ボーイズ・イン・ブルー
「おっ、このバンド新譜出してたんだ。シズ好きだったよね。もう聞いた?」
これでもかというくらい冷房のフル稼働している店内で、千尋が一枚のCDケースを手に取った。
「まだ。……あ、こっちは千尋が前話してたやつだよね。こんなのも置いてるんだ」
「実はかっちゃんから品揃え神がかってたって聞いて誘ったんだけどさ?。マジでヤバいよね」
そう目を輝かせてあちこち駆け回っている千尋は、まるで玩具を前にした犬のように素直だった。目についた全てのディスクに大げさに反応するその様子がおかしくて、静は綻んだ口元を手のひらで押さえる。
「千尋、子どもみたいだ」
「いやこれはコーフンするでしょ!ネットで買ったりしなくていいしめちゃくちゃ便利じゃん……もっと早く来ときゃ良かったな??」
「それは同感」
たたた、と軽やかに進んでいく千尋の後ろをゆっくりと着いていきながら、店内を見回す。自分たちの普段聞いているバンドの中にはメジャーデビューしていないものも多く、ここまで品揃えが豊富なショップはなかなか見つけられないから、千尋がはしゃぐのも当然と言えば当然だった。
ふと、インディーズバンドを特集した棚に目が留まる。陳列されているケースの中に、見覚えのある一枚があった。
これ、千尋が前に好きだって言ってたやつだ。
澄んだ海が一面に広がる爽やかなジャケットイラストに惹かれ、気付いた時には手に取っていた。友人とこうして買い物に来るなどほとんど初めての経験で、財布の紐が緩くなっていることは否定できなかったが、静はそのまま入り口付近のレジカウンターへと踵を返した。
「あっシズ何か買ってる!?ずるい!」
店員の「ありがとうございましたー」という気だるげな挨拶を聞きつけて、千尋が一目散に駆け寄ってくる。
「ね、何買ったん?俺の知ってるやつ?」
「…………秘密」
「えーっ、何ソレ!そんなんめちゃくちゃ気になるんですけど~?」
駄々っ子のように全身をばたつかせる千尋に、もう一度「恥ずかしいから秘密」と本心を告げる。
千尋はやがて諦めてくれたらしく、伸びっぱなしになった静の髪を軽くかき混ぜた。
「じゃ、シズが言っても良いって思った時に教えて」
そう笑った顔はいつもと変わらないはずなのに、伸びてきた腕が触れた頭のてっぺんが妙に熱くなって、静は小さく頷くことしかできなかった。
これでもかというくらい冷房のフル稼働している店内で、千尋が一枚のCDケースを手に取った。
「まだ。……あ、こっちは千尋が前話してたやつだよね。こんなのも置いてるんだ」
「実はかっちゃんから品揃え神がかってたって聞いて誘ったんだけどさ?。マジでヤバいよね」
そう目を輝かせてあちこち駆け回っている千尋は、まるで玩具を前にした犬のように素直だった。目についた全てのディスクに大げさに反応するその様子がおかしくて、静は綻んだ口元を手のひらで押さえる。
「千尋、子どもみたいだ」
「いやこれはコーフンするでしょ!ネットで買ったりしなくていいしめちゃくちゃ便利じゃん……もっと早く来ときゃ良かったな??」
「それは同感」
たたた、と軽やかに進んでいく千尋の後ろをゆっくりと着いていきながら、店内を見回す。自分たちの普段聞いているバンドの中にはメジャーデビューしていないものも多く、ここまで品揃えが豊富なショップはなかなか見つけられないから、千尋がはしゃぐのも当然と言えば当然だった。
ふと、インディーズバンドを特集した棚に目が留まる。陳列されているケースの中に、見覚えのある一枚があった。
これ、千尋が前に好きだって言ってたやつだ。
澄んだ海が一面に広がる爽やかなジャケットイラストに惹かれ、気付いた時には手に取っていた。友人とこうして買い物に来るなどほとんど初めての経験で、財布の紐が緩くなっていることは否定できなかったが、静はそのまま入り口付近のレジカウンターへと踵を返した。
「あっシズ何か買ってる!?ずるい!」
店員の「ありがとうございましたー」という気だるげな挨拶を聞きつけて、千尋が一目散に駆け寄ってくる。
「ね、何買ったん?俺の知ってるやつ?」
「…………秘密」
「えーっ、何ソレ!そんなんめちゃくちゃ気になるんですけど~?」
駄々っ子のように全身をばたつかせる千尋に、もう一度「恥ずかしいから秘密」と本心を告げる。
千尋はやがて諦めてくれたらしく、伸びっぱなしになった静の髪を軽くかき混ぜた。
「じゃ、シズが言っても良いって思った時に教えて」
そう笑った顔はいつもと変わらないはずなのに、伸びてきた腕が触れた頭のてっぺんが妙に熱くなって、静は小さく頷くことしかできなかった。