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断る理由もない名無しさんはキッチンに立つとコーヒーを淹れる準備を始めた。
ゾロはカウンターの席につくと頬杖をついて彼女の手元をじっ…と眺めている。
ダメだ、見られていると思うと緊張してしまう。
震える手を何とか抑えながら淹れたコーヒーカップをゾロの前に置いた。
「サンキュ。突っ立ってねェでお前も休んだらどうだ?」
そう言って自分の隣を指差すゾロに従い、席に座ると名無しさんもコーヒーを一口飲んだ。
カップとソーサーがカチャカチャと音を立てる中、ゾロが口を開く。
「なぁ…お前、俺には何かねェの?」
「…何かって?」
ゾロの言葉の真意が分からなくて隣の彼を見れば。
名無しさんを見つめる彼の目に心を奪われる。
私は何事にも真っ直ぐで、真剣なゾロのこの目が大好きなんだ。
「ルフィ達やコックの野郎にはチョコくれてんだろ。」
「どうして知って…!」
驚きで目を見開くとゾロの口角からは笑いが漏れる。
「あれだけ騒いでりゃ誰だって気付く。特にコックなんかナミ達に最近毎日催促してるぜ。」
ここのところ毎日キッチンに籠っていた名無しさんは甲板で繰り広げられていた物事を全く知らなかった。
「ルフィから聞いた。お前、あいつらに毎日チョコあげてんだろ。」
「でも、あれは失敗作だし…義理のつもりで…。」
俯いてモゴモゴと喋る名無しさんの肩にゾロの手が置かれた。
「顔上げろ。ちゃんと目ェ見て言え。」
顔を上げれば相変わらず真っ直ぐな瞳が私を見つめている。
「でも…二個しか出来なかったし、形は変だし。美味しくないかもしれない。」
否定的な言葉ばかり並べる口とは反対に心の中は期待が膨らむ。
希望を持ってもいいのかな。
私の気のせいや、思い過ごしじゃないとしたら…。
「俺が聞きてえのはそんな言葉じゃねェ。」
痺れを切らした様にゾロから催促されると名無しさんは一呼吸置いて口を開く。
「…私ね、ゾロの事が好きなの。」
告白するなんて恥ずかしいけど、目の前の彼を真っ直ぐ見て伝えた自分の気持ち。
口角を上げてニヤリとするゾロの笑顔はずるいと思う。
カウンターの奥に隠しておいたチョコレートの箱を手に取るとゾロに差し出した。
「本命の、ゾロの為に作ったチョコだから…良かったら貰って下さい!」
「ちゃんと言えるじゃねェか。」
手の中の箱を受け取ると、ゾロは優しい手付きで名無しさんの髪を撫でた。
そんな事はもちろん初めてで吃驚したのと同時に何だか身体がくすぐったい。
「開けていいか?」
「…うん。」
箱の中から小さい不格好なチョコレートが二つ顔を出す。
ゾロは一つを摘み上げると、口の中に放り込んだ。
目を閉じて、ゆっくりと味わっているゾロの反応が怖くてドキドキする胸を押さえた。