寒夜の訪問者
吐く息が白い。身体が悲鳴をあげている。目立った外傷はないが、節々が軋むように痛む。痛みは外気温の低さからくるものではない。この感覚は、慣れようとして慣れられるものではなかった。
学園長先生の突然の思いつきにより、深夜に急遽、裏裏裏山へ召集された五、六年生は、夜間合同野外訓練と銘打った学年対抗戦を余儀なくされた。夜間に行われたそれは、制服の色に助けられ、昼間よりも有利性があったが、それでも尚、技量やチームワークの差を見せつけられる結果に終わった。
度々開催される学年対抗戦のおかげで、様々なことを身をもって知ることができた。例を挙げるなら、どのような相手から向かえばこちらを有利に運べるかと思案し作戦立てをする重要性、またその作戦が相手方の出方によっては無に帰すということなどだ。
手加減なしの戦闘に燃えられるいい機会なので楽しくはあるが、徹底的に負かされるのは正直こたえるものがある。
「一人の差なんて大したことないように思えるのになぁ」
そんなことをひとりごちながら、竹谷八左ヱ門は自室前まで帰り着いた。
すっ、と部屋の戸へ手をかけたところで、室内に人の気配を感じた。
来てたんだ、と思った。極力、音を立てないように戸を開ける。すると、暗がりの室内にはちんまりとした白い山があった。それは、委員会の後輩で竹谷と同じく生き物好きの伊賀崎孫兵が布団に潜り込んで出来たものだった。
孫兵は、いつも連れ歩き、溺愛している毒蛇のジュンコが冬眠してしまい寂しさが募ると、夜な夜な竹谷の部屋へとやってきて、布団へ潜り込んでくる。その頻度は進級する度に減ってきてはいるが、やはりまだ、完全には無くなっていない。竹谷は、寂しさがわかる分、孫兵を突き放すことが出来ずに毎回受け入れてしまうのだった。
次回は窘 めよう、と思いながら──。
孫兵はどうやら、いつも同様、竹谷の眠る布団へ潜り込もうとやってきたが、部屋の主が留守だったので、勝手に押入れから布団を取り出し、敷いて、眠ったようだった。
竹谷は、足音を抑えて室内に出来た標高の低い白き山へ近づいた。髪が見えているので、頭は出ているようだった。さらに近づき、ゆっくりと孫兵の顔を覗き込む。生まれつきの虹彩の薄さから、夜目が利くことには自信があった。
孫兵は、すーすー、と寝息を立てている。時折揺れる量の多い睫毛 には、乾ききっていない涙が滲んでいた。擦ったのであろう、目元が赤くなっている。
そんな孫兵の様子を見て、竹谷は胸を針先で突かれたような感覚がした。寂しさを埋めにやってきたのに、余計に寂しい想いをさせてしまった。そんな罪悪感が心におこった。
途端に孫兵を愛おしくなった竹谷は、ちんまりとした白い山へ上体を覆い被せた。
俺まで居なくなったら、孫兵は。この子は誰を頼るんだろう──。
そんな、一人で考えていても答えの出ないことを考えながら。
学園長先生の突然の思いつきにより、深夜に急遽、裏裏裏山へ召集された五、六年生は、夜間合同野外訓練と銘打った学年対抗戦を余儀なくされた。夜間に行われたそれは、制服の色に助けられ、昼間よりも有利性があったが、それでも尚、技量やチームワークの差を見せつけられる結果に終わった。
度々開催される学年対抗戦のおかげで、様々なことを身をもって知ることができた。例を挙げるなら、どのような相手から向かえばこちらを有利に運べるかと思案し作戦立てをする重要性、またその作戦が相手方の出方によっては無に帰すということなどだ。
手加減なしの戦闘に燃えられるいい機会なので楽しくはあるが、徹底的に負かされるのは正直こたえるものがある。
「一人の差なんて大したことないように思えるのになぁ」
そんなことをひとりごちながら、竹谷八左ヱ門は自室前まで帰り着いた。
すっ、と部屋の戸へ手をかけたところで、室内に人の気配を感じた。
来てたんだ、と思った。極力、音を立てないように戸を開ける。すると、暗がりの室内にはちんまりとした白い山があった。それは、委員会の後輩で竹谷と同じく生き物好きの伊賀崎孫兵が布団に潜り込んで出来たものだった。
孫兵は、いつも連れ歩き、溺愛している毒蛇のジュンコが冬眠してしまい寂しさが募ると、夜な夜な竹谷の部屋へとやってきて、布団へ潜り込んでくる。その頻度は進級する度に減ってきてはいるが、やはりまだ、完全には無くなっていない。竹谷は、寂しさがわかる分、孫兵を突き放すことが出来ずに毎回受け入れてしまうのだった。
次回は
孫兵はどうやら、いつも同様、竹谷の眠る布団へ潜り込もうとやってきたが、部屋の主が留守だったので、勝手に押入れから布団を取り出し、敷いて、眠ったようだった。
竹谷は、足音を抑えて室内に出来た標高の低い白き山へ近づいた。髪が見えているので、頭は出ているようだった。さらに近づき、ゆっくりと孫兵の顔を覗き込む。生まれつきの虹彩の薄さから、夜目が利くことには自信があった。
孫兵は、すーすー、と寝息を立てている。時折揺れる量の多い
そんな孫兵の様子を見て、竹谷は胸を針先で突かれたような感覚がした。寂しさを埋めにやってきたのに、余計に寂しい想いをさせてしまった。そんな罪悪感が心におこった。
途端に孫兵を愛おしくなった竹谷は、ちんまりとした白い山へ上体を覆い被せた。
俺まで居なくなったら、孫兵は。この子は誰を頼るんだろう──。
そんな、一人で考えていても答えの出ないことを考えながら。
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