生意気な年下にうっかり惚れられまして。
5社ほどクライアントへの連絡をすませ、特に大口のクライアントには訪問して担当者に説明する等を無事終えて帰社したころには、すでに空は薄暗く紫と橙のグラデーションを描いていた。
現時点では質問程度の問い合わせはあるものの、特にシステムも問題もないようで、ほっと安堵の胸をなでおろした。
「まあ、今はクライアントもテスト運用で本格運用は先だろうし、とりあえずは今日は大丈夫そうだな」
「……ということは?」
「打ち上げしますか!」
お調子者の井村の声に、わっと場も盛り上がる。
「よし、頑張ってくれたから今日はみな財布の心配はしなくていいからな」
上機嫌な事業部長の鶴の一声に、さらに歓声が上がる。
大手クライアントに同行した先で、実際にシステムを触った担当が使いやすそうで良い等の賞辞を直接聞けて満足げだった。
椋太としてもかなり手応えを感じていて、これからの売り込みにも自信をもって取り組めると実感している。
(まだスタートで、それこそ俺ら営業はこれからが大変だけど……ほんと、お疲れ、みんな、俺)
喜ぶ皆の様子を、椋太は感慨深く眺めていた。
そして視線の先には、気になる大きな背中。
(澤村……今夜は覚悟しとけよ。俺はお持ち帰り率9割だからな)
拳を握ると、自然と口角が上がる。
椋太にとってはもう一つの戦いが始まるのだ。
オフィスより15分ほど歩いた場所にあるクラシックな建物。
よくランチで食べるとんかつの店の系列店は、個室で豚しゃぶなどのコース料理を食べられる、祝杯には最適なロケーションだった。
明治大正を彷彿とさせるモダンクラシックな部屋に通される。
「この、プレミアム豚づくしコースでいいかな」
「え、いいんですか?!お高いのに~」
佐東女史の目が輝く。
「1年間頑張ってくれたからね。飲み物も好きなのを頼みなさい」
「やったー!じゃあ私はにごり梅酒で」
「じゃ、俺生で。生ビールの人~~」
「はーい」
椋太はというと、狙いすましたかのように澤村の向かいを陣取った。
「澤村はビールでいいの?」
「とりあえず1杯目は」
「そういえばお前と飲むの初めてだなあ。ランチは数あれど」
「まあ、忙しかったからな」
それぞれ目の前にドリンクが置かれる。
事業部長の乾杯の音頭とともに、和気あいあいと宴会が始まった。
「……これ、なんだ?」
前菜として出されたものを不審そうに見る澤村に、思わず椋太は吹き出す。
「ポン酢ジュレだって。ゼリー状に固めてるだけだけど、食感がおもしろいんだ。こういうの食べたことない?うまいよ」
「あまり……」
不思議そうな顔をしながらも一口含むと、美味しかったのか口角が緩む。
その様子をなんだか子供の食事を見ているような気分で椋太は眺めた。
「確かに澤村ってこういう感じのお店にデートとかでは行かなそうだな」
「まあ……あまり。アンタはこういうとこばっか行ってそうだな」
少し睨むような視線に嬉しくなる。
「今度もっといい店連れてってやるよ、といっても俺は澤村が美味しいって言ってくれる店ならどこでもいいけど」
「ぶっ」
口説くような言葉に澤村が小さくむせる。
「アンタ……今ここどこだと」
「大丈夫ぜーんぜんみんな聞いてないよ」
周りを見回すと、すでにテンションが上がったメンバーがワイワイと好き勝手話している。
いつかと同じような感じだった。
「あんた、開き直ると怖いな」
「そうかな。これも俺だよ」
澤村の目を見ながら、椋太はとろけるように甘く微笑んだ。
現時点では質問程度の問い合わせはあるものの、特にシステムも問題もないようで、ほっと安堵の胸をなでおろした。
「まあ、今はクライアントもテスト運用で本格運用は先だろうし、とりあえずは今日は大丈夫そうだな」
「……ということは?」
「打ち上げしますか!」
お調子者の井村の声に、わっと場も盛り上がる。
「よし、頑張ってくれたから今日はみな財布の心配はしなくていいからな」
上機嫌な事業部長の鶴の一声に、さらに歓声が上がる。
大手クライアントに同行した先で、実際にシステムを触った担当が使いやすそうで良い等の賞辞を直接聞けて満足げだった。
椋太としてもかなり手応えを感じていて、これからの売り込みにも自信をもって取り組めると実感している。
(まだスタートで、それこそ俺ら営業はこれからが大変だけど……ほんと、お疲れ、みんな、俺)
喜ぶ皆の様子を、椋太は感慨深く眺めていた。
そして視線の先には、気になる大きな背中。
(澤村……今夜は覚悟しとけよ。俺はお持ち帰り率9割だからな)
拳を握ると、自然と口角が上がる。
椋太にとってはもう一つの戦いが始まるのだ。
オフィスより15分ほど歩いた場所にあるクラシックな建物。
よくランチで食べるとんかつの店の系列店は、個室で豚しゃぶなどのコース料理を食べられる、祝杯には最適なロケーションだった。
明治大正を彷彿とさせるモダンクラシックな部屋に通される。
「この、プレミアム豚づくしコースでいいかな」
「え、いいんですか?!お高いのに~」
佐東女史の目が輝く。
「1年間頑張ってくれたからね。飲み物も好きなのを頼みなさい」
「やったー!じゃあ私はにごり梅酒で」
「じゃ、俺生で。生ビールの人~~」
「はーい」
椋太はというと、狙いすましたかのように澤村の向かいを陣取った。
「澤村はビールでいいの?」
「とりあえず1杯目は」
「そういえばお前と飲むの初めてだなあ。ランチは数あれど」
「まあ、忙しかったからな」
それぞれ目の前にドリンクが置かれる。
事業部長の乾杯の音頭とともに、和気あいあいと宴会が始まった。
「……これ、なんだ?」
前菜として出されたものを不審そうに見る澤村に、思わず椋太は吹き出す。
「ポン酢ジュレだって。ゼリー状に固めてるだけだけど、食感がおもしろいんだ。こういうの食べたことない?うまいよ」
「あまり……」
不思議そうな顔をしながらも一口含むと、美味しかったのか口角が緩む。
その様子をなんだか子供の食事を見ているような気分で椋太は眺めた。
「確かに澤村ってこういう感じのお店にデートとかでは行かなそうだな」
「まあ……あまり。アンタはこういうとこばっか行ってそうだな」
少し睨むような視線に嬉しくなる。
「今度もっといい店連れてってやるよ、といっても俺は澤村が美味しいって言ってくれる店ならどこでもいいけど」
「ぶっ」
口説くような言葉に澤村が小さくむせる。
「アンタ……今ここどこだと」
「大丈夫ぜーんぜんみんな聞いてないよ」
周りを見回すと、すでにテンションが上がったメンバーがワイワイと好き勝手話している。
いつかと同じような感じだった。
「あんた、開き直ると怖いな」
「そうかな。これも俺だよ」
澤村の目を見ながら、椋太はとろけるように甘く微笑んだ。