作戦の目的地へ向かう道は、平坦なものばかりではない。人目を避けたい私達は、そもそも「道」になっていない場所を移動することの方が圧倒的に多い。山の中や、岩肌の上。川が行く手を阻むことだってある。
最初は正直辛かったけれど、最近はようやく慣れてきた。少しは足腰が鍛えられたんだろうか。体力作りのために始めた走り込みも無駄ではなかったかもしれない。元々は、召銃のあとにフラフラになってしまうのを少しでも抑えるためにと思ってのことだったけれど。
私は、前線に立つわけではない。みんなの傷に処置を施す衛生兵だ。けれど、だからといってそれを言い訳に足手まといになるわけにはいかない。移動くらい、誰の手も借りずにこなせるようにならないと。
そう、思っていたのに。
「む、ここは道が泥濘んでいるな。
シエラ、来たまえ!」
この人ときたら。少しでも道の悪いところに差し掛かると、必ず私を呼ぶ。
そして、軽々と私を抱きかかえて、その悪路を進むのだ。
勿論、何度も辞退した。
陛下、さすがに申し訳ないです。そんなことして頂かなくても、自分で歩けます。それに、皆さん見ていらっしゃいますから――
だが、それに返ってきたのは太陽のような笑顔だけ。
「愛しの君に、このような危険な道を歩かせてなるものか。遠慮などするな、
シエラ。君は私の愛を享受するだけでいいと、いつも言っているだろう」
ああ、もう、そんなこと言われてしまっては、おとなしく受け入れるしかないじゃない。
陛下の首に回した手に力を込めて、その胸元に頬を寄せる。赤くなった顔を隠したかったのだけれど、陛下は更に上機嫌になったようだった。
あなたの手は、敵に向けて銃を構える大事な手。私なんか抱き上げて万が一痛めてしまったら、元も子もない。だからこんなこと、本当は喜んじゃいけない。
でも。昔、本で読んでから、ずっと夢見ていた。愛する人にこうやって、お姫様抱っこされることを。
こんなにふわふわする気持ちになるなんて、あなたのおかげで初めて知った。
「でも、陛下。皆さんの前では、やっぱり恥ずかしいです……」
「私としては皆に見せつけたかったのだが。では、今度は二人きりの時にするか。
……行き先はベッドの上になるがな」
耳元で囁かれた言葉に、爆発したように頬が熱くなった。
何か言い返したかったけれど、唇はパクパク動くだけで言葉にならない。私の間の抜けた顔を見て、彼は相変わらず心底楽しそうに笑っている。
陛下、今から作戦なんですからね! 緊張感が足りませんわ! ええ、あなたも私も!
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貴方は時間があるなら『お姫さま抱っこをしているナポマス』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
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