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ボーイズ・イン・ブルー

 校門を出てから30分ほどで、住宅地の一角にある一軒家へ到り着いた。
 千尋の家庭は共働きらしく、日中は誰もいないことがほとんどなのだという。静の母親はあまり体が丈夫ではなく、外に働きに出ることはしていないので、学校から帰ればいつも静を出迎えてくれる。こうした差異を知っていくにつれ、当然のことだが、千尋と自分は全く違う環境で育ってきたのだな、と再認識する。

「お邪魔します」
「多分誰もいないし、そんな畏まらなくていいって……げっ」

 玄関の扉をくぐり、ローファーを脱ごうとしていた矢先、前に立っていた千尋が潰れたような声を出した。
 その呻きに続いて、千尋のものよりもやや落ち着いた雰囲気の、けれどもよく似ている声が奥の部屋から近づいてくる。

「あれ、誰か連れてきたんだ。珍しいね」
「……なんでいんの?早くない?」
「教授が風邪ひいて休講になったから、一回帰ってきたんだよ。シフト入ってるから、もう出ないとだけどね」

 千尋の肩越しに顔を出すと、千尋と同じ髪色の穏やかな雰囲気の青年がこちらに視線を向けているのが見えた。二人の会話から察するに、どうやらこの時間に家にいるはずのない千尋の兄とちょうど入れ違いになったらしい。
 声がよく似ているので兄弟だとすぐに分かったが、それ以外の部分はあまり似ていないように思える。千尋がやや空気に遊ぶタイプの髪質であるのに対し、兄の方は細くさらさらとした直毛。歳のせいもあるかもしれないが、顔のつくりも大きな丸い目元が印象的な千尋よりも落ち着いている。「綺麗」という形容詞はあまり男性に使われるものではないかもしれないが、あえてそう形容したくなるような、柔和な顔立ちだった。
 目が合った途端柔らかく微笑まれて、不躾に見過ぎただろうかと、静は慌ててぺこりと頭を下げる。

「あの、お邪魔します。……滝沢静です」
「千尋から聞いてるよ。俺――」 
「兄貴、バイト遅れんじゃないの」

 自分に向けられたものではなかったけれど、刺すように鋭く発せられた千尋の声にどきりとする。

――この感じ、多分前にも聞いたことがある。

 二人で出掛けた初めての休日に、静が兄弟の話題を振った時と同じ反応だった。

「……うん、そうだね。じゃあ、俺は出掛けるけど、静くんはゆっくりしていってね」

 擦れ違った千尋の兄に再び会釈をし、静は千尋の顔を見上げる。閉じた扉の先を、千尋は痛いほどに見つめていた。
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