生意気な年下にうっかり惚れられまして。
数ヶ月前に遡る。
桜が散り、緑葉が生い茂る季節。
恋人から今夜会いたいとの連絡に、少し華やか目のワイシャツに腕を通した。
2つ下の彼女は、合コンで知り合った小動物のような子で、リスのようなくりっとした目が愛らしかった。
週初めなのであまり遅くはなれないが、ゆっくり食事をしながら話すのもいいなと少しだけ心が暖かくなる。
椋太の住んでいる街から会社へは電車で2駅。
混雑とは反対方向の電車で、ゆったりと通勤する。
椋太の勤める会社は、ショップやホテルなどを含む複合施設のオフィス棟にある。
会社最寄りの駅を降り、太陽が差し込む吹き抜けのエスカレーターを登ると、地上54階建ての大きなオフィスビルが目の前に現れた。
真っ直ぐオフィスには向かわず、ビル左奥にあるブーランジェリーに足を伸ばす。
本当は自宅で朝ご飯を食べるのが良いのはわかりながらも、始業前にデスクでパンとコーヒーを飲みながらメールチェックするのが習慣だった。
足しげく通ううちに顔見知りになったえくぼのかわいい店員が笑顔で迎えてくれる。
「あれ、髪切った」
「え、よく気づきましたね!」
恥ずかしそうに手を頬に当てる仕草に思わず微笑む。
「短いのも似合うね、夏っぽい感じで好きだな」
「もー、いつもそんなこと言うんだから。さ、今日のオススメは季節野菜のフォカッチャですよ、買って下さい」
照れ隠しのような気軽なやり取りのあと、勧められた新作のフォカッチャを手にとり、オフィスへと向かった。
一通り営業先へのメールを済ませた頃。
プロジェクトのメンバー初顔合わせとなるキックオフ・ミーティングのため、大きなモニターのある社員用会議室へ集まった。
「――……」
鋭い視線を感じて振り返ると、浅黒い肌の大柄な男が、つり気味の大きな目をこちらに向けていた。
ややもすると怒っているようにも見える表情に、椋太はどきりとする。
洗いざらしのざっくりとしたTシャツにデニムと、スーツ姿の自分とは異なるかなりラフな格好。
邪魔にならないようにといった程度の短めの髪は、頭の形の綺麗さを際立たせている。
スポーツでもやっているのか筋肉がうっすらと隆起した、綺麗な逆三角形の体がTシャツから透けて見え、つい見つめてしまう。
エンジニア系の社員は大概そういった格好か、大きめのワイシャツにチノパンといった姿が多く、普段であれば気にも留めないはずだった。
「――っ」
つい見つめ返してしまったことに気づき、誤魔化すように椋太は綺麗に染められたアッシュブラウンの髪をくるりとつまんだ。
(あんなやついたっけか――)
桜が散り、緑葉が生い茂る季節。
恋人から今夜会いたいとの連絡に、少し華やか目のワイシャツに腕を通した。
2つ下の彼女は、合コンで知り合った小動物のような子で、リスのようなくりっとした目が愛らしかった。
週初めなのであまり遅くはなれないが、ゆっくり食事をしながら話すのもいいなと少しだけ心が暖かくなる。
椋太の住んでいる街から会社へは電車で2駅。
混雑とは反対方向の電車で、ゆったりと通勤する。
椋太の勤める会社は、ショップやホテルなどを含む複合施設のオフィス棟にある。
会社最寄りの駅を降り、太陽が差し込む吹き抜けのエスカレーターを登ると、地上54階建ての大きなオフィスビルが目の前に現れた。
真っ直ぐオフィスには向かわず、ビル左奥にあるブーランジェリーに足を伸ばす。
本当は自宅で朝ご飯を食べるのが良いのはわかりながらも、始業前にデスクでパンとコーヒーを飲みながらメールチェックするのが習慣だった。
足しげく通ううちに顔見知りになったえくぼのかわいい店員が笑顔で迎えてくれる。
「あれ、髪切った」
「え、よく気づきましたね!」
恥ずかしそうに手を頬に当てる仕草に思わず微笑む。
「短いのも似合うね、夏っぽい感じで好きだな」
「もー、いつもそんなこと言うんだから。さ、今日のオススメは季節野菜のフォカッチャですよ、買って下さい」
照れ隠しのような気軽なやり取りのあと、勧められた新作のフォカッチャを手にとり、オフィスへと向かった。
一通り営業先へのメールを済ませた頃。
プロジェクトのメンバー初顔合わせとなるキックオフ・ミーティングのため、大きなモニターのある社員用会議室へ集まった。
「――……」
鋭い視線を感じて振り返ると、浅黒い肌の大柄な男が、つり気味の大きな目をこちらに向けていた。
ややもすると怒っているようにも見える表情に、椋太はどきりとする。
洗いざらしのざっくりとしたTシャツにデニムと、スーツ姿の自分とは異なるかなりラフな格好。
邪魔にならないようにといった程度の短めの髪は、頭の形の綺麗さを際立たせている。
スポーツでもやっているのか筋肉がうっすらと隆起した、綺麗な逆三角形の体がTシャツから透けて見え、つい見つめてしまう。
エンジニア系の社員は大概そういった格好か、大きめのワイシャツにチノパンといった姿が多く、普段であれば気にも留めないはずだった。
「――っ」
つい見つめ返してしまったことに気づき、誤魔化すように椋太は綺麗に染められたアッシュブラウンの髪をくるりとつまんだ。
(あんなやついたっけか――)