雨唄
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彼が居てくれたお陰で雷が怖くなかったのは本当の事で。
感謝の気持ちをどうしても表したかった。
「あ!じゃあコレ、良かったら使って下さい。」
そう言って荷物の中から取り出したハンカチを差し出すと、男は素直に受け取った。
「サンキュな。…お前の名前は?」
「名無しさん、ですけど…。」
「いい名だな。」
自分の名前を褒められた事と、口角を上げる独特な笑い方を見て名無しさんの心臓はドキドキと早鐘を打つ。
「名無しさんはいつもこの店で歌ってンのか?」
渡したハンカチで髪をガシガシ拭きながら彼は問う。
「あ…いえ。色んなお店に行ってるので特には決まってないです。」
「明日もこの店に来るから名無しさんの歌声、聞かせろよ。」
彼は立ち上がって私の頭をポンポンと撫でる。
「必ずだ。」
彼は名無しさんにそう言って店主に代金を払うと店を出ていった。
「…行っちゃった。あ、名前…!」
彼の名前を聞くのを忘れてしまった事を思い出したのは男が立ち去った後。
私は名前も知らない、まるでさっきの嵐の様な男に恋をした。
* * * *
次の日、店に行くと昨日と同じ席に座っている緑の髪の彼の姿を見て胸が高鳴る。
彼も店に入ってきた名無しさんに気付くと軽く手を上げてまたあの笑みを浮かべた。
「よォ…お前ェの歌声、聞きに来たぜ。」
言葉遣いはぶっきらぼうだけど、どこか優しさを感じさせる彼の言葉に促されて名無しさんはステージに立つ。
今日の歌は恋する女性の気持ちの歌詞で、名無しさんは自分を重ね合わせる。
この気持ちがあなたに届きますように、と心を込めて。
目の前の彼は静かに名無しさんの歌に聞き入っていた。
歌い終われば店の四方から拍手が聞こえる。
それに応える様に一礼した後、彼を見れば瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えてステージを下りると男の側へ行った。
「どうでしたか?私の歌…。」
「あァ、すげェよかったぜ。」
素直に褒められて嬉しくなると名無しさんは頬を紅くした。
「ありがとうございます。あの、昨日聞きそびれちゃって…お名前を教えていただいても?」
「ロロノア・ゾロだ。海賊をやってる。」
初めて知った男の名前と、海賊だという事に驚いたが不思議と恐怖は感じなかった。