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ボーイズ・イン・ブルー

 答案返却の期間に入ってから、静の携帯には毎日のように千尋からの点数報告のメッセージが届いていた。今のところ赤点もなく、そればかりか平均点以上を叩き出した教科すらあるようで、嬉しそうに弾んだ文面の報告を目にすることも少なくない。
 また、昼休みに教室に訪れた千尋の口から飛び出す点数に、梶ヶ谷が信じられないと言った様子で目を見開いたこともあった。成果をあげた張本人でないにもかかわらず、その時ばかりは静も何だか誇らしい気持ちになってしまって、「千尋、頑張ったよね」と同調して笑った。その後すぐに、「滝沢、あんまり甘やかさないでくれる?」と梶ヶ谷に溜息を吐かれたことも記憶に新しい。

 夕日の中を走る通学電車に揺られながらそんなことを思い返していると、思わず口元が緩んでしまいそうになり、慌てて袖口で唇を覆った。それに、毎日の楽しさに浮かれている場合でもないということも同時に思い出されて、静はもたれ掛かった車窓の外を流れていく景色をぼんやりと見つめながら小さく息を吐く。その熱で窓ガラスが結露して、見えていた風景がじんわりと滲んでいった。

――そろそろ、千尋に返事をしなきゃいけない。結局、あの時だって一方的に走って逃げて帰ってきたようなものだし……。

 千尋の家の玄関先での出来事を思い出し、静はいたたまれなさから混みあってきた車内で通学鞄をぎゅっと胸に抱く。あの日の出来事を思い出す度、身体の内側から発火するような感覚に襲われて、静の思考が熱を帯びる。

 自分たちはまだ高校生で、この先何が起こるかなんて分からない。男同士ということを差し引いたとしても、好きだから付き合うだとか、そんな簡単な話でもない。だからと言って、それを言い訳に千尋の気持ちを誤魔化すことはしてはいけない。いよいよ覚悟を決めなくてはならないと、静は目を閉じる。

 がたんがたん、と不規則に揺れる車両の中では、つい周囲に立つ見知らぬ誰かに支えてもらいたくなってしまう。けれど、窓ガラスに身体を預けながらも、静は己の足にぐっと力を込めて立った。
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