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お皿に乗せて、ラップを掛けずに50秒。たったそれだけで、キッチンにはほのかに甘く香ばしい香りが広がる。
電子レンジが終了音を鳴らす前にそっと扉を開ければ、中にはほかほか湯気の立つ可愛い可愛い鯛焼きちゃんの姿。
時刻はみんな寝静まった深夜二時。こんな時間に一人でこっそり甘いものを食べるなんて、何だかいけないことをしてるみたい。誰かが言っていた、「背徳的な気持ち」ってやつだろうか。
でも、お腹空いちゃったんだから仕方ない。「いただきまーす」と心の中で呟いて、頭からぱくりと行こうとした、その時。
「まだ起きてたの?」
キッチンの入り口から聞こえてきた声に、思わずピタッと動きが止まった。
その声音は、いつもと変わらず優しい。怒っている様子も、咎めている様子もない。未だかつて、この人が怒りをあらわにしたところを見たことがない。なのに、責められているような心地になるのは、何故だろう。
「釈迦如来、様――」
「もう丑三時だよ。学校があるのにこんな時間まで起きているなんて、感心はしないね、堂守さん」
「もうすぐ期末テストだから……」
「それでもだよ。体を壊しでもしたらどうするんだい」
「釈迦如来様だって起きてたくせに……」
「私は、物音がしたから様子を見に来ただけだよ」
バツが悪くて、ついつい可愛くない態度を取ってしまう。
この人は――あんまり得意じゃない。
無知な私でも名前を知ってる、とってもメジャーな仏様。優しいし、怒らないし、右も左も分からない「堂守」の私に色々教えてもくれるけれど。
柔らかい笑顔と向き合うと、何もかもを見透かされている気持ちになる。
「しかも――」
釈迦如来様の視線が、私の手の中へと移る。そこには未だ手付かずの鯛焼きの姿。
「こんな時間にこっそり鯛焼きを楽しむなんて。堂守さんは悪い子だね」
「これはっ、勉強してたら小腹が空いてっ」
ああもう、結局バレた。こんなことにならないために、電子レンジだって鳴らさないよう細心の注意を払ったのに。
「って言うか、別に食べたっていいじゃないですか。冷蔵庫に入ってるものは、名前が書いてなければ共有物でしょ? 冷凍鯛焼きは、釈迦如来様だけのものじゃないんですっ」
「それは、確かに構わないけれどね。体重計を見て、悲鳴を上げるような事態にならないなら」
返ってきた言葉がぐっさり突き刺さって、言葉に詰まる。
にっこり綺麗な笑顔で、なんて意地悪なことを言うんだ、この人は。
でも――改めて言葉にされると、箱に書いてある「一個あたり188kcal」の文字がずうんと重く伸し掛かってくる。
いいもん、気にしないもん。食べたぶん、カロリー消費すればいいんだもん。そう開き直ることだって、出来るけど。
葛藤の末、私は結局、手の中の鯛焼きを真ん中あたりから半分に割った。そして、その尻尾の方を、釈迦如来様に向かって差し出す。
「……あげます、半分。尻尾から食べる派でしたよね、釈迦如来様」
「ありがとう。じゃあ、牛乳でも温めようかな」
相変わらずニコニコ笑ったままで、釈迦如来様は冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。テーブルの上に、二人分のマグカップが並ぶ。
「……もしかして、最初からこうするつもりで起きてきたんじゃないですよね?」
「まさか。私は君がいることすら知らなかったのに」
……本当に、そうなのかな。この人にはやっぱり、全部お見通しのような気がしてしまうんだけど。
訝しげな私の視線とは裏腹に、目の前のこの人はやっぱり柔和に笑っている。私に、ホットミルクを差し出しながら。
「温かい牛乳を飲むと、よく眠れると聞いたよ。君も、それを飲んだら寝なさい」
「……はい」
唇を尖らせて頷く私の頭を、「いい子だね」と釈迦如来様は撫でた。
お釈迦様にホットミルクを作ってもらって、あまつさえ頭を撫でてもらう、なんて。多分私、相当すごいことをしてもらっているんだろうな。
やっぱり、この人はあんまり得意じゃない。
本当は生きる世界が違う人なのに。普通の男の人みたいな顔でニコニコ笑って、優しく、厳しくしてくれるから。
私の心の中を全部知られているんじゃないかと思って、居心地が悪くなる。
半分になった鯛焼きに、ようやく齧りつく。さっきより冷めてるはずのそれは、ずっとずっと私の胸を温かくした。
「誰かと食べる鯛焼きは、美味しいね」
「いつも一人でも美味しそうに食べてますよね、釈迦如来様」
「一人でも美味しいけど、堂守さんと一緒に食べると二倍美味しいんだよ」
だから、何でそういうことを言うの!
思わず顔が熱くなったのは、ホットミルクが熱すぎたせい。
そういうことにして、私は残りの鯛焼きをミルクと一緒に流し込んだ。
電子レンジが終了音を鳴らす前にそっと扉を開ければ、中にはほかほか湯気の立つ可愛い可愛い鯛焼きちゃんの姿。
時刻はみんな寝静まった深夜二時。こんな時間に一人でこっそり甘いものを食べるなんて、何だかいけないことをしてるみたい。誰かが言っていた、「背徳的な気持ち」ってやつだろうか。
でも、お腹空いちゃったんだから仕方ない。「いただきまーす」と心の中で呟いて、頭からぱくりと行こうとした、その時。
「まだ起きてたの?」
キッチンの入り口から聞こえてきた声に、思わずピタッと動きが止まった。
その声音は、いつもと変わらず優しい。怒っている様子も、咎めている様子もない。未だかつて、この人が怒りをあらわにしたところを見たことがない。なのに、責められているような心地になるのは、何故だろう。
「釈迦如来、様――」
「もう丑三時だよ。学校があるのにこんな時間まで起きているなんて、感心はしないね、堂守さん」
「もうすぐ期末テストだから……」
「それでもだよ。体を壊しでもしたらどうするんだい」
「釈迦如来様だって起きてたくせに……」
「私は、物音がしたから様子を見に来ただけだよ」
バツが悪くて、ついつい可愛くない態度を取ってしまう。
この人は――あんまり得意じゃない。
無知な私でも名前を知ってる、とってもメジャーな仏様。優しいし、怒らないし、右も左も分からない「堂守」の私に色々教えてもくれるけれど。
柔らかい笑顔と向き合うと、何もかもを見透かされている気持ちになる。
「しかも――」
釈迦如来様の視線が、私の手の中へと移る。そこには未だ手付かずの鯛焼きの姿。
「こんな時間にこっそり鯛焼きを楽しむなんて。堂守さんは悪い子だね」
「これはっ、勉強してたら小腹が空いてっ」
ああもう、結局バレた。こんなことにならないために、電子レンジだって鳴らさないよう細心の注意を払ったのに。
「って言うか、別に食べたっていいじゃないですか。冷蔵庫に入ってるものは、名前が書いてなければ共有物でしょ? 冷凍鯛焼きは、釈迦如来様だけのものじゃないんですっ」
「それは、確かに構わないけれどね。体重計を見て、悲鳴を上げるような事態にならないなら」
返ってきた言葉がぐっさり突き刺さって、言葉に詰まる。
にっこり綺麗な笑顔で、なんて意地悪なことを言うんだ、この人は。
でも――改めて言葉にされると、箱に書いてある「一個あたり188kcal」の文字がずうんと重く伸し掛かってくる。
いいもん、気にしないもん。食べたぶん、カロリー消費すればいいんだもん。そう開き直ることだって、出来るけど。
葛藤の末、私は結局、手の中の鯛焼きを真ん中あたりから半分に割った。そして、その尻尾の方を、釈迦如来様に向かって差し出す。
「……あげます、半分。尻尾から食べる派でしたよね、釈迦如来様」
「ありがとう。じゃあ、牛乳でも温めようかな」
相変わらずニコニコ笑ったままで、釈迦如来様は冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。テーブルの上に、二人分のマグカップが並ぶ。
「……もしかして、最初からこうするつもりで起きてきたんじゃないですよね?」
「まさか。私は君がいることすら知らなかったのに」
……本当に、そうなのかな。この人にはやっぱり、全部お見通しのような気がしてしまうんだけど。
訝しげな私の視線とは裏腹に、目の前のこの人はやっぱり柔和に笑っている。私に、ホットミルクを差し出しながら。
「温かい牛乳を飲むと、よく眠れると聞いたよ。君も、それを飲んだら寝なさい」
「……はい」
唇を尖らせて頷く私の頭を、「いい子だね」と釈迦如来様は撫でた。
お釈迦様にホットミルクを作ってもらって、あまつさえ頭を撫でてもらう、なんて。多分私、相当すごいことをしてもらっているんだろうな。
やっぱり、この人はあんまり得意じゃない。
本当は生きる世界が違う人なのに。普通の男の人みたいな顔でニコニコ笑って、優しく、厳しくしてくれるから。
私の心の中を全部知られているんじゃないかと思って、居心地が悪くなる。
半分になった鯛焼きに、ようやく齧りつく。さっきより冷めてるはずのそれは、ずっとずっと私の胸を温かくした。
「誰かと食べる鯛焼きは、美味しいね」
「いつも一人でも美味しそうに食べてますよね、釈迦如来様」
「一人でも美味しいけど、堂守さんと一緒に食べると二倍美味しいんだよ」
だから、何でそういうことを言うの!
思わず顔が熱くなったのは、ホットミルクが熱すぎたせい。
そういうことにして、私は残りの鯛焼きをミルクと一緒に流し込んだ。