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生意気な年下にうっかり惚れられまして。

「……怖いな、アンタ」

口ではそう言いながらも、澤村の口元は薄く笑んでいる。

(……笑った)

自然と椋太の顔にも柔らかい微笑みが浮かんだ。

あれ以来、椋太が何度か匂わせても、困ったような表情をするだけだった。
今まで相手にそういった態度を取られることがなかった椋太は、初めて焦れるような思いをしたのだ。

(まあ急に手のひら返した俺が信用ならないのはわかるけどな、自分で言うのも何だが態度は軽いし)

論理的にわかっていても、この澤村の笑みは椋太にとって特別だった。

「俺美味しいものはとっとく方だから、ちょっと飲むの我慢しよーっと」
「なんだそれは」

呆れたような口調だが、やはり澤村は小さく笑った。

一次会が終了し、すっかりと酔いの回った面々は二次会の算段をしている。
事業部長は流石に現場の皆で楽しみなさい、と二次会費用を手渡しさらに盛り上がる中、椋太は口を挟んだ。

「あーごめん。なんか澤村酔っぱらっちゃったみたいでさ、俺送ってくわ」
「……っ?!」

突然の展開に声は出さずとも目を見開く澤村の脇腹を小突きながら、合わせろ、と小さく命令する。

「あー珍しく飲んだ?疲れてんのかねぇ、あまり酒に弱いってほどじゃあないとは思ってたが」

井村が意味深にニヤリと笑うが、椋太は綺麗な笑顔でねじ伏せる。

「俺もびっくりしましたよ、澤村顔色変わらずに落ちるんですから」

合わせるようにうーん、と唸りながら澤村がその大きな体を椋太に預ける。

(……あとで謝ろ)

流石に申し訳ないと思いながらも皆と別れてタクシーに乗り込んだ。

車窓の外を燦めく街の灯りが流れていく。
一緒に過ごしてきた時間が再び過ぎていくような妙なノスタルジーを感じる。
今まで二人が歩んできた道を足早に振り返りながら、そのまま未来へと向かっているような不思議な感じを味わう。

今までとはちがって妙な緊張感を椋太は感じていた。

「……何やらせるんだ」

澤村は呆れた顔で眉をしかめる。

「ごーめーん。じゃないとあの人ら、朝まで返してくれないっしょ」
「まあ、そうだな」

そこは納得したのか澤村も素直に頷く。

「なんか、良かった。いろいろ」

楽しく酔っ払ったメンバーを見て、いろいろと一段落がついたのだな、と改めて椋太は実感していた。
二人の関係も、彼らと一緒に進んできたのだからこその安堵と充実した達成感が心を満たしていた。

「ああ」

小さい同意は、同じ時間、濃厚な時を共に過ごしてきたからこその重みを持って椋太の胸に溶け込む。

そっとミラーから見えない位置で澤村の手に指を絡めた。
びくりと一瞬抵抗があったものの、そのままにしてくれる澤村の優しさがじんわりと心を温めていく。
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