ボーイズ・イン・ブルー
「……以上、瀬田兄弟の事情でした。というか、いい加減勉強しないと本当にまずい!」
千尋は取り繕ったような笑顔でバサバサと大袈裟に教科書を開いて、形だけの集中モードに突入する。
あちらにこれ以上同じ話題を続けるつもりがないのであれば、わざわざ追って追求することもない。今以上のことは、いつか千尋が話したいと思ったタイミングで話してくれればいい。
静は今でも、自分のこうしたスタンスはきっと大多数の人の目には時にひどく冷たく人間味のないものに映るのだろうと思っている。けれども、千尋曰く、それが千尋が自分のことを好きだなと思う理由のひとつらしい。そう考えると、静自身ももう少し自分のことを好きになれるような気がした。
「まずは最低限覚えなきゃいけないこと教えるから、とりあえずノートと文法のテキスト出して」
「はぁ~~~~、ほんっっっとにもう何がなんだかさっぱり……」
「気持ちは分かるけど、古文なんてある意味暗記科目だからね。文法と単語の用法だけ叩き込めば千尋でも六割は余裕で取れるよ」
「頑張ります……よろしくお願いします……」
ううう、と唸りながらいかにも渋々と言った調子でテキストを開いた千尋に、静は今度の試験範囲の要点を簡潔に伝えていく。千尋はもともと要領自体は良いので、本人の言う通り本気を出せば平均点程度を取ることはそう難しくない。にも関わらず毎回赤点を叩き出しているのは、単純に試験期間中もバンドのことで頭がいっぱいだからだ。
一通り古語文法や文意の説明を終えたところで英語、現代文と説明を続けていき、それからそれぞれの提出課題を進めることになった。
筆記具が紙の上を走る音だけが響く部屋の中で、静はちらりと向かいに座る千尋の顔を盗み見た。集中からか、普段あまり見ることのない引き締まったその表情にどきりとする。静は思わずさっと視線を下げて、頰に集まった熱が引くのを待った。
それから少し経って、千尋が「あーーーーー!」と声を上げて盛大に伸びをして課題を閉じる。
「駄目だ、眠すぎる……。ちょっと寝るから十分くらい後に起こして……」
「分かった」
時刻は十七時を回ったところだ。千尋は言うが早いか机に突っ伏してしまったので、静も少し休憩を入れることにした。
呼吸に合わせて上下する千尋の栗色の髪が何だかかわいらしく、静は無意識のうちにそっと手を伸ばす。
千尋は取り繕ったような笑顔でバサバサと大袈裟に教科書を開いて、形だけの集中モードに突入する。
あちらにこれ以上同じ話題を続けるつもりがないのであれば、わざわざ追って追求することもない。今以上のことは、いつか千尋が話したいと思ったタイミングで話してくれればいい。
静は今でも、自分のこうしたスタンスはきっと大多数の人の目には時にひどく冷たく人間味のないものに映るのだろうと思っている。けれども、千尋曰く、それが千尋が自分のことを好きだなと思う理由のひとつらしい。そう考えると、静自身ももう少し自分のことを好きになれるような気がした。
「まずは最低限覚えなきゃいけないこと教えるから、とりあえずノートと文法のテキスト出して」
「はぁ~~~~、ほんっっっとにもう何がなんだかさっぱり……」
「気持ちは分かるけど、古文なんてある意味暗記科目だからね。文法と単語の用法だけ叩き込めば千尋でも六割は余裕で取れるよ」
「頑張ります……よろしくお願いします……」
ううう、と唸りながらいかにも渋々と言った調子でテキストを開いた千尋に、静は今度の試験範囲の要点を簡潔に伝えていく。千尋はもともと要領自体は良いので、本人の言う通り本気を出せば平均点程度を取ることはそう難しくない。にも関わらず毎回赤点を叩き出しているのは、単純に試験期間中もバンドのことで頭がいっぱいだからだ。
一通り古語文法や文意の説明を終えたところで英語、現代文と説明を続けていき、それからそれぞれの提出課題を進めることになった。
筆記具が紙の上を走る音だけが響く部屋の中で、静はちらりと向かいに座る千尋の顔を盗み見た。集中からか、普段あまり見ることのない引き締まったその表情にどきりとする。静は思わずさっと視線を下げて、頰に集まった熱が引くのを待った。
それから少し経って、千尋が「あーーーーー!」と声を上げて盛大に伸びをして課題を閉じる。
「駄目だ、眠すぎる……。ちょっと寝るから十分くらい後に起こして……」
「分かった」
時刻は十七時を回ったところだ。千尋は言うが早いか机に突っ伏してしまったので、静も少し休憩を入れることにした。
呼吸に合わせて上下する千尋の栗色の髪が何だかかわいらしく、静は無意識のうちにそっと手を伸ばす。