同じ空を見上げる
無数の星が瞬く空には雲一つなく、山向こうまで透けて見えるように澄み渡っている。ほっほーほっほー、と、青葉木莵 の鳴く声がした。
目の前には木瓦の乗った白い塀と、それを越える高さの木、少しの叢 が月夜に照らされている。
縁側のようなところに腰掛けている視点の主の隣には、浴衣だか襦袢だかを着て、はね癖のある長い黒髪を下ろした睫毛 の長い少年が同じく腰掛けていた。なぜ少年とわかるかというと、控えめに投げ出された脚に臑毛 が窺えるからだ。
「【はちざえもん】、悪いね。こんな時間に付き合わせちゃって」
声も、低い。
「気にするな、【へいすけ】。俺だってなかなか寝付けない夜もあるし。……俺は一人部屋だから、いつでも来たい時に来てくれていい」
先の少年から【はちざえもん】、と呼ばれたので、きっとこの視点を持つ人物はそういった名前の、男だろうと思う。同様に、視点の主の返答から察するに、この少年は【へいすけ】という名だとわかった。
「ありがとう。甘えさせてくれて」
微笑を浮かべてこちらを向いた【へいすけ】を見ていると、胸が締め付けられるような切なさを覚えた。
「ユリコ! ファイヤー!」
突然、どこからともなく少年の甲高い声がした。少し距離のある響き方だったが、それは静かな夏夜によく響いた。
【へいすけ】と、ハッと目が合った。途端に【へいすけ】は夜空を仰いだ。【はちざえもん】も続いた。
少年の声から一拍置いて、煙の尾を引きながら、ひゅるひゅる、とほとんど一直線に火の玉が上がっていく。次の瞬間には、色とりどりの火花が模様を描いて空に舞った。数秒遅れて、身体の奥を揺さぶるようなドンという破裂音が届く。一瞬、空に模様を描いた火花は、次第にその形を崩し、パラパラと落ちていった。
【はちざえもん】という人物の一人称視点で進行する、【へいすけ】という少年と一緒に、打ち上げ花火を見る夢。【はちざえもん】の記憶の断片そのものというような、夢。それを、幼い頃から、夏になると繰り返しみていた。
背負っているスクールバッグから、真夏のピークは去った、と告げられた。中に入れている、小型トランジスタラジオから流れた音声だった。適当に合わせていた局が、番組放送合間に天気予報を挟んだらしい。スマートフォンは充電が切れていた。
ピークは去ったと言われても、俄かには信じがたい。地平線に沈み始めた夕陽を半身に浴びながら、仲間と待ち合わせた河川敷へ向かうために自転車を飛ばしつつ、俺はそう思った。日中に太陽のありがたい恵を燦々と浴びたアスファルトはまだ熱気をはらんでおり、湿度の高い空気と一緒になって、夏の蒸し暑さを作り出していた。
ペダルを踏み込むたびに、その振動に揺れた汗が、頬を伝う。首筋や背中へも流れていく。ペダルを早く何度も踏み込み、十分なスピードをつけたところで、ペダルに足をつけたまま休む。シャー、という小気味良い車輪の回る音がする。自転車は惰性で進んでいく。第二ボタンまで開け放した半袖のスクールシャツが風に靡き、パタパタと揺れる。束の間の爽快感に自然と瞼が下がった。
蜩 のカナカナカナという鳴き声が、切なく静かに響いている。前方の突き当たりに小さく見えているオレンジ色のカーブミラーを左折すれば、目当ての河川敷まではもう直ぐだ。
ほとんど沈んでしまった夕日は、燃えるような赤を地平線に少し、残していた。
「竹谷ー! おせーぞ!」
「わりー!」
仲間の自転車が密集している一帯へ自転車を滑り込ませ、停めつつ、侘びた。
仲間の自転車の前カゴにはグローブや軟式野球ボールが入っており、車体には木製バッドが立てかけられたりしていた。
「おめー、また携帯の充電サボったろ」
「お、あたり〜!」
「あたり〜! じゃねぇわ! 連絡つかなくなって困ってたんだぜ。場所と時間言った手前、動くに動けなくてさ」
「ごめんごめん」
スクールバッグを下ろし、ファスナーを開ける。コンビニの袋を取り出し、ラジオの電源を切った。
「こんなにかかるとは思ってなくてさ〜」
仲間のもとへ駆け寄ったところで、皆が不思議そうにこちらを見ているのに気が付いた。
「竹谷、なんで制服着てんだ?」
「今日なんかあったっけか」
「まさか、ほしゅ〜?」
各々が思ったことを口にする。あぁそうか、と俺は思った。
「お前ら、俺が生物部員だってこと忘れてない?」
物心ついた頃から生き物が好きだった俺は、小学校ではいきもの係、中学校では生物委員、そして高校では生物部に入った。今現在、高校は夏休みではあるが、命を扱う生物部は当番制を設け、飼育する生き物たちの世話をしている。仲間の誘いを受けた今日は、たまたま俺が当番だった。
仲間たちは野球部や陸上部などの運動部に所属している。地方の田舎の高校ということもあり、運動部は休み中の部活動に参加する際は家から体操着を着ていったりなどしているため、休み中に制服を着て登校することなんかは滅多になかった。文化部ならば制服登校が当たり前だ。その常識が、運動部に属する仲間たちには馴染みの薄さからか忘れ去られていた。
「あ! そっか、そういえば文化部だったわ。竹谷、運動出来るし雰囲気も性格も体育会系だからついつい忘れる」
「まぁ、間違われるのは慣れたもんだけど。今日は俺が世話当番だったんだ」
「顧問に押し付けときゃいいものを」
「生き物飼ったら最後まで、面倒見るのが人の道。命を扱ってるんだから、生徒だ教師だ関係ないよ」
「ふーん」
「え、てか。じゃあ学校から直で来たのか」
高校の校舎は、この河川敷まで距離がある。
「や、途中でコンビニ寄って来た。これ、詫びの品」
手に下げたコンビニの袋を胸のあたりまで持ち上げ、仲間へ突き出した。中には手持ち花火の詰め合わせが三袋と、着火ライター、太めの蝋燭が入っている。
「やろうぜ、花火」
────
踝丈 の草の茂る一帯から少し離れ、川のすぐ近くの河原へ来た俺たちは、皆で手持ち花火の詰め合わせを開封する。外袋を取り払い、中敷の厚紙に小分けにして差し込まれていたりOPP袋に入れられている分を種類の見境なく取り出していく。人数があればなお、そうした方が遊びやすい。
「あ、おい! せめて一セットごとに分けろよ」
「んな几帳面なことできるかよ!」
仲間の二人がなにやら言いつつ揉めているが、とってもどうでもいい理由なのでひとまずはスルーする。
そうこしているうちに、買ってきていた三袋の手持ち花火を、全て出し終えた。
「誰か懐中電灯持ってないか?」
「スマートフォンの懐中電灯でもいい?」
「あ、それでいい。つけて。平な石、探そう」
「なんで? 水切りでもすんの?」
「ばーか、ちげぇよ。蝋燭立てるのに使うんだ」
「んああっ、なあるへそ」
ふざけているのか、歌舞伎の見得を張るような口調やポーズをとっている。こういうのは下手に触れない方が面白かったりするので、放っておく。
スマートフォンの懐中電灯で辺りを照らしてもらい、平そうな石を見つけ、着火ライターで蝋燭に火を点けた。溶け出した蝋を石に数滴垂らし、熱の冷めないうちに蝋燭を立て、燭台代わりにした。
「よーし、準備完了」
「じゃ、始めますかぁ」
各々が好きな花火を手に取り、蝋燭の火で炙っては火薬の燃え尽きるまで楽しむ。初っ端から線香花火に興じる猛者もいた。
俺はすすき花火を手に取ると、花びら紙をちぎり、先端を火で炙った。すぐに着火し、激しい勢いで色のついた火花が飛び出す。仲間から少し離れ、腕を大きく使って火花で文字を書いてみたりした。
高二になっても、相変わらず手持ち花火は楽しい。幼い頃に比べれば、感動や新鮮さなどは薄らいだが、光り輝く火花を見ていると、夏の風物詩を満喫しているのだという充実感を得られる。長期休暇に顔を見せに来る従兄弟たちと近況報告まじりにやるのもいいが、やはり、気心の知れた仲間と一緒になってわいわいやるのが一番楽しいと感じる。
いっぱいあるし、という理由から二本三本と同時に着火し始めると、花火は直ぐに底を突いた。
「あっけねー」
一番派手に遊んでいた者が、しょんもりとした表情で呟いた。
「儚いと言え!」
初っ端から線香花火に興じていた猛者が、その呟きに対して食いかかる。
「いやー、楽しめた」
「ありがとな、竹谷」
「おー」
散々遊んだのち、花火特有の鼻にツンとくる煙の匂いに包まれた河原で、俺たちは粗方のゴミを拾い集めてコンビニ袋に詰めた。
「それ、俺が貰ってくわ」
「え、いいの?」
「ん。楽しませてもらったから」
どうやら、仲間の一人がゴミを引き取ってくれるらしい。
街灯のまばらな道を、仲間と共に自転車で行く。夕方に左へ曲がったオレンジ色のカーブミラーを、今度は右へ曲がる。その際に、仲間へ軽い挨拶をした。
「じゃあなー」
「おー」
直進する仲間たちから、声を揃えての、これまた簡単な挨拶が返ってきた。車輪の回る、カラカラカラ、という音が小さくなっていく。
車輪が回るたび、フロントフォークに取り付けた発電機のローラー部が回転し、ライトがついて行先を照らした。
────
玄関ドアを開けて中へ入ると、後ろ手に鍵を閉めた。カチャン、というロック音が響く。
「どこほっつき歩いてたの。さっさとご飯食べちゃって」
リビングから、母の声がした。
「あーい」
気のない返事をしながら、靴を脱いで廊下を進む。背負っている軽いスクールバッグから腕を抜きつつ、リビングへと入った。
夕飯を済ませ、風呂を上がると、時刻はもう日付が変わろうとしていた。
ベッドで身体を仰向けると、天井でLEDシーリングライトの円盤が煌々と光っているのが目に眩しかった。ローテーブルの上に置いている、ライトのリモコンを取るために身を起こす。リモコンを手に取り、消灯ボタンを押し込むと、音もなく明かりは消えた。
再度、ベッドで仰向けになる。天井を見ているような、何も見ていないような。視界はぼんやりとしている。考え事をするには丁度よい状況だった。
小学校二年、学校行事の遠足で行った隣町にあるプラネタリウムで満天の星空を見た時。この光景に見覚えがあると思った。どこで見たのかは、思い出せなかった。ただ、祖母と一緒になって時代劇ドラマを観ていたとき、昔は街灯などもなく、明かりが少なかったために夜はとても暗かったのだと教えてくれたことが妙に引っ掛かっていた。
その翌年。どうやらこの子は本当に生き物が好きらしいと理解した周囲の大人たちが買い与えてくれた生き物図鑑で、ドラマなどの夜のシーンでよく耳にする「ホッホー、ホッホー」という鳥の鳴き声の正体を知った。
これらのことから、幼い頃から繰り返しみている夢の舞台は、どうやら昔の日本らしいということが次第に分かった。そして、季節はおそらく、夏。ここまでは推測できたが、それ以上は前に進めずにいた。
祖父の生きていた頃、【はちざえもん】という名前のご先祖様はいたかと聞いたことがあった。返事は、わからない、と一言。祖母が付け加えるところによると、戦争の空襲で過去帳を焼失してしまったらしく、曽祖父母の代までしか辿ることは出来ないということだった。最後の望みをかけ、確かめにいった墓誌 には、やはり曽祖父母から以前の故人 は記されていなかった。
酒に酔って上機嫌な父に、繰り返しみる夢はあるか、と訊いたこともあった。が、夢は目が醒めると同時に忘れてしまうのだといったような言葉が返ってきただけだった。
「【はちざえもん】さんが俺に何かを伝えようとしてるんじゃあない、のかな……」
片腕を額に乗せ、目を瞑りながら呟いてみた。
同じ夢を何度もみている中、これはご先祖様の記憶で、なにかメッセージを伝えようとしているのかもしれない、という漠然とした考えが浮かんだ。が、読み取ろうにも、夢は非常に短く断片的で、交わす言葉と視覚や聴覚から得られる少しの情報しか手がかりがなかった。
もしかすると、幼少期に母と一緒に観たテレビドラマか映画だかのワンシーンを強烈に記憶しており、それが夢となっているだけかもしれなかった。いや、普通に考えると後者の方が確率は高い。
ぐるぐると思考を巡らせているうちに、睡魔がやってきた。瞼が重くなり、勝手に閉じていく。
「せめて……名前の、漢字が……分かれば……な」
────
夏休みも、残り一週間となっていた。昼ご飯を食べた後、一度勉強机へ向かった。が、まだたんまりと残っている課題と対面すると、どうしてもやる気が起きなかった。
課題を片付けるためにはまず部屋の掃除からしなくちゃだな、などと、余計なことを考えた。掃除中のBGMをかけるため、という動機で手に取ったスマートフォンに、本日の生物部の当番である後輩から、一件のメッセージが入っていた。
用件をまとめると、生物部で飼っている兎が一羽、餌やりの途中で飼育小屋から脱走した。現在、他の生物部員にも呼びかけて捜索をしている、とのことだった。脱走したのは茶毛に白い靴下を履いた個体らしい。
俺の住む地方の田舎は、水田や畑、畦道 などがちらほらとある。高校の裏にはちょっとした森もある。そんな環境で兎が一羽逃げ出したとなると、見つけ出すには相当の苦労がかかる。
メッセージを受信したのは、十分ほど前だった。脱走後すぐに送信してきたならば、兎はそう遠くへは行っていないだろうと思った。
俺も捜索する、と後輩へメッセージを返し、家を飛び出た。
入道雲が、青空に白く輝いていた。自転車に乗り、畦道を通って、高校の近くの水田を見て回る。雑草の抑制、害虫の駆除などの効果を期待して放し飼いにされている合鴨が、嘴 で水田の底を突いていたり、列をなしてすいすいと泳いでいるだけで、兎の姿はなかった。
白いシャツの胸元を掴み、流れる汗を拭う。入道雲の中から、飛行機が顔を出した。
薄い色のジーンズのポケットで、ヴー、とスマートフォンが振動した。どうやら、メッセージを受信したようだった。見ると、差し出し人は顧問の先生だった。高校の裏にある森には、集まった一年生と共に捜索に向かう。見つかり次第報告する、とのことだった。もっと人手がほしいところだが、十一月に正式に引退となり、現在は受験勉強に勤しんでいる三年生の先輩方へ応援を頼むわけにもいかなかった。
八月の下旬ともなると、日の落ちるのが早くなってくる。なんとか、十九時前には見つけ出したいところだ。
水田にはいなかったが、畑ならいるかもしれない。そう思い、畑の多い地域へと向かった。
餌やりの途中で脱走したということは、餌を充分に食べられていない可能性が高い。そうすると、なにか食料を求めて畑へ来ることもあり得ることだった。
畑には、収穫の終盤に差し掛かった夏野菜がまだちらほらと生 っていた。
自転車を止め、畑へ入り、畝 を踏まないように注意して通路を歩きつつ、兎を探す。
「己 なにしよる!」
「っはい?!」
車輪が回るたび、フロントフォークに取り付けた発電機のローラー部が回転し、ライトがついて行先を照らす。
暮れかけの夕日が燃えている。結局、畑では兎を見つけられなかった。それどころか、畑の様子を見に来た主のおじさんに畑泥棒だと勘違いされ、追いかけ回されたのちに捕まった。人を見かけで判断してはいけないという言葉の意味が、骨身に染みた。おじさんに事の詳細を話し、誤解を解くのに大変な時間がかかってしまった。
地平線に沈んでゆく夕陽を見つつ、自転車を押す。蜩の声が、遣る瀬なさを後押しするように切なく響いている。
今朝までまだかろうじて白さを保っていたスニーカーは、土で汚れてしまっていた。
すっかり暗くなった道の先で、一つまた一つと順番についた街灯が、辺りを照らしていく。
────
前方から、誰かがこちらへ歩いて来る。街灯がまばらなので、人の姿は見えたり見えなくなったりする。街灯で照らされた姿を見たところ、隣町の頭のいい私学高の制服を着ていた。足元はスラックスだったので、男子生徒だろう。
もうこんなに暗いのに、隣町の高校生が? という疑問が浮かんだ。
今、何時だろう。ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した。
街灯の下で、高校生とすれ違う。横目でチラと、その顔を見る。
「っあの!」
俺は無意識に、彼を呼び止めていた。
横目でチラと見たその顔は、幼い頃から繰り返しみる夢でよく見た顔だった。
「はい?」
突然呼び止められた高校生は、キョトンとした表情をこちらへ向けたのち、あ、と目を見開いた。長い睫毛が印象的だった。
咄嗟に呼び止めてしまったけれども、あとに続く言葉が出てこない。何か話さないと、と言葉を探す。
動揺から目が泳いだ先、一キロメートルほど離れた山の麓 付近。
煙の尾を引きながら、ひゅるひゅる、とほとんど一直線に火の玉が上がっていくのが見えて、思わず指をさした。
「ね、あれ……」
高校生は、不思議そうな顔をしながら、俺の指す先を振り返った。
色とりどりの火花が模様を描いて、空に舞う。数秒遅れて、身体の奥を揺さぶるようなドンという破裂音が届いた。一瞬、空に模様を描いた火花は、次第にその形を崩し、瞬きながらパラパラと落ちていった。
不意に打ち上がった花火に、俺たちは少しの間、呆気にとられていた。
「夢と一緒だ」
「……夢?」
俺の呟きに、高校生は聞き返した。
「小さい頃から、夏になると繰り返しみる夢があるんだ。どこかの縁側で、はね癖のある黒髪を下ろした少年と並んで座って、不意に打ち上がった花火を見る、そんな夢」
「……へぇ。不思議なこともあるもんだね」
ヴー、と、手にしていたスマートフォンが振動する。画面には顧問の先生の名が表示されていた。着信だった。
「出ないの?」
画面を見つめて動かないでいた俺に、高校生はそう言葉をかけた。
指先で、通話ボタンをタップする。
『竹谷! メッセージ見たのか!』
出るなり、電話口から大声が飛んできた。
「メッセージ?」
『例の兎、見つかったって。メッセージ入れたろう』
「……あ、すいません、見てませんでした」
『だろうな、返事がなかったから。お前のことだ、夢中で探し回ってたんだろう』
「その通りです、木下先生……」
『はぁ。周りが見えなくなるその悪癖、どうにかしろよ』
「あはは〜……」
電話口の相手には見えはしないのに、俺は眉で八の字を書いて、頭を下げた。
『兎の件はもう済んだから、早いところ家へ帰れ。親御さんが心配するぞ』
「わかりました」
通話が切れたことを確認して、サイドボタンを押し、画面を暗転させた。
「兎が……逃げて、探してたんだ?」
隣には、変わらず高校生が立っていた。通話口での木下先生の声が大きかったので、会話内容が筒抜けだったらしかった。気恥ずかしいが、こうなってはもう仕方がないので、事のあらましを話すことにした。
「そう、なんだ。俺、この近くの高校の生物部員なんだけど。飼育してる兎が脱走したって、後輩からメッセージが届いて。それで、あちこち探し回ってたんだ」
「あはは、変わらないなぁ。【はちざえもん】は」
柔らかな笑みを浮かべ、真っ直ぐとこちらへ顔を向ける、【へいすけ】によく似た高校生の優しい瞳と、目が合った。
目の前には木瓦の乗った白い塀と、それを越える高さの木、少しの
縁側のようなところに腰掛けている視点の主の隣には、浴衣だか襦袢だかを着て、はね癖のある長い黒髪を下ろした
「【はちざえもん】、悪いね。こんな時間に付き合わせちゃって」
声も、低い。
「気にするな、【へいすけ】。俺だってなかなか寝付けない夜もあるし。……俺は一人部屋だから、いつでも来たい時に来てくれていい」
先の少年から【はちざえもん】、と呼ばれたので、きっとこの視点を持つ人物はそういった名前の、男だろうと思う。同様に、視点の主の返答から察するに、この少年は【へいすけ】という名だとわかった。
「ありがとう。甘えさせてくれて」
微笑を浮かべてこちらを向いた【へいすけ】を見ていると、胸が締め付けられるような切なさを覚えた。
「ユリコ! ファイヤー!」
突然、どこからともなく少年の甲高い声がした。少し距離のある響き方だったが、それは静かな夏夜によく響いた。
【へいすけ】と、ハッと目が合った。途端に【へいすけ】は夜空を仰いだ。【はちざえもん】も続いた。
少年の声から一拍置いて、煙の尾を引きながら、ひゅるひゅる、とほとんど一直線に火の玉が上がっていく。次の瞬間には、色とりどりの火花が模様を描いて空に舞った。数秒遅れて、身体の奥を揺さぶるようなドンという破裂音が届く。一瞬、空に模様を描いた火花は、次第にその形を崩し、パラパラと落ちていった。
【はちざえもん】という人物の一人称視点で進行する、【へいすけ】という少年と一緒に、打ち上げ花火を見る夢。【はちざえもん】の記憶の断片そのものというような、夢。それを、幼い頃から、夏になると繰り返しみていた。
背負っているスクールバッグから、真夏のピークは去った、と告げられた。中に入れている、小型トランジスタラジオから流れた音声だった。適当に合わせていた局が、番組放送合間に天気予報を挟んだらしい。スマートフォンは充電が切れていた。
ピークは去ったと言われても、俄かには信じがたい。地平線に沈み始めた夕陽を半身に浴びながら、仲間と待ち合わせた河川敷へ向かうために自転車を飛ばしつつ、俺はそう思った。日中に太陽のありがたい恵を燦々と浴びたアスファルトはまだ熱気をはらんでおり、湿度の高い空気と一緒になって、夏の蒸し暑さを作り出していた。
ペダルを踏み込むたびに、その振動に揺れた汗が、頬を伝う。首筋や背中へも流れていく。ペダルを早く何度も踏み込み、十分なスピードをつけたところで、ペダルに足をつけたまま休む。シャー、という小気味良い車輪の回る音がする。自転車は惰性で進んでいく。第二ボタンまで開け放した半袖のスクールシャツが風に靡き、パタパタと揺れる。束の間の爽快感に自然と瞼が下がった。
ほとんど沈んでしまった夕日は、燃えるような赤を地平線に少し、残していた。
「竹谷ー! おせーぞ!」
「わりー!」
仲間の自転車が密集している一帯へ自転車を滑り込ませ、停めつつ、侘びた。
仲間の自転車の前カゴにはグローブや軟式野球ボールが入っており、車体には木製バッドが立てかけられたりしていた。
「おめー、また携帯の充電サボったろ」
「お、あたり〜!」
「あたり〜! じゃねぇわ! 連絡つかなくなって困ってたんだぜ。場所と時間言った手前、動くに動けなくてさ」
「ごめんごめん」
スクールバッグを下ろし、ファスナーを開ける。コンビニの袋を取り出し、ラジオの電源を切った。
「こんなにかかるとは思ってなくてさ〜」
仲間のもとへ駆け寄ったところで、皆が不思議そうにこちらを見ているのに気が付いた。
「竹谷、なんで制服着てんだ?」
「今日なんかあったっけか」
「まさか、ほしゅ〜?」
各々が思ったことを口にする。あぁそうか、と俺は思った。
「お前ら、俺が生物部員だってこと忘れてない?」
物心ついた頃から生き物が好きだった俺は、小学校ではいきもの係、中学校では生物委員、そして高校では生物部に入った。今現在、高校は夏休みではあるが、命を扱う生物部は当番制を設け、飼育する生き物たちの世話をしている。仲間の誘いを受けた今日は、たまたま俺が当番だった。
仲間たちは野球部や陸上部などの運動部に所属している。地方の田舎の高校ということもあり、運動部は休み中の部活動に参加する際は家から体操着を着ていったりなどしているため、休み中に制服を着て登校することなんかは滅多になかった。文化部ならば制服登校が当たり前だ。その常識が、運動部に属する仲間たちには馴染みの薄さからか忘れ去られていた。
「あ! そっか、そういえば文化部だったわ。竹谷、運動出来るし雰囲気も性格も体育会系だからついつい忘れる」
「まぁ、間違われるのは慣れたもんだけど。今日は俺が世話当番だったんだ」
「顧問に押し付けときゃいいものを」
「生き物飼ったら最後まで、面倒見るのが人の道。命を扱ってるんだから、生徒だ教師だ関係ないよ」
「ふーん」
「え、てか。じゃあ学校から直で来たのか」
高校の校舎は、この河川敷まで距離がある。
「や、途中でコンビニ寄って来た。これ、詫びの品」
手に下げたコンビニの袋を胸のあたりまで持ち上げ、仲間へ突き出した。中には手持ち花火の詰め合わせが三袋と、着火ライター、太めの蝋燭が入っている。
「やろうぜ、花火」
────
「あ、おい! せめて一セットごとに分けろよ」
「んな几帳面なことできるかよ!」
仲間の二人がなにやら言いつつ揉めているが、とってもどうでもいい理由なのでひとまずはスルーする。
そうこしているうちに、買ってきていた三袋の手持ち花火を、全て出し終えた。
「誰か懐中電灯持ってないか?」
「スマートフォンの懐中電灯でもいい?」
「あ、それでいい。つけて。平な石、探そう」
「なんで? 水切りでもすんの?」
「ばーか、ちげぇよ。蝋燭立てるのに使うんだ」
「んああっ、なあるへそ」
ふざけているのか、歌舞伎の見得を張るような口調やポーズをとっている。こういうのは下手に触れない方が面白かったりするので、放っておく。
スマートフォンの懐中電灯で辺りを照らしてもらい、平そうな石を見つけ、着火ライターで蝋燭に火を点けた。溶け出した蝋を石に数滴垂らし、熱の冷めないうちに蝋燭を立て、燭台代わりにした。
「よーし、準備完了」
「じゃ、始めますかぁ」
各々が好きな花火を手に取り、蝋燭の火で炙っては火薬の燃え尽きるまで楽しむ。初っ端から線香花火に興じる猛者もいた。
俺はすすき花火を手に取ると、花びら紙をちぎり、先端を火で炙った。すぐに着火し、激しい勢いで色のついた火花が飛び出す。仲間から少し離れ、腕を大きく使って火花で文字を書いてみたりした。
高二になっても、相変わらず手持ち花火は楽しい。幼い頃に比べれば、感動や新鮮さなどは薄らいだが、光り輝く火花を見ていると、夏の風物詩を満喫しているのだという充実感を得られる。長期休暇に顔を見せに来る従兄弟たちと近況報告まじりにやるのもいいが、やはり、気心の知れた仲間と一緒になってわいわいやるのが一番楽しいと感じる。
いっぱいあるし、という理由から二本三本と同時に着火し始めると、花火は直ぐに底を突いた。
「あっけねー」
一番派手に遊んでいた者が、しょんもりとした表情で呟いた。
「儚いと言え!」
初っ端から線香花火に興じていた猛者が、その呟きに対して食いかかる。
「いやー、楽しめた」
「ありがとな、竹谷」
「おー」
散々遊んだのち、花火特有の鼻にツンとくる煙の匂いに包まれた河原で、俺たちは粗方のゴミを拾い集めてコンビニ袋に詰めた。
「それ、俺が貰ってくわ」
「え、いいの?」
「ん。楽しませてもらったから」
どうやら、仲間の一人がゴミを引き取ってくれるらしい。
街灯のまばらな道を、仲間と共に自転車で行く。夕方に左へ曲がったオレンジ色のカーブミラーを、今度は右へ曲がる。その際に、仲間へ軽い挨拶をした。
「じゃあなー」
「おー」
直進する仲間たちから、声を揃えての、これまた簡単な挨拶が返ってきた。車輪の回る、カラカラカラ、という音が小さくなっていく。
車輪が回るたび、フロントフォークに取り付けた発電機のローラー部が回転し、ライトがついて行先を照らした。
────
玄関ドアを開けて中へ入ると、後ろ手に鍵を閉めた。カチャン、というロック音が響く。
「どこほっつき歩いてたの。さっさとご飯食べちゃって」
リビングから、母の声がした。
「あーい」
気のない返事をしながら、靴を脱いで廊下を進む。背負っている軽いスクールバッグから腕を抜きつつ、リビングへと入った。
夕飯を済ませ、風呂を上がると、時刻はもう日付が変わろうとしていた。
ベッドで身体を仰向けると、天井でLEDシーリングライトの円盤が煌々と光っているのが目に眩しかった。ローテーブルの上に置いている、ライトのリモコンを取るために身を起こす。リモコンを手に取り、消灯ボタンを押し込むと、音もなく明かりは消えた。
再度、ベッドで仰向けになる。天井を見ているような、何も見ていないような。視界はぼんやりとしている。考え事をするには丁度よい状況だった。
小学校二年、学校行事の遠足で行った隣町にあるプラネタリウムで満天の星空を見た時。この光景に見覚えがあると思った。どこで見たのかは、思い出せなかった。ただ、祖母と一緒になって時代劇ドラマを観ていたとき、昔は街灯などもなく、明かりが少なかったために夜はとても暗かったのだと教えてくれたことが妙に引っ掛かっていた。
その翌年。どうやらこの子は本当に生き物が好きらしいと理解した周囲の大人たちが買い与えてくれた生き物図鑑で、ドラマなどの夜のシーンでよく耳にする「ホッホー、ホッホー」という鳥の鳴き声の正体を知った。
これらのことから、幼い頃から繰り返しみている夢の舞台は、どうやら昔の日本らしいということが次第に分かった。そして、季節はおそらく、夏。ここまでは推測できたが、それ以上は前に進めずにいた。
祖父の生きていた頃、【はちざえもん】という名前のご先祖様はいたかと聞いたことがあった。返事は、わからない、と一言。祖母が付け加えるところによると、戦争の空襲で過去帳を焼失してしまったらしく、曽祖父母の代までしか辿ることは出来ないということだった。最後の望みをかけ、確かめにいった
酒に酔って上機嫌な父に、繰り返しみる夢はあるか、と訊いたこともあった。が、夢は目が醒めると同時に忘れてしまうのだといったような言葉が返ってきただけだった。
「【はちざえもん】さんが俺に何かを伝えようとしてるんじゃあない、のかな……」
片腕を額に乗せ、目を瞑りながら呟いてみた。
同じ夢を何度もみている中、これはご先祖様の記憶で、なにかメッセージを伝えようとしているのかもしれない、という漠然とした考えが浮かんだ。が、読み取ろうにも、夢は非常に短く断片的で、交わす言葉と視覚や聴覚から得られる少しの情報しか手がかりがなかった。
もしかすると、幼少期に母と一緒に観たテレビドラマか映画だかのワンシーンを強烈に記憶しており、それが夢となっているだけかもしれなかった。いや、普通に考えると後者の方が確率は高い。
ぐるぐると思考を巡らせているうちに、睡魔がやってきた。瞼が重くなり、勝手に閉じていく。
「せめて……名前の、漢字が……分かれば……な」
────
夏休みも、残り一週間となっていた。昼ご飯を食べた後、一度勉強机へ向かった。が、まだたんまりと残っている課題と対面すると、どうしてもやる気が起きなかった。
課題を片付けるためにはまず部屋の掃除からしなくちゃだな、などと、余計なことを考えた。掃除中のBGMをかけるため、という動機で手に取ったスマートフォンに、本日の生物部の当番である後輩から、一件のメッセージが入っていた。
用件をまとめると、生物部で飼っている兎が一羽、餌やりの途中で飼育小屋から脱走した。現在、他の生物部員にも呼びかけて捜索をしている、とのことだった。脱走したのは茶毛に白い靴下を履いた個体らしい。
俺の住む地方の田舎は、水田や畑、
メッセージを受信したのは、十分ほど前だった。脱走後すぐに送信してきたならば、兎はそう遠くへは行っていないだろうと思った。
俺も捜索する、と後輩へメッセージを返し、家を飛び出た。
入道雲が、青空に白く輝いていた。自転車に乗り、畦道を通って、高校の近くの水田を見て回る。雑草の抑制、害虫の駆除などの効果を期待して放し飼いにされている合鴨が、
白いシャツの胸元を掴み、流れる汗を拭う。入道雲の中から、飛行機が顔を出した。
薄い色のジーンズのポケットで、ヴー、とスマートフォンが振動した。どうやら、メッセージを受信したようだった。見ると、差し出し人は顧問の先生だった。高校の裏にある森には、集まった一年生と共に捜索に向かう。見つかり次第報告する、とのことだった。もっと人手がほしいところだが、十一月に正式に引退となり、現在は受験勉強に勤しんでいる三年生の先輩方へ応援を頼むわけにもいかなかった。
八月の下旬ともなると、日の落ちるのが早くなってくる。なんとか、十九時前には見つけ出したいところだ。
水田にはいなかったが、畑ならいるかもしれない。そう思い、畑の多い地域へと向かった。
餌やりの途中で脱走したということは、餌を充分に食べられていない可能性が高い。そうすると、なにか食料を求めて畑へ来ることもあり得ることだった。
畑には、収穫の終盤に差し掛かった夏野菜がまだちらほらと
自転車を止め、畑へ入り、
「
「っはい?!」
車輪が回るたび、フロントフォークに取り付けた発電機のローラー部が回転し、ライトがついて行先を照らす。
暮れかけの夕日が燃えている。結局、畑では兎を見つけられなかった。それどころか、畑の様子を見に来た主のおじさんに畑泥棒だと勘違いされ、追いかけ回されたのちに捕まった。人を見かけで判断してはいけないという言葉の意味が、骨身に染みた。おじさんに事の詳細を話し、誤解を解くのに大変な時間がかかってしまった。
地平線に沈んでゆく夕陽を見つつ、自転車を押す。蜩の声が、遣る瀬なさを後押しするように切なく響いている。
今朝までまだかろうじて白さを保っていたスニーカーは、土で汚れてしまっていた。
すっかり暗くなった道の先で、一つまた一つと順番についた街灯が、辺りを照らしていく。
────
前方から、誰かがこちらへ歩いて来る。街灯がまばらなので、人の姿は見えたり見えなくなったりする。街灯で照らされた姿を見たところ、隣町の頭のいい私学高の制服を着ていた。足元はスラックスだったので、男子生徒だろう。
もうこんなに暗いのに、隣町の高校生が? という疑問が浮かんだ。
今、何時だろう。ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した。
街灯の下で、高校生とすれ違う。横目でチラと、その顔を見る。
「っあの!」
俺は無意識に、彼を呼び止めていた。
横目でチラと見たその顔は、幼い頃から繰り返しみる夢でよく見た顔だった。
「はい?」
突然呼び止められた高校生は、キョトンとした表情をこちらへ向けたのち、あ、と目を見開いた。長い睫毛が印象的だった。
咄嗟に呼び止めてしまったけれども、あとに続く言葉が出てこない。何か話さないと、と言葉を探す。
動揺から目が泳いだ先、一キロメートルほど離れた山の
煙の尾を引きながら、ひゅるひゅる、とほとんど一直線に火の玉が上がっていくのが見えて、思わず指をさした。
「ね、あれ……」
高校生は、不思議そうな顔をしながら、俺の指す先を振り返った。
色とりどりの火花が模様を描いて、空に舞う。数秒遅れて、身体の奥を揺さぶるようなドンという破裂音が届いた。一瞬、空に模様を描いた火花は、次第にその形を崩し、瞬きながらパラパラと落ちていった。
不意に打ち上がった花火に、俺たちは少しの間、呆気にとられていた。
「夢と一緒だ」
「……夢?」
俺の呟きに、高校生は聞き返した。
「小さい頃から、夏になると繰り返しみる夢があるんだ。どこかの縁側で、はね癖のある黒髪を下ろした少年と並んで座って、不意に打ち上がった花火を見る、そんな夢」
「……へぇ。不思議なこともあるもんだね」
ヴー、と、手にしていたスマートフォンが振動する。画面には顧問の先生の名が表示されていた。着信だった。
「出ないの?」
画面を見つめて動かないでいた俺に、高校生はそう言葉をかけた。
指先で、通話ボタンをタップする。
『竹谷! メッセージ見たのか!』
出るなり、電話口から大声が飛んできた。
「メッセージ?」
『例の兎、見つかったって。メッセージ入れたろう』
「……あ、すいません、見てませんでした」
『だろうな、返事がなかったから。お前のことだ、夢中で探し回ってたんだろう』
「その通りです、木下先生……」
『はぁ。周りが見えなくなるその悪癖、どうにかしろよ』
「あはは〜……」
電話口の相手には見えはしないのに、俺は眉で八の字を書いて、頭を下げた。
『兎の件はもう済んだから、早いところ家へ帰れ。親御さんが心配するぞ』
「わかりました」
通話が切れたことを確認して、サイドボタンを押し、画面を暗転させた。
「兎が……逃げて、探してたんだ?」
隣には、変わらず高校生が立っていた。通話口での木下先生の声が大きかったので、会話内容が筒抜けだったらしかった。気恥ずかしいが、こうなってはもう仕方がないので、事のあらましを話すことにした。
「そう、なんだ。俺、この近くの高校の生物部員なんだけど。飼育してる兎が脱走したって、後輩からメッセージが届いて。それで、あちこち探し回ってたんだ」
「あはは、変わらないなぁ。【はちざえもん】は」
柔らかな笑みを浮かべ、真っ直ぐとこちらへ顔を向ける、【へいすけ】によく似た高校生の優しい瞳と、目が合った。
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