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ボーイズ・イン・ブルー

「……は?」

 一体何を言われるかと身構えていたところに随分と控えめな誘いを寄越されて、静は思わず頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。

「え、それだけ……?」
「……それだけです…………」

 恐らく、今自分は「きょとん」という擬音がぴったりすぎるくらい間抜けな顔をしているだろう。千尋はと言うと、何やら耳まで真っ赤になって、顔を覆った指の隙間から静を見下ろしていた。

「緊張して損した。そんなの行くに決まってるし、そんなに溜める必要ないと思うけど」
「いや、この間のタイミングで誘ったらさ、かっちゃんも一緒に……ってことになるかもしれないじゃん」
「……? 俺は別に梶ヶ谷が一緒でも構わないけど」

 こうして千尋に追いつけないでいると、何だかこの場所で初めて出会った春の日のことを思い出す。脳内に疑問符ばかりを並べたまま返事をすると、千尋が「だから~~」と足をばたつかせて落ち着かなさそうに前髪をいじる。

「オレはシズと二人で行きたかったの!かっちゃんとは別にいつも会ってるしさ~……」
「二人で……」

 感情が置いてきぼりになったまま鸚鵡返しするばかりの静を、千尋はやや恨めしそうに見つめていた。
 千尋がここまで大げさな反応を見せる理由は掴みかねているものの、その申し出は素直に嬉しく思う。
 
 梶ヶ谷と三人でいる時と、千尋の言うように二人で、という場合とでは、何と言うべきか、楽しさの質や種類みたいなものが違うような気がする。確かに、これまで千尋とどこかへ出掛けたりしたことはなかったし、一日掛けて二人でゆっくりぶらぶらするという休日は魅力的だった。

「ありがとう。楽しみにしてる」

 そう言いながら目線を軽く上げると、まだどこかぐらぐらとしているように見える千尋と目が合った。自分でも気が付かないくらいに自然な方法で、静の唇がやわらかな弧を描く。
 すぐに気恥ずかしくなって視線を戻し、あとはただ窓を打つ雨の雫の音を聞いた。とっとっ、と規則的に鳴るその音の合間に、不意に小気味のいい破裂音が響く。カメラのシャッター音だ。
 
 まさかと思い顔を上げると、スマートフォンのカメラを向ける千尋が「あっ」と声を上げた。

「ごめん、何か反射的に撮ってた」
「何それ……」

 当の本人の戸惑い交じりの表情に毒気を抜かれ、脱力した声が出た。瞬間的に強張っていた静の肩からふっと力が抜ける。
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