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ボーイズ・イン・ブルー

通された千尋の部屋は、思いのほか綺麗に片付いていた。というよりも、必要最低限のものしか置かれていないという印象だ。
 所謂勉強机といった形の机と本棚、ベッド、タンスの他には大きな家具類は何も置かれておらず、あとは壁沿いにギターが三本立て掛けられているだけだった。あまり楽器のことには詳しくないので静には用途の分からないものもあるが、ギター周りの床にはエフェクターなどの細々としたものたちが転がっている。

「オレ隣からテーブルとか持ってくるから、適当にくつろいでて。床に座る感じで申し訳ないけど」
「ありがと、お構いなく」

 あまりそわそわしても失礼だろうかと思いつつ、何だか落ち着かず、静は視線を彷徨わせる。本棚には音楽情報誌や漫画本などがところせましと詰まっていて、千尋らしいなと思わず頬が緩む。
――友達の家に遊びに来るなんて、小学校低学年の頃以来かもしれないな。
 慣れないシチュエーションにふわふわと浮き出しそうな気持ちを押さえながら、静は鞄の中から参考書やペンケースを取り出した。
 そうこうしている内に千尋が小ぶりなローテーブルとクッションを手に戻ってきて、手際よく準備を済ませると、今度は台所までコップや皿を取りに行くと言って再び部屋を出た。
 スーパーの袋から買ってきたジュースやら何やらを邪魔にならない程度にテーブルと床に並べ終えた静は、それ以上特にできることもないので、千尋の用意してくれたクッションの上に蹲る。そして、ふと視線を上げた先の勉強机の上に、一枚の写真が飾られていることに気が付いた。写っているのは幼い千尋と、先ほど玄関で擦れ違った千尋の兄だ。
――千尋、お兄さんに対して妙にそっけない感じだったな。
 数分前の千尋の態度を思い出す。この写真を見る限りでは仲の良さそうな兄弟に見えるのだが、どうにも二人の間に流れていた空気はどこか尖っていたように感じられて、静の疑問はむくむくと大きくなるばかりだった。

「お待たせ。じゃあぼちぼちやりますか~」

 背後から声を掛けられ、ハッと我に帰る。

「色々準備してもらってごめん。まずは古文でもやる?前回一番まずかったって言ってたよね」

 静がそう提案すると千尋は「うげぇ」と思いきり顔をしかめ、仕方がないという様子でテキストの類をローテーブルの上に積み上げていく。

「あー、古文はマジでヤバかった。そして今もヤバい。……でもその前に、ちょっと十分くらい時間ちょうだい」
「何?」
「オレ、兄貴にずっと嫉妬してんだ」

 千尋から告げられた予想外の言葉に、静は黙って頷いた。
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