千銃士
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基地内の視察中、鈴の鳴るような声が「陛下」と私を呼び止めた。声の方向に目を向ければ、我らのメディックを務める彼女がこちらに視線を向けている。
「何の用だね、シエラ。私は多忙なのだが」
「し、失礼致しました。でも、陛下、お胸元が…」
「胸元?」
指摘されて見てみれば、胸を飾るリボンタイが解け、風に揺れている。確かにこれは由々しき事態だ。着衣が乱れていては、皇帝の威厳に差し障るではないか。
「あの、陛下、少々失礼致しますね」
断りを入れるが早いかシエラは手袋を外し、スカートのポケットに詰め込んだ。露わになった細い指がタイの両端を摘み上げ、するすると迅速かつ美しく結び目を作り上げる。
――殆ど密着していると言ってもいい距離。その白い腕を拘束するのに、些かの労力も要らぬだろう。いや、私は紳士だから女性に対してそのような無体は働かないが、まさか彼女は他の男達に対してもこんなに無防備なのか?それは良くない、良くないぞシエラ。飢えた獣達の群れに自ら飛び込むような真似をしてどうする。
「はい、陛下、出来上がりです」
明るい声が、思考の海から私を引き上げる。目尻を下げ、柔らかく笑む彼女を見て、初めて私は煩いほどに高鳴る己の鼓動と、彼女を抱き寄せんとしていた右手を自覚したのだった。
後日。
「……陛下、タイが緩んではおりませんか。そのままだとすぐに解けてしまいそうですが」
「いや、ラップ、これはこのままで良いのだ!さて、シエラはどこだ?シエラ!シエラー!」
(……また何かおめでたいことを考えているな、この人は)