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車内の空気がバキバキに凍っている。たとえ液体窒素に浸したとしても、ここまで冷え切ってしまうことはないんじゃないかってレベルまで。
冷気の放出源は僕の前方、助手席に座る彼女。だというのに、運転席に座るマクワックさんは平気な顔で鼻歌を歌っていたりするもんだから驚きだ。絶望的な空気の読めなさか、それとも彼女のこんな態度には慣れっこなのか、あるいはその両方か。
「ガンドラさんをオフィスに招くための運転手を用意する」とヒューイは言っていた。それがマクワックさんなのは容易に想像がついたけど、まさかミョウジさんまで来るなんて聞いてない。これじゃ、お邪魔なのは僕らの方だ。
「あ、あのう……ミョウジさん」
「なに?」
おずおずと声をかければ、返答だけが返ってきた。首は動いてないから、表情が分からない。
「すみません、本当に、その。僕たちのために……」
「ううん、謝らないで。カブレラくんたちは何にも悪くないじゃない。ただ、どっかの誰かが私との約束のことなんてすっかり忘れてヒューイくんからの頼まれ事を安請け合いしちゃったのが問題だったってだけで!」
「え、誰の話?」
こっちをくるりと振り向いたミョウジさんは、満面の笑みを貼り付けていた。その輝く笑顔が逆に怖い。そしてマクワックさんは何でそう呑気なことを言っていられるんだ。あなたの話ですよ。
しかし、やっぱりそうなのか。僕らとは違って、この二人は正真正銘デートの予定だったわけだ。それを邪魔されたとあっちゃ、こうイライラするのも無理はない。ああ、なんて戯け者。ヒューイ、君はなんてことをしてくれたんだ。
頭を抱える僕とは裏腹に、隣のガンドラさんは平然としている。この子すごいな。ミョウジさんと初対面だから逆に平気なのかもしれないけど。
「でも、いいじゃない、デート。応援するわよカブレラくん。頑張って」
「そうそう、デートしたいって思えるほど特別な相手に出会えるのは大切だから」
だから科学について語り合うだけで、デートじゃないんですってば。何回訂正しても誤解は解けない。もうどうでも良くなってくる。
「特別なやつってのは色々いるよ。友達、親友、怖い忍者、禁断の人魚……」
「……へえ」
ミョウジさんが小さく相槌を打つ。口元は釣り上がっているけど、目が笑ってない。
今のはまずい。僕でも分かる。マクワックさん、あなたは何でそんなに迂闊なんだ。羅列した情報はどう考えても元カノのそれで、それをミョウジさんが良く思わないことぐらい分かるだろうに。
ぐっとミョウジさんが運転席に向けて身を乗り出す。もうやめて。修羅場は無事に僕たちを下ろしてからにしてほしい。
「大切なものが随分沢山お有りのようで大変ねえ、ランチパッド。その中で一番大切なものは一体どれなのかしら」
「ん? 今挙げたものの中には入ってないな」
マクワックさんの右手が、一瞬ハンドルから離れる。流れるような動きで、大きな手はミョウジさんの頭をグシャグシャ撫でた。
「オレの一番大切なものは、強くてしっかり者なのに寂しがり屋で、旦那の秘書をしてて、今オレの隣に座ってる」
……車内の気温が一気に上がる。
ミョウジさんの顔がリンゴみたいに真っ赤になって、それに当てられたように僕も赤くなってしまう。
第三者の僕ですら思う。そういうのズルい。多分一切の計算なしでやってるんだろうなってところもまたズルい。
これは効果覿面だろう。その証拠にミョウジさんは顔を覆って動かなくなった。完全なるキャパオーバーからのフリーズ。
「あれ? どした、ナマエ」
「どうしたもこうしたもアンタのせいよ……」
マクワックさんの言葉も、彼女に完全再起動をかけるには至らなかったようだ。ただ、ミョウジさんの怒りはすっかり鳴りを潜めてしまっている。言葉の中に非難するような色は全く無くて、むしろ「好き」がこれでもかと散りばめられている。見ているこっちは「ごちそうさまでした」以外の感想が思い浮かばない。
マクワックさんとミョウジさん。タイプが正反対なのにどうして上手くいってるんだろうと前々から疑問に思うことはあったけど、その答えを今日垣間見た気がした。
マクワックさん、あなたこそデート頑張ってください。心の中で、密かにエールを送る。
まあ、この様子じゃ僕の応援なんて不要なんだろうけど。
*****
お題配布元→確かに恋だった
冷気の放出源は僕の前方、助手席に座る彼女。だというのに、運転席に座るマクワックさんは平気な顔で鼻歌を歌っていたりするもんだから驚きだ。絶望的な空気の読めなさか、それとも彼女のこんな態度には慣れっこなのか、あるいはその両方か。
「ガンドラさんをオフィスに招くための運転手を用意する」とヒューイは言っていた。それがマクワックさんなのは容易に想像がついたけど、まさかミョウジさんまで来るなんて聞いてない。これじゃ、お邪魔なのは僕らの方だ。
「あ、あのう……ミョウジさん」
「なに?」
おずおずと声をかければ、返答だけが返ってきた。首は動いてないから、表情が分からない。
「すみません、本当に、その。僕たちのために……」
「ううん、謝らないで。カブレラくんたちは何にも悪くないじゃない。ただ、どっかの誰かが私との約束のことなんてすっかり忘れてヒューイくんからの頼まれ事を安請け合いしちゃったのが問題だったってだけで!」
「え、誰の話?」
こっちをくるりと振り向いたミョウジさんは、満面の笑みを貼り付けていた。その輝く笑顔が逆に怖い。そしてマクワックさんは何でそう呑気なことを言っていられるんだ。あなたの話ですよ。
しかし、やっぱりそうなのか。僕らとは違って、この二人は正真正銘デートの予定だったわけだ。それを邪魔されたとあっちゃ、こうイライラするのも無理はない。ああ、なんて戯け者。ヒューイ、君はなんてことをしてくれたんだ。
頭を抱える僕とは裏腹に、隣のガンドラさんは平然としている。この子すごいな。ミョウジさんと初対面だから逆に平気なのかもしれないけど。
「でも、いいじゃない、デート。応援するわよカブレラくん。頑張って」
「そうそう、デートしたいって思えるほど特別な相手に出会えるのは大切だから」
だから科学について語り合うだけで、デートじゃないんですってば。何回訂正しても誤解は解けない。もうどうでも良くなってくる。
「特別なやつってのは色々いるよ。友達、親友、怖い忍者、禁断の人魚……」
「……へえ」
ミョウジさんが小さく相槌を打つ。口元は釣り上がっているけど、目が笑ってない。
今のはまずい。僕でも分かる。マクワックさん、あなたは何でそんなに迂闊なんだ。羅列した情報はどう考えても元カノのそれで、それをミョウジさんが良く思わないことぐらい分かるだろうに。
ぐっとミョウジさんが運転席に向けて身を乗り出す。もうやめて。修羅場は無事に僕たちを下ろしてからにしてほしい。
「大切なものが随分沢山お有りのようで大変ねえ、ランチパッド。その中で一番大切なものは一体どれなのかしら」
「ん? 今挙げたものの中には入ってないな」
マクワックさんの右手が、一瞬ハンドルから離れる。流れるような動きで、大きな手はミョウジさんの頭をグシャグシャ撫でた。
「オレの一番大切なものは、強くてしっかり者なのに寂しがり屋で、旦那の秘書をしてて、今オレの隣に座ってる」
……車内の気温が一気に上がる。
ミョウジさんの顔がリンゴみたいに真っ赤になって、それに当てられたように僕も赤くなってしまう。
第三者の僕ですら思う。そういうのズルい。多分一切の計算なしでやってるんだろうなってところもまたズルい。
これは効果覿面だろう。その証拠にミョウジさんは顔を覆って動かなくなった。完全なるキャパオーバーからのフリーズ。
「あれ? どした、ナマエ」
「どうしたもこうしたもアンタのせいよ……」
マクワックさんの言葉も、彼女に完全再起動をかけるには至らなかったようだ。ただ、ミョウジさんの怒りはすっかり鳴りを潜めてしまっている。言葉の中に非難するような色は全く無くて、むしろ「好き」がこれでもかと散りばめられている。見ているこっちは「ごちそうさまでした」以外の感想が思い浮かばない。
マクワックさんとミョウジさん。タイプが正反対なのにどうして上手くいってるんだろうと前々から疑問に思うことはあったけど、その答えを今日垣間見た気がした。
マクワックさん、あなたこそデート頑張ってください。心の中で、密かにエールを送る。
まあ、この様子じゃ僕の応援なんて不要なんだろうけど。
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お題配布元→確かに恋だった
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