nocturne
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その女は、思いの外強情であった。
歳若い娘だ。少し痛めつければ、泣いて命乞いをしながら洗い浚い手持ちの情報を白状するだろうと、男は正直侮っていた。
だが、脅そうが、激痛を与えようが、彼女は決して口を割らなかった。流石は曲がりなりにも貴銃士のマスターであると賞賛すべきか。
しかし、このまま何の収穫も無いというのは宜しくない。それに、何より退屈だ。
さて、どうしましょうか。思案しつつ、男は床に這い蹲る女を見遣る。先程までは痛みに悲鳴を上げていたが、『尋問』の手を止めた今は荒い息をつきながら、無様な姿を晒している。両手足を縛られ、床に倒れ伏す姿は芋虫のようで滑稽だ。
ふと、その首筋に、銀色に光る何かを見止めた。あれは何だ、鎖か。先は、女の服の中に隠されていて見えない。即座に、しかし優雅さすら感じさせるように、ゆるりと男は手を伸ばす。
「ボディチェックは怠るなとあれほど言いましたのにねえ」
独り言ちながら、男のものにしては繊細な指で、彼はその鎖を服から引き抜いた。少しばかり力を込め、細い鎖を引きちぎる。
露わになった部分には、輪が通されていた。大きさから察するに指輪だろう。色は鎖と同じような銀色だが、見た目と重量の安っぽさから察するに純銀でも白金でもない。ただのメッキだ。
ただのガラクタか。いや、油断は禁物だ。中に何か仕込まれている可能性だってある。指輪を掌の中で弄びながら、男は考えを巡らせていた。
その勘は、恐らく正しかったのだろう。途端に、女の顔色が変わった。これまで何をしても引き結んでいた唇が、今は小さく震えている。
「返して──ください、……返して!」
血の気の引いた顔で必死に見上げ、女は声を張り上げる。尋常ではない焦り様に、顔を隠したガスマスクの下、男は笑みを深くする。
「やはり、何かあるのですね?この指輪は」
「あなた方が期待するようなことは何もありません!大切な方から頂いたものなんです!だから、お願いします、それだけは持って行かないで!」
「そんな言葉、信じられるとお思いですか?」
そう嘆息しながらも、彼女の言葉に嘘はないのだろうと男は考えていた。その必死さは、情にかられた人間のそれに相違ないように見えたからだ。
所詮はただの女か。実につまらない。だが、それならそれで使い途もある。
親指と人差し指で輪を摘み、態とらしく男はそれを女の目の前に掲げた。
「ならば──取引と行きましょうか、お嬢さん。あなたがレジスタンスの情報を教えて下されば、これはすぐにお返ししますよ。どうです?悪い話ではないでしょう?」
女の目が、驚愕と絶望に見開かれる。その双眸に向かって、男は念を押す様、首を傾げて見せた。