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君ならで

―雪どけが始まった如月の京。

新撰組拡大により副長の俺は勿論のこと、幹部までも激務が課せられた。

そんな中で奴は微塵も忙しそうな素振りをみせない。
襖をそっと開ける音が聞こえる。耳をそばだてて聞いているものの、俺は気づかないフリをして作業を進めていた。

忍び足でできるだけ音を立てないように…

あと三歩……

あと二歩……

あと一歩……

白くて長い手がにゅっと伸びて、ふと視界が暗くなった。くすくすと笑い声が背後から聞こえる。俺は筆を置いて腕を組んだ。

「誰でしょう。」

「総司、お前なあ……俺が忙しいのがわかんねえのか」

「いひひ」

俺の視界を覆っていた両手が取り払われ、総司は宙を舞うように俺の背後を一旋した。仄かな花の香が漂ったと思ったら、右頬に一輪の梅の花が差し出されていた。

「梅……?」

「ふふ、いいでしょう。豊玉師匠なら喜ぶかなあと思いまして。一輪咲いても梅は梅ですから。」

「馬鹿野郎、くだらねえ事をぬかしているんならさっさと帰りやがれ。」

総司は頬をぷうっと膨らませた。

「下らなくなんてないですよ。土方さんなら一輪の梅も解して下さると思うという意味で………」

そんなことを言い出す総司が急にいとおしく思えて、俺は総司を抱き締めた。

「わっ!」

総司は頓狂な声を上げて慌てふためく。耳まで真っ赤に染めて上目遣いで俺を見た。

「びっくりするじゃないですか。」

「…どうもな。」

「……え…」

「色もいいが、香りもいい……」

俺は先程差し出された梅の香を味わいながら言った。
「………君ならで……」

腕の中でそう言いかけ、総司は瞳を閉じる。下から抱き込む体勢で接吻を交わすと、髪の毛が頬を撫でた。手を伸ばしゆっくりと頭を撫でると、総司は八重歯を覗かせながら満面の笑みを浮かべた。

「うふふふ……くすぐったぃですよぉ……」

無邪気に笑う横顔に何度助けられたことだろう。

「ったくお前は……」

君ならで

たれにか見せん梅の花

色をも香をも知る人のみぞ知る

紀友則は梅の枝をたおって相手に差し出したときにそう詠んだという。花は違えども利休も然り、一輪を愛でた。

一輪でも梅は梅

満開の梅の花よりも、一輪の梅の花を愛でてしまう。そしてその良さを解しているのは総司、お前だけだ。
今度とっておきの梅をお前だけに魅せてやる

頭を垂れて額をつきあわせると梅の香がまだほんのりと漂っていた。




☆あとがき☆

うぁー、ちょーラブラブっ(^-^;
話の脈略がないんで公表するかめっちゃ迷ったんですが、ここまで付き合って下さったかた、ありがとうございます。

ちなみに今回そーたんが引き言葉として用いていたのが古今和歌集の紀氏の歌です♪
○訳
貴方でなくて誰にみせようか。この花の美しい色も香りもわかるひとだけにわかるのだから

色んな本にも引用されてる有名な句です。
確かにレベル高いww

土方さんの句も結構風流人だった感を漂わせていますよね♪一輪咲いても梅は梅、結構すきですよーーー♪
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