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「あっ、姉貴ッ!」
執務室を出たところで、廊下の先から声をかけられた。
その方向に目をやれば、見慣れた顔が赤いジャケットを翻しながら、声と同じくらい体を弾ませてこちらに駆けてくる最中だった。
私を唯一「姉」と呼ぶ存在。先月検事になったばかりの、実の弟。
「弓彦」
「なあなあ姉貴、暇なら昼飯食いにいこうぜ、昼飯!」
突然のことに目を見開いた私のリアクションなど気にも留めず、弓彦は勝手に話を進める。
ちょっとは人の話も聞いて欲しいなあ…などと心の隅で考えるものの、弟のキラキラした瞳を見ていると何も言えなくなってしまう。
だって、こんな「会えて嬉しい」と顔いっぱいに書かれているような人間に、どうして逆らえようか。
それに、丁度仕事も一段落したところではあった。お昼くらい執務室を空けても、支障はないだろう。
しかし、そこで私ははたと気付いた。
いつも弓彦と一緒にいる彼女の姿が、今日はない。
「私はいいけど……水鏡裁判官は?一緒じゃないの?」
「なんかミカガミは、別の仕事があるんだってさ。検事審査会の方に顔を出さないといけないって」
「なるほど。それで一人になって、寂しくなったから私のところに来たわけか」
「なッ!」
ニヤリと私が笑うと、弓彦は耳まで真っ赤になった。多分図星だ。
伊達に17年間、弓彦の姉はやっていない。弟の考えていることは手に取るように分かる。
「ち、違うぞ!別にオレは寂しくなんかないッ!た、ただ、たまには姉貴と昼飯食うのもいいかなーと思って!」
「はいはい、弓彦はお姉ちゃん想いのいい子ねー」
「人の話聞けよ姉貴ィ!」
真っ赤な顔をした弟が、私の後ろを追いかけてくる。
あー可愛いなーと、密やかに私はほくそ笑む。
昔だったら素直に「寂しい」と言っていただろうけれど、ここ最近になって弟はそういう感情を私に隠すようになった。
念願叶って検事になったのもあって、大人ぶりたい気持ちがあるのだろう。
けれど、全く隠しきれてはいない。寂しがりやなのも、泣き虫なのも、昔から全然変わっていない。
そういうところが可愛くて仕方がない。
いくら大人ぶろうと、私の中の弟はいつまでたっても、私に縋りついて泣いていた小さな姿のままだ。
「そういえば弓彦、また背伸びたね」
私に追いつき、横に並んで歩く弟の頭に手をやる。その身長は私よりも10センチほど高い。
すると、今まで拗ねたような表情をしていた弟の顔は、途端に明るく輝いた。
「だろ?もう姉貴よりもこんなにデカいんだぜ!」
「父さんの血かしらねー…弓彦が180センチとか190センチになっちゃったら、私はちょっとショックだわ…」
「オレは嬉しいけどな!あと何年かしたら、オヤジみたいになるんだ、絶対!」
……それはやめてほしい。どう考えても似合わない。
うっかり秋霜烈日のついた真っ赤なライダーススーツを着ている弓彦を想像してしまい、必死にその映像を振り払う。
けれど、父親があれだけ長身なのだ。まだまだ成長期真っ只中なのだし、弓彦は今以上に大きくなるに違いない。
きっと成長した弓彦は、それはそれは格好良くなるだろう。しかし。
(お姉ちゃんは、可愛い弓彦の方がいい……)
そんな気持ちも、やっぱりある。
せめて、もう少しだけ今のままでいてほしい。
それはきっと、成長していく弟を見守る覚悟が、まだ私の中で出来ていないということなのだろうけれど。
それに。
「な、何だよ、姉貴……人の顔じっと見て」
「んー?弓彦がもっと大きくなっちゃったら、もうこんなことも出来ないなーって思って」
「うわッ!?」
手を伸ばし、弟の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。ふわふわした柔らかい髪の毛は、いつ触っても気持ちいい。
昔は簡単に出来ていたこの行為も、今じゃ私がちょっと背伸びをしないといけないくらいだ。
「な、何すんだよ姉貴ぃ……髪がボサボサになっただろぉ」
「だって弓彦の頭撫でるの好きなんだもん。昔はニコニコ笑って撫でられてくれてたのになあ」
「も、もうそんな子どもじゃないッ!」
「あら?いいのかなあ、そんなこと言って。いつまでたっても朝ひとりで起きられない子は誰かなぁ?」
「う……、あ、明日からは、頑張るッ」
憮然とした顔でそう言った弟を、「偉い偉い」ともう一度撫でる。
腕を伸ばさないと、届かないその場所。でも、私の脳内では、やっぱり弟の頭は私の腰辺りにしかない。
いつかはこの姿が、歳相応に、あるいはそれ以上に頼もしく感じられる日が来るのだろうか。
それはちょっとだけ楽しみではあるけれど、でもやっぱりあとしばらくは、小さくて可愛い弟のままでいてほしい。
「さてと。何食べに行こうか?弓彦」
「やっぱイチリュウの男としては……ハンバーグかオムライスだな!」
「……」
「ん?どうしたんだ?姉貴」
「……弓彦の、そういう期待を裏切らないところが大好きよ」
「や、やめろよー!照れるだろ姉貴ー!」
執務室を出たところで、廊下の先から声をかけられた。
その方向に目をやれば、見慣れた顔が赤いジャケットを翻しながら、声と同じくらい体を弾ませてこちらに駆けてくる最中だった。
私を唯一「姉」と呼ぶ存在。先月検事になったばかりの、実の弟。
「弓彦」
「なあなあ姉貴、暇なら昼飯食いにいこうぜ、昼飯!」
突然のことに目を見開いた私のリアクションなど気にも留めず、弓彦は勝手に話を進める。
ちょっとは人の話も聞いて欲しいなあ…などと心の隅で考えるものの、弟のキラキラした瞳を見ていると何も言えなくなってしまう。
だって、こんな「会えて嬉しい」と顔いっぱいに書かれているような人間に、どうして逆らえようか。
それに、丁度仕事も一段落したところではあった。お昼くらい執務室を空けても、支障はないだろう。
しかし、そこで私ははたと気付いた。
いつも弓彦と一緒にいる彼女の姿が、今日はない。
「私はいいけど……水鏡裁判官は?一緒じゃないの?」
「なんかミカガミは、別の仕事があるんだってさ。検事審査会の方に顔を出さないといけないって」
「なるほど。それで一人になって、寂しくなったから私のところに来たわけか」
「なッ!」
ニヤリと私が笑うと、弓彦は耳まで真っ赤になった。多分図星だ。
伊達に17年間、弓彦の姉はやっていない。弟の考えていることは手に取るように分かる。
「ち、違うぞ!別にオレは寂しくなんかないッ!た、ただ、たまには姉貴と昼飯食うのもいいかなーと思って!」
「はいはい、弓彦はお姉ちゃん想いのいい子ねー」
「人の話聞けよ姉貴ィ!」
真っ赤な顔をした弟が、私の後ろを追いかけてくる。
あー可愛いなーと、密やかに私はほくそ笑む。
昔だったら素直に「寂しい」と言っていただろうけれど、ここ最近になって弟はそういう感情を私に隠すようになった。
念願叶って検事になったのもあって、大人ぶりたい気持ちがあるのだろう。
けれど、全く隠しきれてはいない。寂しがりやなのも、泣き虫なのも、昔から全然変わっていない。
そういうところが可愛くて仕方がない。
いくら大人ぶろうと、私の中の弟はいつまでたっても、私に縋りついて泣いていた小さな姿のままだ。
「そういえば弓彦、また背伸びたね」
私に追いつき、横に並んで歩く弟の頭に手をやる。その身長は私よりも10センチほど高い。
すると、今まで拗ねたような表情をしていた弟の顔は、途端に明るく輝いた。
「だろ?もう姉貴よりもこんなにデカいんだぜ!」
「父さんの血かしらねー…弓彦が180センチとか190センチになっちゃったら、私はちょっとショックだわ…」
「オレは嬉しいけどな!あと何年かしたら、オヤジみたいになるんだ、絶対!」
……それはやめてほしい。どう考えても似合わない。
うっかり秋霜烈日のついた真っ赤なライダーススーツを着ている弓彦を想像してしまい、必死にその映像を振り払う。
けれど、父親があれだけ長身なのだ。まだまだ成長期真っ只中なのだし、弓彦は今以上に大きくなるに違いない。
きっと成長した弓彦は、それはそれは格好良くなるだろう。しかし。
(お姉ちゃんは、可愛い弓彦の方がいい……)
そんな気持ちも、やっぱりある。
せめて、もう少しだけ今のままでいてほしい。
それはきっと、成長していく弟を見守る覚悟が、まだ私の中で出来ていないということなのだろうけれど。
それに。
「な、何だよ、姉貴……人の顔じっと見て」
「んー?弓彦がもっと大きくなっちゃったら、もうこんなことも出来ないなーって思って」
「うわッ!?」
手を伸ばし、弟の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。ふわふわした柔らかい髪の毛は、いつ触っても気持ちいい。
昔は簡単に出来ていたこの行為も、今じゃ私がちょっと背伸びをしないといけないくらいだ。
「な、何すんだよ姉貴ぃ……髪がボサボサになっただろぉ」
「だって弓彦の頭撫でるの好きなんだもん。昔はニコニコ笑って撫でられてくれてたのになあ」
「も、もうそんな子どもじゃないッ!」
「あら?いいのかなあ、そんなこと言って。いつまでたっても朝ひとりで起きられない子は誰かなぁ?」
「う……、あ、明日からは、頑張るッ」
憮然とした顔でそう言った弟を、「偉い偉い」ともう一度撫でる。
腕を伸ばさないと、届かないその場所。でも、私の脳内では、やっぱり弟の頭は私の腰辺りにしかない。
いつかはこの姿が、歳相応に、あるいはそれ以上に頼もしく感じられる日が来るのだろうか。
それはちょっとだけ楽しみではあるけれど、でもやっぱりあとしばらくは、小さくて可愛い弟のままでいてほしい。
「さてと。何食べに行こうか?弓彦」
「やっぱイチリュウの男としては……ハンバーグかオムライスだな!」
「……」
「ん?どうしたんだ?姉貴」
「……弓彦の、そういう期待を裏切らないところが大好きよ」
「や、やめろよー!照れるだろ姉貴ー!」