夢見るチョコレート
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スタッフやその他個々へのバレンタインのプレゼントを差し入れとして渡した後、次に夢見る夢子はメンバーへとプレゼントを渡しに行くことにした。
まず向かったのはヤガミの元だったのだが…
夢見る夢子は自分の手に収まったソレを驚いた様子で見つめていた。
「え、これ…」
彼女の手の上に置かれたのは長方形の小さな鮮やかな赤い箱。
上部にはシンプルに有名スイーツブランドのロゴが描かれている。
「まさかのバレンタインチョコですか?」
「それ以外の何だと思ったんだよ」
数分前。
夢見る夢子はドラム練習の休憩中だったヤガミの元へ訪れたのだが、彼は夢見る夢子の姿を見るやいなや傍らにあった椅子を向かいに置くと彼女をそこに座らせた。
そして前置きもなしに突如「両手を出せ」と命じてきたのだ。
とりあえずおとなしく従ってみるとヤガミはバックからこの箱を取り出して「ほらよ」と渡してきたのだ。
「これ、頂けるんですか?私に?」
「じゃなきゃ渡してないだろ」
状況としては理解しているつもりではある。
しかしまさかプレゼントを上げるつもりが男性であるヤガミから貰うことになろうとは思ってもみなかった。
最初は「誰かから貰ったのかな?」とお裾分けを考えたが、彼らはファンからのプレゼントは基本的にスタッフなどの身内で分けることはせず、きちんとメンバーで頂いていることを夢見る夢子は知っている。
また彼女が現れるとまず先にとそれを渡したことからしても、このプレゼントは彼が夢見る夢子へと贈る為に用意していた物と考えるべきなのだろう。
「わぁー……」
「お前なぁ、もうちょっと嬉しそうな反応とかないのかよ?」
淡々とプレゼントを眺めるばかりの様子にさすがのヤガミももっとリアクションが欲しかったらしく、つまらなそうな表情を見せた。
もちろん夢見る夢子は嬉しい気持ちでいっぱいだ。
しかしそれ以上に驚きが大きく素直に喜びを面に出せなかっただけなのだ。
「ありがとうございます‼凄い嬉しいです‼」
まるで意識を取り戻したかのようにハッとして改めて礼を言う夢見る夢子の表情は、それはとても晴れやかで喜びに溢れていた。
コロコロと表情が変わる彼女は本当に感じに素直で嘘が吐けない性格だと、付き合いの長い人間達は知っている。
それはヤガミも同様で、その様子に夢見る夢子が本当に喜んでいることを理解し今度は満足げに笑った。
「チョコ1つで喜びすぎだろ」
「だってアニィから最後に貰った物って地方行った時の領収書とか請求書くらいなのでぇ…」
なんて事を言うもののヤガミには飲みに連れて行って貰ったり普段から悩みを聞いて貰ったりと、世話する立場なのだが世話になることも多い。
しっかりと信頼関係が築けた上での、ちょっとした冗談の会話だ。
「ははっ!よし、それ返せ!」
「いやん、アニィせこい!…ん?」
その時、ふと夢見る夢子はあることに気が付いた。
「あれ…アニイ?そういえばコレ、なかなかの重みなんですが一体何を下さったんですか?」
「大したものじゃねえよ」
ヤガミはそう言うがあくまで贈る側から気を使わせない為の言葉という可能性もある。
その場で中身を確認するのは少しはしたない気はしたが、夢見る夢子は「開けて良いですか?」と軽く断りを入れると貰った箱を開けてみた。
「わ!すごい!」
箱の中にはまた小さなガラスのボックスが納められていて、中にはいっぱいに敷き詰められたアマンドショコラ。
ローストしたアーモンドに飴掛けし、チョコレートで包みココアパウダーをまぶした、カリッとした食感と香ばしい薫りが魅力のショコラ。
甘過ぎないことと良い、摘まみやすいことと良い、よく食べ過ぎてしまう癖がある。
すると、キラキラとした眼差してショコラを眺める夢見る夢子を見てヤガミが言った。
「そんな気に入ったか。この間、アーモンドがどうとか熱弁してたもんな」
「え?」
その言葉にそういえばと夢見る夢子は思い出す。
彼が話すのは恐らく3週間ほど前。
何人かのスタッフやメンバー達で行っていた打ち合わせの中で、仕事の話から何気ない世間話になった時の事。
他の女性スタッフとの会話から美容の話になり、その中で最近は間食にナッツが流行という話になった。
その際に、夢見る夢子はアーモンドには美容効果も高くダイエットなどにも効果的という話をしたのだ。
熱弁はしたつもりではなかったが、美容関係の話題でもあったし彼女自身が単にアーモンド好きということもあった為か無意識に話に力が入ってたしまったのかもしれない。
「そういえば、そんなことありましたねー。アニイ、よく覚えてましたね」
「なんとなくで話した内容までは覚えてないけどな」
話したこちらが忘れかけていた事を彼はしっかりと覚えていたとは、なんだか少し嬉しい気分になる。
しかも今までヤガミからは色々世話にはなっているがバレンタインチョコなど貰ったのは初めてだ。
もしや今年は彼も自分と同様で、お世話になっている人間に配るつもりだったのだろうか。
まるでジュエリーボックスのようなガラスのボックスは女性受け抜群だろう。
「これならきっと他のスタッフ達も喜びますよ。アニィ、今年のバレンタインはモテるの狙いとかですか~?」
「……はぁ?」
これもあくまで冗談でのつもりの発言だった。
しかし帰って来たのは予想外にヤガミの本当に不思議そうな反応だった。
「え?あ、いや、てっきり他の方にも同じものを上げるのかと思って…違うんですか?」
「あぁ……いや、違うも何も…なぁ…」
ヤガミは夢見る夢子の問いかけに少しばつが悪そうな反応を見せた。
何か事情があるのだろうか。
確かにこのアマンドショコラは有名店の品物といい綺麗なガラスボックス付きといい、そこそこ値の張る物だろう。
これをスタッフ全員分となると、さすがの兄貴なヤガミもツラいはずで、つまりマネージャーという立場的に自分だけ少し良いものを貰ってしまったのだろか。
それなら自分だって付き合いの長さなどで他のスタッフとメンバーで差を付けてしまっているのだし、周りにはなるべく贔屓してもらったことをバレないように気を付けると夢見る夢子はフォローしようとしたのだが…。
「他の奴もなにも、夢見る夢子の分しかない」
「…へ?」
それよりも先に返ってきたのはまさかの笑顔での返答。
「私だけですか?あの、他のメンバーとかには?」
「おいおい。野郎にやって何が楽しいんだよっ」
「じゃあ他の女性スタッフとか…あ、メイクの可愛いあの女の子とか?」
「あー、確かに可愛い姉ちゃんいたな。でも、無くてソレだけだ」
まさか自分だけに用意されていたとは誰が思っていただろう。
夢見る夢子は少し鼓動が跳ねるのを感じた。
そしてまるで追い討ちの如く、ヤガミは先程までの明るい笑顔と違い、少しはにかんだように笑い言うのだ。
「お前だけっていう、まぁ……そういうことだ」
その一言で夢見る夢子の鼓動は一気に跳ね、頬が熱を持つのが自分でも分かった。
そういうこととは、どういう事だ!
なんとなく意味は理解しつつ、心の中でそう叫んでみるものの、実際は声が詰まり言葉も出ない。
バックの中には夢見る夢子からヤガミへのプレゼントも出番はまだかと待ち構えているが、この流れで渡すのは……。
しかも彼は自分だけの物を用意してくれた様だが、こちらは他のメンバーにも渡すつもりで同じ物を用意してしまっている。
頬を真っ赤にうつ向いて固まってしまった夢見る夢子だが、そんな彼女の頭にぽんっとヤガミの大きい手が置かれた。
「んじゃ、ホワイトデー楽しみにしてるぜ」
「ちょっ、あの!」
そのまま軽く頭を撫で、困惑する彼女を置いてヤガミは席を立ち部屋を後にしてしまった。
頬だけでなく指先も熱い。
この熱でショコラが溶けてしまう錯覚に陥るほど、熱い。
ひとり部屋に取り残された夢見る夢子は暫くその場から動くことは出来ず、先程まで彼がいた席を見つめることしかできなかった。
【夢見るチョコレート】