雨唄
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叩き付ける雨と強風。
こんな嵐の日はお前の事を思い出す。
一目見た時から俺を惹き付けた彼女の雰囲気。
柔かで包み込む様な歌声。
彼女は今もあの歌声を響かせているのだろうか。
雨唄
その日は厚い雲に覆われた空からザァザァと大粒の雨が落ちる嵐の日だった。
飲み屋を渡り歩いて歌っている身の名無しさんにとってこんな日は最悪の天気。
客入りの少ない店で歌っても惨めな気分で。
窓の外の天気のように私の心は今にも泣き出しそうにズキズキと痛む。
これ以上続けても仕方がない。
あと一曲歌ったら今日は帰ろうと思っていた時。
雨で酷く濡れた彼が現れた。
男はそれを気にする様子もなく私の目の前の席に座ると酒を注文して飲み始める。
その姿に何故か惹き付けられて一瞬で彼の虜になった。
正直、一目惚れだ。
緑の髪の毛から滴る水滴と濡れた服が肌に張り付いて浮かび上がる逞しい筋肉。
男の人にこんな色気を感じたのは初めてで名無しさんの胸はドキドキと高鳴り、歌っている声が震えそうになるのを必死で抑えた。
歌い終えた名無しさんが荷物を畳み始めた時、外の嵐はいよいよ激しさを増して雷鳴が響く。
一瞬、強い光を放った落雷の衝撃は店を襲い明かりが消えた。
「きゃぁ!?」
大嫌いな雷に、名無しさんは震えながらしゃがみ込んだ。
早く…早く…雷止んで…。
頭を抱えている名無しさんの上からふわっと覆い被さる様な気配を感じて恐る恐る顔を上げる。
「あ…あの、…。」
光った稲妻が停電した暗闇の中で彼の顔を照らし出す。
そこには先程、名無しさんが秘かに熱い視線を送っていた男の姿があった。
「…お前ェ、大丈夫か?」
「…私…雷が苦手で…きゃっ!」
また近くで落雷があった音に吃驚して思わず目の前の体に抱き付いてしまった。
「わッ…す、すみません…っ!」
濡れた服の感触と男を感じさせる体に全身が熱くなり瞬時に離れようとする名無しさん。
「気にすンな。お前が嫌じゃなかったらしばらくこうしてろ。ちったァ落ち着くだろ。」
彼はそんな名無しさんの肩を抱いて優しく声を掛ける。
抱き付いたのが故意ではないにしても守って貰えて名無しさんは益々男に惚れてしまった。
「…行ったみたいだな。」
暫くして店の明かりも点いて雷鳴は遠くでゴロゴロと響いている。
「あの…ありがとうございました!」
肩を抱かれていた手を慌てて振りほどくと名無しさんは頭を下げた。
「何かお礼を…。」
「お礼なンざいらねェよ。」
「でも…。」