夢見るチョコレート
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スタッフやその他個々へのバレンタインのプレゼントを差し入れとして渡した後、次に夢見る夢子はメンバーへとプレゼントを渡しに行くことにした。
まず向かったのは星野の元だったのだが…
夢見る夢子は自分の手に収まったソレを驚いた様子で見つめていた。
「わぁー!何ですかこれ!」
彼女の手の上に置かれたのは淡いピンク色とローズ、白の不織布で巾着状に包まれたギフト。
形状は円柱で、ゴールドのリボンでキュッと縛られた不織布の縁はフワフワとまるで花びらのようで可愛らしいく、カラーのコントラストが鮮やかだ。
「すっごい可愛い~!そしてオシャレ~!」
「夢見る夢子はホント可愛い物好きだね」
数分前。
夢見る夢子はギター練習の休憩中だった星野の元へ訪れたのだが、彼は夢見る夢子の姿を見るやいなや「ちょっと良い?」と時間が有るかと訪ねてきた。
こちらとしては彼を訪ねて来たのは自分でありもちろん大丈夫だと伝え、促されるままにソファーへと座り星野を見上げた。
すると彼は部屋の棚に置いていた自身のバック からこの巾着ギフトを取り出して「どうぞ」と夢見る夢子へ渡してきたのだ。
「え!もしかして、コレ頂けるんですか?!」
「うん。じゃなきゃ渡さないでしょ」
わざわざ時間を取らせて渡したのだから上げるのが当たり前だろうと、星野は傍らにあった椅子に座りながら少し呆れたように笑ったが、夢見る夢子としてはまさかプレゼントを上げるつもりが男性である星野から逆に貰うことになろうとは思ってもみなかった為、驚きなのだ。
一瞬、「誰かから貰ったのかな?」とお裾分けを考えたが彼らはファンからのプレゼントは基本的にスタッフなどの身内で分けることはせず、きちんとメンバーで頂いていることを夢見る夢子は知っている。
つまりこのギフトはわざわざ彼が用意してくれたもので、喜びは絶えない。
「ヒデさんありがとうございます!」
「あはは、正直そこまで喜ばれるとは思ってなかった」
終始ウキウキと喜ぶ夢見る夢子の姿に見ているこちらも嬉しい限りだと、星野はのほほんと笑ってみせた。
なんとも穏やかで暖かい空気で部屋が満たされていき、ドア一枚を隔てた向こう側で他のスタッフ達が慌ただしく駆け巡っている世界とはまるで別世界の様にも感じられる。
「こういう雑貨が部屋にあるとなんか女子力あるっていうか、出来る女っぽくないてますか?」
「えー、そこまで考えたことないけど…女子力ってそんなものなの?」
「あー…いや、正直、女子力とかわかんないです」
夢見る夢子はそう言って笑うが、そんな彼女は常に周りへの気配り目配りを忘れない女性であることを付き合いの長い人間はしっかりと知っている。
それは星野も同様で、日頃から自分のずぼらさを自虐る彼女をマネージャーとしても一人の人間も信頼している。
「とりあえず可愛い物集めて綺麗にしてれば女子力なんじゃないですか?」
「それ絶対違うだろー」
女子力があーだこーだと冗談を言って笑い合う二人。
その中で、ふと夢見る夢子はあることに気が付いた。
「あれ…ヒデさん?そういえばコレ、バレンタインチョコとは思えない重みなんですが一体何を下さったんですか?」
「うーん、正確にチョコじゃないからかな?」
そう言われると一体何を貰えたのか気になる。
その場で中身を確認するのは少しはしたない気はしたが、夢見る夢子は「開けて良いですか?」と軽く断りを入れるとリボンをそっと解いてみた。
「わ!すごい!」
可愛らしいラッピングから現れたのはシンプルな真っ白な陶器のマグカップ。
シンプルではあるものの取っ手や縁にさりげない模様などデザイン性がありスタイリッシュだ。
そして、マグカップの中にはマグカップの対として同じデザインが施された陶器のスプーンが入っており、その先には美しい花の形をしたチョコレートが付いている。
温かいホットミルクなどを注ぎ、その中でスプーンを回しながらゆっくりとチョコレートが溶けていくのを楽しんで飲むショコラショー。
いわゆるホットチョコレートで、洒落たデザインと様々なフレーバーもあり、近頃人気のショコラだ。
「ちょっと洋酒入れたりするとまた良いんですよねー。しかもこんな素敵なマグで飲むって絶対美味しいです!」
すると、キラキラとした眼差してマグとショコラを眺める夢見る夢子を見て星野が言った。
「夢見る夢子が最近マグに凝ってるって聞いたから選らんだけど、気に入ったみたいで安心したよ」
「え?」
その言葉にそういえばと夢見る夢子は思い出す。
彼が話すのは恐らく3週間ほど前。
何人かのスタッフやメンバー達で行っていた打ち合わせの中で、仕事の話から何気ない世間話になった時の事。
他の女性スタッフとの話の中でカフェについての話題になった。
今時の若い女子からするとカフェ選びで重要なのはSNSに投稿する際に華やかで映えるお店のオシャレさや物珍しさなのだろうが、良い大人が集まるとやはりそれよりも落ち着いた雰囲気や珈琲の味などが重要だと話が盛り上がった。
その中で夢見る夢子は出されるカップやマグに味がある店も好きだと語った。
決して柄が綺麗とか上質な素材を使っているわけでなく、シンプルながらも何処か洗練された媚びのない物が好きで、そういった物を自宅用に探してもいた。
ついでにそれに合わせて美味しい珈琲を煎れるようにちょっと淹れ方にも凝っているとか。
「そういえば、そんなことありましたねー。ヒデさんよく覚えてましたね」
「うん、なんとなくだけど覚えてた」
話したこちらが忘れかけていた事を彼はしっかりと覚えていたとは、なんだか少し嬉しい気分になる。
しかも今まで星野からは色々世話にはなっているがバレンタインチョコなど貰ったのは初めてだ。
もしや今年は彼も自分と同様で、お世話になっている人間に配るつもりだったのだろうか。
わざわざ自分には話に合わせてマグとチョコと合わせて贈ったことからすると、他のスタッフにもそれぞれ何かとチョコを合わせて贈るつもりなのだろうか。
「ヒデさんが優しいのは重々わかってましたけどここまでされるなんて…準備大変だったでしょう?」
「…え?なんで?」
やさしい星野を労るつもりでかけた言葉だったが、返って来たのは予想外にこちらの言葉が通じてないといった不思議そうな反応だった。
「え?あ、いや、てっきり他の方にもそれぞれ合わせて贈るのかと思って…違うんですか?」
「あぁ…うん……」
星野は夢見る夢子の問いかけに「なるほど」と何か理解したような反応を見せたものの、少し悩んでいる。
何か事情があるのだろうか。
いや、そもそも大勢いるスタッフそれぞれの好みや希望に合わせてギフトを贈るとなると費用もそれを調べるのも一苦労だ。
さすがの星野でもそれは苦しいはずで、もしかするとわざわざ好みに合わせたギフトは自分や
限られた者にだけなのかもしれない。
それなら自分だって付き合いの長さなどで他のスタッフとメンバーで差を付けてしまっているのだし、周りにはなるべく贔屓してもらったことをバレないように気を付けると夢見る夢子はフォローしようとしたのだが…。
「実は夢見る夢子の分しかないんだよね」
「…へ?」
それよりも先に返ってきたのはまさかの微笑んでの言葉。
「私だけですか?あの、他のメンバーとかには?」
「あっちゃん達に俺から上げても喜ばないでしょー、むしろイジられそう」
「じゃあ他の女性スタッフとか…あ、メイクの可愛いあの女の子とか?」
「あー、なんかそんな子いたけど、そんなに親しいわけじゃないし」
まさか自分だけに用意されていたとは誰が思っていただろう。
夢見る夢子は少し鼓動が跳ねるのを感じた。
そしてまるで追い討ちの如く、星野は先程までの微笑みではなく、少し気恥ずかしそうに言うのだ。
「他の人に渡す気にはなれなくて…夢見る夢子だけに渡そうと思ってたから」
その一言で夢見る夢子の鼓動は一気に跳ね、頬が熱を持つのが自分でも分かった。
他の人には渡す気にはならず、自分だけ…。
その区別の理由は何なのか、日頃の仕事に対する感謝からなのか。
本当はその意味をなんとなく理解しているのだが、それを認める勇気と心の準備がまだ夢見る夢子にはできていない。
頭の中にはこんな時になんと言うべきか、様々な言葉がめぐるが実際は息が詰まり声も出ない。
バックの中には夢見る夢子から星野へのプレゼントも出番はまだかと待ち構えているが、この流れで渡すのは……。
しかも彼は自分だけの物を用意してくれた様だが、こちらは他のメンバーにも渡すつもりで同じ物を用意してしまっている。
頬を真っ赤にうつ向いて固まってしまった夢見る夢子だが、そんな彼女に星野はいつものように微笑んで、しかし真っ直ぐな力強い目で彼女を見つめながら言った。
「ホワイトデーにはそれで美味しい珈琲飲ませてよ」
「えっ、あの!」
そして「それじゃあね」と、困惑する彼女を置いて星野は席を立ち部屋を後にしてしまった。
頬だけでなく指先も熱い。
この熱でショコラが溶けてしまう錯覚に陥るほど、熱い。
ひとり部屋に取り残された夢見る夢子は暫くその場から動くことは出来ず、ただただ先程まで彼がいた席をを見つめることしかできなかった。
【夢見るチョコレート】