夕日が、合石岳の向こうに沈んでいく。すっかり日が落ちるのが早くなった季節。携帯電話を開いて時間を確認すると、門限はすぐそこに迫っていた。
「慶さん、ごめんなさい、私そろそろ帰らなきゃ!また明日来ます!」
すっかり習慣化してしまった教会への寄り道。学校の帰りに立ち寄り、宿題と予習を熟す。大好きな慶さんの傍なら、勉強だって全然苦じゃない。
至福のひとときを切り上げるのは名残惜しいけど、そろそろ帰らないとおばあちゃん達に心配させちゃう。広げていたノートや教科書をカバンにバタバタ詰め込んで、教会の出口へ向かった、その時。
立ち上がった慶さんの手に、手首をぎゅっと捕らえられた。
「慶、さ」
名前を呼ぶ間もなく、強く体を引き寄せられる。向かう先は慶さんの胸の中。背と腰に手を回され、抱き締められた私の頬に、慶さんの唇が優しく触れる。
「……このまま離れたくないな」
ぽつり、耳元で囁かれ、心臓が一際大きくどくんと鳴った。
帰りたくない、私だって。出来るなら、朝から晩までずっと一緒にいたい。
学校にいる時だっていつも慶さんのことで頭が一杯で、でもそれじゃダメだって必死に自制してるのに、こんなことされたら「好き」が溢れて止まらなくなっちゃう。
でも。
「慶さん、私、帰らなきゃ。遅くなるとおばあちゃん達に怒られちゃうから。ね、明日また来ますから」
さっきと同じ台詞をもう一度繰り返し、促すように背中をぽんぽん叩く。私を胸に抱き込んでいた慶さんの腕から、ようやくゆっくりと力が抜けていく。
「…我儘ばっかりで、ごめんね。ダメだなあ、
夕夏ちゃんの方がよっぽどしっかりしてる」
眉を下げて、泣きそうな顔で慶さんは苦笑する。その顔さえ可愛く見えて、不覚にもキュンとしてしまう。
ああ、卒業までまだまだ遠いなあ。それまでに私、この人に何回こんな顔させちゃうんだろ。
私だって、同じ気持ちなんですからね。その想いを込めて、私からも頬に「またね」のキスをした。
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さよならを言おうとした瞬間、急に不慣れな手つきでほっぺにキスをされ、震える声で「もうこのまま離れたくない」と言われて、恥ずかしさのあまり話を逸らそうとする牧野夢
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