別に兄貴の代わりとして扱われてる訳じゃないから文句はないんだけど。さっきも言ったけどさ、今回の解散云々も、まあしょうがないかーって感じで。みんなどこまで続けんのかなってのはずっと思ってて』
「うん……」
『そりゃバンド一本で食っていけるほど甘くないのも分かってるつもりなんだけどさ。……多分、兄貴もそれ分かってたからすっぱり辞めたんだろうし……』
煮え切らない思いを抱えているのだろう、つらつらと言葉を吐き出す声が曇っている。
――顔、見たいな。
電話越しにしか繋っていない、今この時がじれったい。
吐き出す息が白く上っていくのを眺めながら、この感情が自分の千尋に対する答えなのかもしれないと、静はそっと考えていた。