このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ボーイズ・イン・ブルー

「オレが好きなのは、シズだよ」

 唇が震えて、うまく言葉を紡ぐことができない。面と向かって好意を伝えられたことなんて今この瞬間が初めてで、まるでミキサーに掛けられたように頭が混乱している。
 けれども、その一方で、今までのすべての辻褄が合ったような氷解もある。千尋が自分のことを好いている――その事実を理解した途端、自分に向けられていた千尋の言動が好意からのものだったという事実に安堵している自分もいて、己の浅ましさに驚きさえ覚えた。

 千尋の気持ちは素直に嬉しいし、自分のような存在を好いてくれてとてもありがたいと思う。ただ、だからと言って自分が千尋と同じ気持ちを返せるかどうか、その自信がなかった。
 静とて、千尋のことは友人として好ましく思っているし、彼をきっかけにまた新たな友人ができたり、たくさんのものを貰っていると思う。できることなら、これからもずっとこの関係を続けていけたら――そうは思うものの、自分が一体千尋とどんな風になりたいのか、その答えが分からない。

「びっくりさせてごめん。すぐに答えが欲しいって訳じゃないし、難しいかもしれないけど、今までみたいに友達でいてくれたら嬉しいな~……なんて」

 千尋の声にはたと我に帰り、頭でっかちな思考に囚われていた意識を目の前の現実に引き戻す。千尋の照れ笑いに少しの寂しさが潜んでいるのが分かって、無性に申し訳ない気持ちになる。何か言わなければと焦って口を動かした結果、ぶつ切りの言葉たちがみっともなく吐き出された。

「ごめん、俺、全然分かってなくて。でも、俺、ちゃんと考える、から」
「ほんとごめん、オレ別に言うつもりとか全然なくて。でもなんかこう、ぐわーっとなって、言わずにはいられなくなっちゃって……。でもほんと、気にしないで……ってのは無理かもしんないけど、気遣ったりしなくていいから」

 千尋は早口にそう言い放つと、「じゃ、みんな待ってるから、オレ行くね」とギターを担いだ。
 あっと声を上げる間もなく、千尋は静の頭にぽん、と軽く手を置いて、すぐに駆け足で遠ざかっていく。届けるべき言葉を探してばかりの静には、扉の向こうへと吸い込まれていく背中をぼんやりと見送ることしかできなかった。
23/50ページ
スキ