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ボーイズ・イン・ブルー

千尋の告白を受けてからも、日々は拍子抜けするくらい平坦に過ぎていった。
昼休みになれば千尋が重箱のようなサイズの弁当箱を持ってやってきて、梶ヶ谷と三人でくだらない話をする。週末になれば美術室で千尋のギターと歌を聞きながら絵を描いて、また月曜日……といった具合である。

あの日のあの時間は嘘だったのではないかと思うほど、千尋の態度にこれといった変化は見られない。それはとてもありがたいことのはずなのに、心のうちには腑に落ちていないと主張する自分もいて、静自身、自分がどうしたいのか未だによく分かっていなかった。

――千尋、自分から俺のこと好きだって言ったわりには本当に何もしてこないな。

千尋は自分のことが好きだという。それも、恐らく友愛の情ではなく、性的な意味で。そこまで考えて、静の頬にかっと熱が集まる。
これではまるで自分が何かを期待しているみたいだと、ぶんぶんと大きく頭を左右に振った。

放課後の美術室で中身の少なくなっているホリゾンブルーのチューブと格闘していると、グラウンドの野球部のノックの音に交じって、隣の音楽準備室から微かな歌声が静の耳に届いた。
夏はまだまだ終わってくれそうになく、今日も今日とて湿度がひどい。少しでも風を通すべく、きっとドアを開けたまま練習しているのだろう。

――やっぱり、千尋の歌、好きだな。

聞こえてくるメロディはところどころ音程が不確かで、度々万人が「上手い」と口を揃えるようなものではない。けれども、静はそのまっすぐで曇りのない歌声がとても気に入っている。

自分は、千尋と同じ気持ちで彼に向き合うことができるだろうか。
それはきっと、自分一人では見つけることのできない答えであるような気がする。

「何一人で百面相してんの」

不意に掛けられた声に、静の肩が跳ねる。見れば、やや呆れ顔の梶ヶ谷がドアにもたれて立っていた。今日の相手は千尋ではなかったものの、定番化しつつあるシチュエーションに静は思わず苦笑する。

「急に来るからびっくりした。練習は?」
「今休憩中だから抜けてきた。今ちょっといい?」

言うが早いか、梶ヶ谷は返事を待たずに静の隣へ腰を下ろす。
梶ヶ谷は千尋の気持ちを知っていたのだろうか――静がそう思案する間もなく、梶ヶ谷は口を開いた。

「あいつさあ、もう滝沢に手出した?」

思わずぎょっとして目を見開くと、「その反応はまだか」と抑揚なく告げられる。そこには揶揄の色はなく、あくまで淡々と落とされた爆弾に静の目の前でちかちかと星が弾ける。
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