▶︎ 森田 田村
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いつだってそうだった。
保乃ちゃんは私の前でだけ、独身に戻って、私の前でだけ、私の恋人やった。
「今夜は何時に帰せば良か?」
田村「ひぃちゃんと宅飲み!って言ってきたから今日はお泊まり出来んで。」
「…ふふ、やった。今日はずっと独り占めできるんやね。」
田村「ひぃだけの保乃やで。」
"今だけは" と、そう言わないのは、保乃ちゃんの優しさか、はたまた気まぐれか、分からないけれどそれでもいいと思ってしまう。
保乃ちゃんが私の傍に居てくれるのなら、この時間に縋っていたい。
田村「あ、せや、来月3日間出張入ったらしいから会えんで、会ってくれる?」
「会う。会いたい。会わん理由とかないやろ。」
田村「ふふ、なら良かった。」
1ヶ月に1度だけ触れられる甘い夢。
明日が終わってしまえば次保乃ちゃんに会えるのは来月。私たちの関係にハッピーエンドなんてきっとない。分かってる。何度も何度も終わりにしようと、そう思うのに、気が付けばまた2人で夜を迎えている。
「…、」
田村「ひい?」
「…ん?」
田村「なんかあったん?」
「んーん、なんもないよ。」
保乃ちゃんの優しい手が私の頬を包んで、保乃ちゃんの優しい瞳が私を捕まえる。
田村「…もしもさ、保乃達がもっと、もっともっと早くに出会ってたらどうなってたんかな。」
「今より幸せになってたんじゃない?」
そう言えば保乃ちゃんは困ったように笑って、私をぎゅっと抱きしめた。
私は、保乃ちゃんを知らない。
いつもはどんな顔してるのか、どんな毎日を送って、どんなことを考えているのか。
知っているのは、帰りの車を降りた後、手を振って、後ろを向いた後に付ける薬指の指輪だけ。
正解か間違いかで言えば、私たちは間違いの方で、それでも、どうしようもなく甘い保乃ちゃんの蜜から抜け出せなくて、1度味わってしまえば世間体とか、これからのこととか、そんなのどうでも良くなってしまう。
「しよっか、」
田村「ん、きて、ひぃちゃん、」
保乃ちゃんの狭くて、深い所に身を沈める。
このまま、私だけの保乃ちゃんになれば良いのに。
何度も何度も愛して、当たりが明るくなり始めてもまだ私は保乃ちゃんを愛していた。眠りに着いたのは時計の針が9を指した頃だった。
目が覚めて、隣を見れば服を身に纏い、軽く化粧を施す保乃ちゃんの姿が目に入った。
田村「ん、おはよ、ひぃちゃん。」
「おはよう。」
時刻は19時を過ぎていて、勿体ないことをしたと後悔するがもう遅い。ぼーっとしていた頭を起こして、洗面所に立つ。2本ある歯磨き、"ほの"と書かれたコンタクトケース、保乃ちゃんが使ってる化粧水達、保乃ちゃんの家には入れないものが私の部屋には溢れている。
田村「そろそろ帰らんと、」
「ん、」
洗面所にひょこっと顔を出した保乃ちゃんは、少し寂しそうな顔でそう言った。
"帰って欲しくない"
そう言えずに、黙ったまま保乃ちゃんの手を握った。
田村「ひぃちゃん?」
狭い、けれど、愛の溢れてる洗面所で、保乃ちゃんの手を引き、肩に顔を埋めた。
もしも私たちがもっと早くに出会っていても報われないって、分かっていた。
アラームが鳴る。終わりを告げるアラームが。
この音が止まったら、ちゃんと手を離そう。
保乃ちゃんから、離れよう。
「保乃ちゃん?」
田村「ん?」
「何処までも優しい保乃ちゃんが好きだったよ。」
田村「…ひぃ、ちゃん?」
涙がバレないように、声が震えないように、
この気持ちがもう届かないように、
ピピッ ピピッ ピーーッ
「終わりにしよう、保乃ちゃん。」
手を離して、距離を取る。
これでいい、これで、いいんだ。
「…これ、タクシー代。気をつけて帰ってね。」
車の鍵では無く、私の手に握られたのは1枚の紙幣。
始まりと終わりを揃えたのは最後の強がり。
あの時、保乃ちゃんを家に泊めなければ。
あの日、バーに行かなければ。
戻せるはずもない、戻したくない時間を思い出して胸が苦しくなる。
私の知らない所で、幸せになってね。保乃ちゃん。
「さよなら。」
-fin-
My Hair is Bad/綾
保乃ちゃんは私の前でだけ、独身に戻って、私の前でだけ、私の恋人やった。
「今夜は何時に帰せば良か?」
田村「ひぃちゃんと宅飲み!って言ってきたから今日はお泊まり出来んで。」
「…ふふ、やった。今日はずっと独り占めできるんやね。」
田村「ひぃだけの保乃やで。」
"今だけは" と、そう言わないのは、保乃ちゃんの優しさか、はたまた気まぐれか、分からないけれどそれでもいいと思ってしまう。
保乃ちゃんが私の傍に居てくれるのなら、この時間に縋っていたい。
田村「あ、せや、来月3日間出張入ったらしいから会えんで、会ってくれる?」
「会う。会いたい。会わん理由とかないやろ。」
田村「ふふ、なら良かった。」
1ヶ月に1度だけ触れられる甘い夢。
明日が終わってしまえば次保乃ちゃんに会えるのは来月。私たちの関係にハッピーエンドなんてきっとない。分かってる。何度も何度も終わりにしようと、そう思うのに、気が付けばまた2人で夜を迎えている。
「…、」
田村「ひい?」
「…ん?」
田村「なんかあったん?」
「んーん、なんもないよ。」
保乃ちゃんの優しい手が私の頬を包んで、保乃ちゃんの優しい瞳が私を捕まえる。
田村「…もしもさ、保乃達がもっと、もっともっと早くに出会ってたらどうなってたんかな。」
「今より幸せになってたんじゃない?」
そう言えば保乃ちゃんは困ったように笑って、私をぎゅっと抱きしめた。
私は、保乃ちゃんを知らない。
いつもはどんな顔してるのか、どんな毎日を送って、どんなことを考えているのか。
知っているのは、帰りの車を降りた後、手を振って、後ろを向いた後に付ける薬指の指輪だけ。
正解か間違いかで言えば、私たちは間違いの方で、それでも、どうしようもなく甘い保乃ちゃんの蜜から抜け出せなくて、1度味わってしまえば世間体とか、これからのこととか、そんなのどうでも良くなってしまう。
「しよっか、」
田村「ん、きて、ひぃちゃん、」
保乃ちゃんの狭くて、深い所に身を沈める。
このまま、私だけの保乃ちゃんになれば良いのに。
何度も何度も愛して、当たりが明るくなり始めてもまだ私は保乃ちゃんを愛していた。眠りに着いたのは時計の針が9を指した頃だった。
目が覚めて、隣を見れば服を身に纏い、軽く化粧を施す保乃ちゃんの姿が目に入った。
田村「ん、おはよ、ひぃちゃん。」
「おはよう。」
時刻は19時を過ぎていて、勿体ないことをしたと後悔するがもう遅い。ぼーっとしていた頭を起こして、洗面所に立つ。2本ある歯磨き、"ほの"と書かれたコンタクトケース、保乃ちゃんが使ってる化粧水達、保乃ちゃんの家には入れないものが私の部屋には溢れている。
田村「そろそろ帰らんと、」
「ん、」
洗面所にひょこっと顔を出した保乃ちゃんは、少し寂しそうな顔でそう言った。
"帰って欲しくない"
そう言えずに、黙ったまま保乃ちゃんの手を握った。
田村「ひぃちゃん?」
狭い、けれど、愛の溢れてる洗面所で、保乃ちゃんの手を引き、肩に顔を埋めた。
もしも私たちがもっと早くに出会っていても報われないって、分かっていた。
アラームが鳴る。終わりを告げるアラームが。
この音が止まったら、ちゃんと手を離そう。
保乃ちゃんから、離れよう。
「保乃ちゃん?」
田村「ん?」
「何処までも優しい保乃ちゃんが好きだったよ。」
田村「…ひぃ、ちゃん?」
涙がバレないように、声が震えないように、
この気持ちがもう届かないように、
ピピッ ピピッ ピーーッ
「終わりにしよう、保乃ちゃん。」
手を離して、距離を取る。
これでいい、これで、いいんだ。
「…これ、タクシー代。気をつけて帰ってね。」
車の鍵では無く、私の手に握られたのは1枚の紙幣。
始まりと終わりを揃えたのは最後の強がり。
あの時、保乃ちゃんを家に泊めなければ。
あの日、バーに行かなければ。
戻せるはずもない、戻したくない時間を思い出して胸が苦しくなる。
私の知らない所で、幸せになってね。保乃ちゃん。
「さよなら。」
-fin-
My Hair is Bad/綾