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「え、ゾロ先輩ほんとにいいんですか?」
「今日はお前が晴れて本社勤務になったお祝いだからな。元から払わせるつもりもねェ…それにこういう時は素直に甘えとけ。」
食後の珈琲と共にテーブルに伏せて置かれた伝票をゾロ先輩が取る。
「すみません、ありがとうございます。」
「あァ…それとな、もう一つ。」
ゾロ先輩が何か言いかけた瞬間。
バッ!!とお店の照明が消されて暗闇に包まれた。
周りからざわざわと動揺の声が上がる。
私も一瞬何が起きたのか分からなかった。
さっきの金髪のウェイターさんがろうそくに火のついたケーキを持って現れるまで。
静かにピアノの音が流れている。
あの曲だ。
私たちのテーブルに近付いてくるゆらゆら揺れる火を見つめた。
全てがスローモーションみたいに見えて、それは私の目の前に置かれた。
「お誕生日おめでとうございます。素敵なプリンセス。」
ニッコリ綺麗な笑顔を浮かべたウェイターさん。
向かいに座るゾロ先輩の顔はろうそくの灯りにぼんやりと浮かび上がる。
「お前そろそろ誕生日だったろ。今日は誕生日祝いも兼ねて、な。」
じわじわと視界が滲む。
そんな…仕事のついでに話したような私の誕生日を覚えていてくれるなんて。
「早く消せよ。」
少し苦笑いしたゾロ先輩の表情があった。
ピアノの音が止まり。
私は息を吸い、ろうそくの火を吹き消した。
周りから疎らに拍手が起こり、照明もついた。
一瞬目の眩みを覚えて目を閉じると堪えていた涙が一筋頬を滑り落ちていく。
再び目を開けると。
「名無しさん、誕生日おめでとう。」
いつもの口角を上げた表情に少し照れ臭さを混ぜた笑い方のゾロ先輩がいた。
「あ、ありがとうございます。こんな…どうしよう。すごい嬉しいです。」
「泣くほど嬉しいのかよ。」
「だって、先輩が私の誕生日なんかを覚えてくれてたのすっごく意外ですし…。ケーキ大好きなんで嬉しいです。」
…先輩の事も大好きだけど。
「あァ、甘いモン好きだったよな。遠慮しねェで食べろよ。俺ァ甘いの苦手だからな。」
目の前の先輩は小さく肩を竦めて珈琲に口をつける。
私は小さいながらもちゃんとホールになったケーキをフォークで切り分けて口へと運ぶ。
ふわふわのスポンジと、蕩ける滑らかなクリームと、甘酸っぱいフルーツ。
「美味しい!ゾロ先輩、私こんなに美味しいケーキ初めて食べました。」
「そりゃあ良かったな。」
珈琲を啜りつつ、ケーキを食べる私を優しい眼差しを向けるゾロ先輩。
そんなに見られていると逆に緊張しちゃって食べにくいんですけど…!
私は何だか恥ずかしくなって俯いてケーキを食べ進めた。