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生意気な年下にうっかり惚れられまして。

二人にとっては一歩だけ前進したあの日の後。
メンバーは全員復帰し、遅れを取り戻すように一丸となって撃破していった。

追加要件の開発を終え、問題がないかデバッグ後、改めて全体的に触って感じた感想を元に細かいインターフェイスなどの修正を行い最後まで詰めていく。
同時に追加要件を含むクライアント向けの使い方や仕様などの資料を椋太が主軸となって詰めていった。

本番環境でも問題ないか等の確認を含め、リリースまで最終局面を迎えていた。

そして……季節はめぐり、また、春。
とうとうβ版としてオープンする日を迎えた。

「いやー俺眠れなかったっスよ」
「そう言う割には元気ハツラツだな」
「8時間寝たっス」
「万全じゃないか」

企画の相川のジョークと椋太のツッコミに一同が笑う。

「ほんと、どうなることかと思ったけどな……」

コーヒーを飲みながら最後にもう一度自分が作ったクライアント向けの仕様書を確認する。

この一年、いろいろあったなと椋太はぼんやりと思考を巡らせる。
初対面で印象最悪だった澤村を思い出してふふ、と笑った。

(ほんっと生意気だったな。ま、今もかわらないけど)

ちらり、と澤村の方を見ると、真剣な目にぶつかる。

「資料に問題は。今更誤字などがあっても困る」
「イチャモンしか付けられねーのかよ、澤村はっ。ばーーーっちりだぜ」
「ふ、冗談だ」

かすかな微笑みに周りの空気がざわりと震える。

「澤村くんって……笑うとそーゆー顔するんだ」
「ジョークとかいえたんだな、澤村……」

デザインの佐東女史の目がまんまると開かれている。
他のメンバーも珍しいものをみたとばかりに驚きの表情だ。

「ふ、あははははっ」

みんなの反応が面白くなって椋太が笑い出すと、周りも続いて笑いだす。

「まーいろいろあったけど、なんかこのメンバーでよかったな」

シミジミとシステムの井村が呟く。
皆も同じ気持ちなのか、笑顔を浮かべた。

「さてさて。事業部長の最終チェック終わったら、白井さん。お願いしますよ、第一期クライアントへのご連絡!」
「おう、任せとけ」

リリース前の緊張感と和気あいあいとした空気が入り交じった不思議な空間に、自然と笑みが溢れる。

「キャーーー白井さんの王子スマイルっ」
「いやアイドルスマイルだろ」

キャッキャと騒ぐメンバーたちに澤村が少し眉を顰めているのが分かる。

(うるさい、じゃなくて多分。ちょっとジェラってたりな)

確信半分、希望半分。
でも多分、澤村は変わりなく好いてくれている。そう椋太は自信とともに不敵な笑みを浮かべた。
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