雨唄
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「ゾロ…さん。」
「さんはいらねェ。ゾロでいい。」
「じゃあ、ゾロ…。」
初めて彼の名を口に出して言葉にしたら、くすぐったくて何だか照れる。
思い出したかのようにゾロが服のポケットを探った時、店の端から声が飛んできた。
「姉ちゃんもっと歌うたってくれよー!」
その声にハッとしてステージに戻ろうとする名無しさんの手首をゾロが掴んだ。
「名無しさん、この後空いてるか?」
「え…?」
「昨日借りたモン返してェし、一緒に飲もうぜ。お前が歌い終わるまで待ってる。」
そう言って軽くジョッキを掲げるゾロは、するっ…と腕を離して酒に口をつけた。
正直、その後の事はあまり覚えていない。
捕まれた手首が熱をもって。
目の前のゾロに見られていると思うと心臓がドキドキして目を合わせることが出来なかった。
そんな心情を悟られたくなくて必死に隠して名無しさんは歌った。
「とりあえず乾杯だな。」
「じゃあ…乾杯。」
客足が疎らになった頃に漸く名無しさんはステージから降りてゾロのテーブルに着く。
歌が終わるまで待っていてくれたのが嬉しくて頬が勝手に緩む。
「これ、昨日はありがとな。助かったぜ。」
ポケットから出されたハンカチは綺麗に畳まれていて名無しさんの目の前に置かれた。
「お役にたてたなら良かった。」
ちゃんと洗濯したからな、と笑うゾロの顔を正面から見れなくて慌ててお酒に口を付ける。
それからゾロとは沢山の話をした。
殆ど私ばかり喋っていたけど彼は黙って耳を傾けてくれていて。
時々交わる目線にドキドキしながら、それを誤魔化す様にグラスに口をつける。
そうこうしているうちに名無しさんは元々得意ではないお酒が進む。
ゾロは酔いが回ってフラフラな彼女を抱き抱えると店を出た。
「うぅ…。送ってもらっちゃってごめんなさい。」
「あのまま置いてくワケいかねェだろ。弱いくせに無理すんな。」
「ゾロと飲んでたら楽しくてね…つい飲みすぎちゃったの。」
それに対するゾロの返事はなく二人の間に沈黙が流れる。
お酒に飲まれてみっともないところ見せちゃったな…きっとゾロもこんな私に呆れてるんだ。
胸がチクリとした。
私が住んでいる部屋に入ると、ゾロはベッドまで介抱してくれて私は大人しく彼に従ってベッドに腰を下ろす。
「ゾロ、今日はありがとう。とても楽しかった…。」
「あァ、俺も名無しさんの歌と旨い酒が飲めて最高の日だ。」
見上げればいつもの笑顔を浮かべた彼の顔。
「…また、明日も来てくれる?」
一瞬、ゾロが苦しそうな表情をして息を詰めたのが分かった。
「…明日は来れねェ。」