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ボーイズ・イン・ブルー

 写真を撮られることは、あまり得意ではない。
 幼稚園のお遊戯会も、小学校の林間学校も、中学の修学旅行の時も、レンズの前でうまく笑えた試しがないのだ。屈託のない笑顔で写っている同級生の隣のぎこちない表情を見ているうちに、すっかりシャッターを切る音に敏感になってしまった。

「……撮られるの、あんまり好きじゃなくて。後で消しといて欲しいんだけど」
「えっ、なんで?」
「写真写り、悪いから。俺、目つき悪いし。そのせい」

 ややぶっきらぼうに吐き出された静の自虐的な発言は、どうやら千尋には少しも響いていないらしい。ぱちぱちと不思議そうに目を瞬かせて、千尋は静の目の前にずい、と液晶を突き出した。

「これ見てみ。ちゃんとキレーに撮れてるよ」

 半信半疑のまま、差し出されたスマートフォンの画面に焦点を合わせる。四角いフレームに映っていたのは、初めて出会う横顔だった。
 
「……誰?」
「いや、シズしかいないから!」
「俺、こんな顔できるんだ。知らなかった」

 鏡の中では終ぞ見たことのないような、自然な笑顔を浮かべる自分の姿。全くもって見慣れないその面差しに、恥ずかしさの前におかしな感心が先に立った。
 きっかけは、あの日たまたま選んだに過ぎない一曲だ。そんな細やかな出会いから、今、見える世界がどんどん新しくなっていく。

「オレらと一緒の時、わりとよく笑ってると思うけどなー」
「そういうの、自分じゃ分からないし」
「ま、そりゃそうだけど。でも、ちゃんと楽しいって思ってるんだろうなーって、顔に出てるから分かるよ」
「梶ヶ谷はともかく、千尋にまで心読まれてるって、なんだかな……」

 そう答えながら口角をむにむにと両手でこねると、千尋が「何してんの?」とけらけらと笑った。ただそれだけのことなのに、胸の奥の方に明かりが灯ったような心地がする。
 体の内側から突き上げるようなこの感情を、一体何と呼べばいいのだろう。遅れてやってきた含羞を誤魔化すように、静は自身のスマートフォンの液晶を覗いた。
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