ボーイズ・イン・ブルー
「じゃあ、お邪魔しました。課題絶対出しなよ」
玄関先でローファーにつま先を潜り込ませながら、静は見送る千尋へと振り向く。
「数学はもうちょいで終わるし、英語……もまあ何とかなると思う。ほんとシズのおかげだよ。いや、正直予想以上にスパルタだったけど、こうでもされないとオレやらなかっただろうし……」
「千尋、呑み込み早いし、今回はまあ赤点は回避できるんじゃない?」
他愛のない会話の後、別れを惜しむかのような微かな沈黙が舞い降りる。二人きりで過ごした時間のあとは、いつもこうやって後ろ髪を引かれるような空気になる。
引き留めていたいけど、そうすることもできない――そんな千尋の思いが伝わってくるようで、静はいつも「さよなら」を告げるタイミングを逃してしまうのだ。
スクールバッグを肩に掛け直して、静は意を決して口を開く。
「……あのさ。千尋の『好き』は俺に触りたいって思う『好き』ってことで、合ってる?」
季節をまたぎ、せっかく切った前髪はまた伸び掛けて静の視界を覆い始めていた。自分で言っておきながら、耳に入ったストレートな言葉に静はそっと赤面する。
ぎりぎり千尋には見えない角度で良かった、とほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、次の瞬間、ぐいっと腕を引かれ静の体が滑るように千尋の方へと引き寄せられる。何が起こったのか頭が理解する頃には、静の細い体躯は千尋の腕の中にすっぽりと納まっていた。
「うん。こういう『好き』だよ」
顔も上げられないくらいにぴったりと密着した千尋の胸から、どくどくと早鐘を打つ心臓の音が伝わってくる。その振動に引き上げられるようにして、静の鼓動もどんどん加速していった。互いの心音が反響し、何が何だか分からなくなる。
ぎゅっと抱き締める千尋の腕の力が強まると、静の背中が小さく震えた。恥ずかしいとか、思ったより嫌じゃないとか、言わなきゃいけないことはあるような気がするのに、脳みそがショートしてしまって全く使い物にならない。
ぱくぱくと口を空けたり閉めたりする感触を感じ取ったのか、静を開放した千尋がいたずらっぽく微笑んだ。
「オレがシズのこと好きだって、ちゃんと分かった?」
訳も分からず機械のように首を縦に振ることしかできない静を、千尋はやはり笑うのだった。
玄関先でローファーにつま先を潜り込ませながら、静は見送る千尋へと振り向く。
「数学はもうちょいで終わるし、英語……もまあ何とかなると思う。ほんとシズのおかげだよ。いや、正直予想以上にスパルタだったけど、こうでもされないとオレやらなかっただろうし……」
「千尋、呑み込み早いし、今回はまあ赤点は回避できるんじゃない?」
他愛のない会話の後、別れを惜しむかのような微かな沈黙が舞い降りる。二人きりで過ごした時間のあとは、いつもこうやって後ろ髪を引かれるような空気になる。
引き留めていたいけど、そうすることもできない――そんな千尋の思いが伝わってくるようで、静はいつも「さよなら」を告げるタイミングを逃してしまうのだ。
スクールバッグを肩に掛け直して、静は意を決して口を開く。
「……あのさ。千尋の『好き』は俺に触りたいって思う『好き』ってことで、合ってる?」
季節をまたぎ、せっかく切った前髪はまた伸び掛けて静の視界を覆い始めていた。自分で言っておきながら、耳に入ったストレートな言葉に静はそっと赤面する。
ぎりぎり千尋には見えない角度で良かった、とほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、次の瞬間、ぐいっと腕を引かれ静の体が滑るように千尋の方へと引き寄せられる。何が起こったのか頭が理解する頃には、静の細い体躯は千尋の腕の中にすっぽりと納まっていた。
「うん。こういう『好き』だよ」
顔も上げられないくらいにぴったりと密着した千尋の胸から、どくどくと早鐘を打つ心臓の音が伝わってくる。その振動に引き上げられるようにして、静の鼓動もどんどん加速していった。互いの心音が反響し、何が何だか分からなくなる。
ぎゅっと抱き締める千尋の腕の力が強まると、静の背中が小さく震えた。恥ずかしいとか、思ったより嫌じゃないとか、言わなきゃいけないことはあるような気がするのに、脳みそがショートしてしまって全く使い物にならない。
ぱくぱくと口を空けたり閉めたりする感触を感じ取ったのか、静を開放した千尋がいたずらっぽく微笑んだ。
「オレがシズのこと好きだって、ちゃんと分かった?」
訳も分からず機械のように首を縦に振ることしかできない静を、千尋はやはり笑うのだった。