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ボーイズ・イン・ブルー

 自分の直毛とは違う丸みを帯びた感触を指先に感じ、静は面映ゆい気持ちになる。ワックスか何かでセットしているのだろうか、空気に遊ぶ毛先をほんの少しだけ指に絡めて、それから引き戻した手のひらをじっと見つめた。
 
 具体的な言葉として伝えられたことはないにせよ、きっと千尋の言う「好き」はこういう触れ合いの伴うものなのだろうな、と静は考えている。そして、自分が千尋とどこまでそうした密な関係を築けるのか、その部分は静にとっては未だに未知の領域だった。
今までにも色々と想像を働かせてはみたものの、やはりイメージには限界があるし、かと言って本人に直接打ち明けるのもそれはそれで酷な話であるような気がする。少なくとも、静には千尋相手に「ちょっと試させてください、やっぱり無理でした」などと真向から言う勇気はないし、大事な相手だからこそそんなことはしたくなかった。

そうは言っても、一人で悩んでいたところでどうにもならないということはさすがにもう自覚している。このままなあなあの関係を続けるのも、きっと千尋にとっては望ましいものではないはずだ。

――帰り際、少し相談してみようか……。

 止めていた手を再度動かし始めた静は、提出仮題の簡単な計算問題を捌きながら、千尋にどう切り出すものかと頭の隅でぼんやりと思案する。とは言え、その手のことに疎い静にはこれといった正解を導き出すこともできず、結局のところはその場の雰囲気に任せるしかないな、と半ば諦めから溜息を吐いた。
 
「千尋、時間」

 手元のスマートフォンで時刻を確認し、千尋に声を掛けるが反応はない。どうしたものかと逡巡し、静は身を乗り出してテーブル越しに千尋の肩を揺する。程よく筋肉のついた腕は、骨と皮だけの静のものとは似ても似つかない。

「あー……またやるか~~……」

 大きなあくびと共に落とされたやる気の感じられない声に苦笑しつつ、静もまた手元の問題集へと視線を落とす。
 眠りの淵、千尋が自身に触れた指先に気付いていたことを、静は知る由もなかった。
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