夢見るサバイバル
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昔と比べて『自宅でゆっくりテレビを見る』という習慣がなくなってきたと思う。
それは時間も不規則な仕事柄故ということもあるが、それに加えて必ず見たいというテレビ番組が少なくなってきたのも要因だと思う。
そんな中、最近の夢見る夢子が唯一楽しみにしているものがある。
「海外のドラマなんですけど、ゾンビだらけの世界を主人公と仲間達で生き抜いていくっていうサバイバルドラマが面白いんですよ」
「あー、知ってる。あれってもう何シーズンも続いてるけど人気だよね」
レコーディングスタジオの休憩室にて、夢見る夢子とそんな会話をするのはメンバーの中で一番に休憩に上がってきた樋口。
椅子に座るやいなや置いてあった新聞に目を通しつつ、彼も夢見る夢子の言うドラマは知っているらしく会話は続く。
「はい。ただ最近は人間ドラマの方が重点的になっててゾンビの扱い雑なんですよね~」
「雑って?」
「ゾンビサバイバルドラマなのにゾンビが全く出てこない回が続く」
「え、出ないんだ」
「と、思ったら数百匹くらいバーって出てくる」
「え、出てくるんだ」
「それがもう、ゾンビの存在忘れてたからとりあえず出しておけ感が凄くて…」
アメリカではドラマの視聴率事情は日本よりもシビアらしく、どんなに人気なドラマも少しでも視聴率が悪くなると問答無用で打ち切りになるらしい。
今シーズンは現地でもなかなか渋い評判だったということもあり、夢見る夢子としてはせっかく見つけたお気に入りの番組が打ち切りにならないか心配で仕方ない。
「滅茶苦茶強かったり、ありえない生還した初期メンバーもどんどん脱落してるんですよ」
「ありがちな展開だなー」
「そこで、ちょっと思ったんですけど……」
ふと、夢見る夢子が会話に間を置いた。
実は彼女にとってこのドラマについての話題はあくまで前振りであり、本当に話したかった話題はこれからだ。
樋口にも何かそれらしい雰囲気が伝わったのか、自然と新聞を閉じると彼女へと視線を向けている。
そんな中で語られる話とは……
「ユータさんは、ゾンビパニックで私達の中だと誰が一番生き残りそうと思います?」
「……夢見る夢子ってたまにワケわからないこと言い出すよね」
勿体振っておいて話の内容はまさかの小学生レベルの『もしも話』。
こういったファンタジーな話の流れではありがちな話題ではあるが、いざ言われて見るとアホらしいとさすがの樋口も呆れた様子だ。
「えー、そういうドラマ見てたら『自分だったら…』とか考えませんかー?」
「考えたことはあるけど、何で俺達なの」
「ほら、あれですよ。現実の日常とBUCK-TICKという一般人からすると非日常な両方で生きてる皆さんだからこそというか…」
「いや、わけわかんないよ。でも、まぁ…そうだなぁ…」
とは、言いつつも新聞に視線を戻すこともなく戯言と流さず会話をする辺り、彼もこういった下らない話は嫌いではないようだ。
「んー……最終的にあっちゃんがゾンビを支配する」
「マジに魔王じゃないですか」
「あと、ヒデは誰か庇って犠牲になる」
「そんな!ヒデさんが!」
「え、何?俺?」
「「あ、ヒデ(さん)」」
思いの外、話が盛り上がってきた所で部屋に現れたのは星野英彦その人で、ギター組で音合わせでもした後に来たのだろうか、後ろに今井も続いて現れた。
二人は樋口と夢見る夢子が何を盛り上がっているのかと不思議そうで、特に部屋に入った瞬間に己の名前を悲痛な表情で呼ばれた星野に至っては驚いている。
「二人で何してんの」
「今井さん、実は今ですね、ユータさんとゾンビパニックで誰が一番生き残るかという話になってまして……」
「仕事しろよ」
「あぅ……」
普段マイペースな今井からド正論な痛恨の一言に夢見る夢子は大ダメージ。
そもそも、こんな会話を始めたのもメンバーがスタジオ入りする中で彼女は休憩室でマネージャーとしての事務処理をしていたのだが、それが大量の為に苦痛となりつつあって現実逃避からの行動だった。
しかしそこへ樋口はすかさず助け船を出してきた。
「まぁ、休憩中ってことでしょ。今井君はどう思う?」
「ん?んー……」
条件反射というもなのだろうか。
いざいきなり話を振られると、今井も席に腰を降ろしつつ、自然と二人に合わせて考え込みだしてしまったではないか。
それに釣られるように星野も椅子に座ると、同じように考えているのか首を傾げている。
そんな二人の姿に夢見る夢子は微笑ましく思いつつも、今井に言われた通りこの休憩が終わったらきちんと仕事を処理しきることを決意した。
やや時間をかけて、今井からの一言。
「まずヒデが消えるかな」
「え、俺消えるのっ?」
「ヒデさんっ」
「やっぱりっ」
これには樋口と夢見る夢子は爆笑。
やはり他者から見る人のイメージというのは似通っていて、凄いと痛感した。
「だってヒデはイリュージョン担当じゃん」
「あ、死ぬとかじゃなくて"そっち"の消えるなんだ。でも落ちる所がないとなぁ……」
「いやいやいやっ」
「ヒデさん、自ら落ちに行かないでっ」
ここでもあのイリュージョンネタを引っ張る今井はやはりネタとしてあの事件をとても気に入っているのだろう。
それだけでも充分笑えるのだが、ネタにされすぎて慣れてしまった星野がズレた突っ込みをするものだから更に笑えてしまう。
「なんか盛り上がってない?」
「何の話してんだ?」
そんな中で、やや遅れて現れたのは櫻井とヤガミ。
これで役者は揃った。
もはやこの話を更に膨らませる以外の選択肢は無く、さっそく二人も巻き込むべく夢見る夢子は嬉々として話を振った。
「今、ゾンビだらけの世界で誰が一番生き残りそうかって話をしてたんです」
「なにそれ」
「ゲームかなんかの話か?」
「そんなもんです。アニイと櫻井さんはどう思います?」
夢見る夢子の問いかけに、今井と星野と同じく席に腰を降ろしつつ首を傾げる二人。
同じく環境にいると色々と似てくるものらしいが、こうも動作が似てくるとは驚きで、その姿にさえ夢見る夢子の笑いを誘うには充分だった。
すると、すぐにイメージが湧いたのだろう。
今井の時よりも早く口を開いたのは櫻井。
「アニイは生き残りそうだね。アツいから、こう…ガッツで」
「そうか?んじゃあ、生き残るか」
「あと、ヒデは消えそう」
「「「っっ!!!」」」
その一言に爆笑のあまり夢見る夢子と樋口と今井は声にならない笑い声を上げ、机上へ突っ伏してしまった。
ここまで来ると星野という人の皆が浮かべるイメージの統一性に感動すら覚えてしまう。
「いや、ちょっと。俺、散々すぎるでしょ」
困ったように笑う星野だが、本来ならスポーツマンである彼こそが身体能力が高く生存確率でいえば高い筈だろう。
「安心して良いよ、骨は拾いに行くから」
「勝手に人を殺すなって」
「そう言うユータも狙われやすそうだぞ」
「狙われるけど狂暴で返り討ちにしそうだな」
「窮鼠猫を噛むってか」
「うわーー」
「今井君は?」
「あー…一回襲われて、後で化け物にパワーアップして戻って来ようかな」
「今井、それバイオハザードだろ」
「今井さんは倒しづらいなー」
こんな下らない例え話がこうも盛り上がるとは思ってもみなかった。
皆で集まった状態で、ここ最近で一番の勢いで語り合っているんじゃないだろうか。
まるで男子学生のように笑い合う彼らの姿を見て、腹を抱えて笑うばかりで会話に入ることも出来ない夢見る夢子だが『こんな彼らの元にいられて良かった』と何処か嬉しい気持ちを抱いていた。
「そういえば、夢見る夢子は?」
「え?私ですか?」
完全に油断していた。
端から彼らの様子を眺めていた夢見る夢子は急に話を振られて驚いたが、元はといえば言い出したのは彼女なのだから話題に上がるのは必然的ではある。
しかし一体自分はどんな扱いをされるのか…いざ我が身となると思わず身構え、笑いが止まった。
「夢見る夢子は……絶対死なないだろうなぁ…」
「今井さん、何ですかその間は。なんか、私がゴキブリ並みの生命力って言われてるみたいなんですが」
「そこまでは言ってない」
話の中で殺されるよりは良いが、ゴキブリ扱いも御免である。
これでも一応か弱い女のつもりだ。
すると今井をフォローするようにヤガミが間に入って言った。
「よくある映画のお約束だろ。『ヒロイン役は死なない』って奴」
「「「ああー」」」
その言葉に他の三人も納得したように揃えてコクコクと頷く。
今井も頷いているが本当にそう思っていたのか、はたまたヤガミのフォローに便乗したのかは定かではない。
一方、夢見る夢子は途端に何処かひきつったを浮かべている。
恐らく『ヒロイン』という単語に反応したのだろう。
確かにこのメンバーでは紅一点である夢見る夢子が役どころでヒロインに該当するのはそれらしいが、いざ言われてみると気恥ずかしいものだ。
「ヒロインって大袈裟な…」
「夢見る夢子がヒロインじゃなきゃ誰だよ。他は野郎しかいないぞ」
「櫻井さんとか…?」
なんとなく名前を出してみたものの、彼は魔王だ。
守られるようなイメージはあまりなく、強いていうならヒロイン的な守られる方ではなく、悪魔城の中で強靭な魔物達に守られるラスボス的な守られ方だろう。
櫻井自身も乗り気でないらしく首を横に振っている。
するとそこから話は思いもよらない方向へと転がり出した。
「あ、どうせ消える役なカッコよく消えるとかが良いな。ヒロインの夢見る夢子を庇って崖から落ちるとか」
勝手に不遇な役割となってしまった星野の一言。
結局は落ちる自虐を混ぜつつも自己犠牲とはなかなか出来るものでなく格好良さでは群を抜いて魅力的、一番美味しい役どころだろう。
すると、それに反応して樋口が続く。
「夢見る夢子を守るなら俺もやりたい。ゾンビが溜まってる工場みたいな所を脱出して、爆発とかさせれば良いんでしょ」
「雑だなー。じゃあ俺は化け物になって戻ってきて皆を襲う途中で理性が戻って夢見る夢子を守る、とか」
「だから今井、それバイオハザードだろ」
「ねぇ、ゾンビを操って夢見る夢子を守るとかは有り?」
「無敵過ぎるからダメだな」
「そう言うアニイは守らないの?」
「あー、とりあえず夢見る夢子だけでも安全な場所に避難はさせるだろうな」
最初は『誰が生き残れるか』という話だったはずなのに、いつの間やら『誰が夢見る夢子を守るか』という話へ。
恐らく彼らは各々が『格好良くありたい』という思いのままに声を上げていて、そこに他意は無いのだろう。
それを夢見る夢子も理解はしている。
しかし彼女からすれば憧れの存在である5人から一度に『お前は俺が守る』と宣言をされまくっている状況だ。
平静を装って皆の会話に合わせて笑ってはいるものの正直、気が気でない。
その後も、ああだこうだとしばし話は続いたが……
「というか、思ったんだけど……」
ふと、何やら思いついたような櫻井に皆の視線が集中すると、彼は微笑んだ。
「この面子でいたら、大丈夫でしょ」
個々の話ならば、分からない。
だが、5人が揃ったBUCK-TICKならば、お互いに持たない物を持ちあったこの5人ならば、相手がゾンビだろうとなんだろうと、きっと大丈夫。
根拠は無い。
しかし、その言葉の安心感は絶大で、特に命の危機に面していない夢見る夢子も本当に助けられたかのような安堵感さえあったのだから不思議だ。
他の4人も『確かに』と言わんばかりに納得したような顔をしている。
「まぁ、どうにかなるだろうな」
「むしろ、ゾンビも裸足で逃げ出すんじゃない」
「ははははっ、どっちが化け物だよ」
今井、星野、樋口のそんな会話に続き、ヤガミが軽く夢見る夢子の背中を叩いた。
「って訳だ。夢見る夢子、お前は俺達といたら死なないから安心しろ」
それが結論。
その場の5人全員が何処か満足げな顔でこちらを見ていた。
……確かに下らない話題を振ったのは自分ではあるが、普通は良い大人がこんな例え話にこうも本気で語り合うものだろうか。
ノリが良いにも程がある。
一番のツッコミ役でありまとめ役である筈のヤガミまでこの状態で、むしろ守り方について櫻井を諭すなど変な方向でまとめ役になっているし……
というか櫻井はゾンビ操る能力あったら、まずそれで世界を救うべきだ。
そうすれば万事解決、世界平和。
もしやこの場の全員が一杯引っかけているのだろうか、出来上がっているのだろうか。
嗚呼、だが、こんな彼らがなんと愛しいものだろう……否、今はそういう問題ではない。
この状況では嬉しさを越えて恥ずかしい気持ちが勝ってしまっており、もはや恥ずかしいという言葉では生ぬるい。
(駄目だコレ……死にそう……)
感情が抑えきれず『死にそう』、その一言に尽きる。
もう勘弁してと言わんばかりに頭を抱えてうつむき、真っ赤になった顔を必死に隠すのが精一杯な夢見る夢子だった。
【夢見るサバイバル】
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