SIREN
夢小説設定
この小説の夢小説設定▼牧野夢主
女/17歳/高校生
羽生蛇村在住の高校二年生。薙刀部所属。
明るく活発。
小さい頃から求導師様大好き。
▼三上夢主
女/編集者
三上脩の担当編集兼恋人。
夜見島に行くと言った三上に同行して島へと赴き、共に異変に巻き込まれる。
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「んまっ!」
ヘタの方から齧り付いて、思わず唸る。一口じゃ食べられないくらいでかくて、練乳がいらないくらい甘くて、口の中に広がる果汁は瑞々しいって言えばいいのかな。きっと東京だったら立派な箱に入れられて、俺の小遣いじゃ手が届かないような高級品になるんだろう。そんなイチゴが皿に山盛りになってるなんて、とんでもない贅沢だ。
「でも、いいんですか?俺も一緒にごちそうになって」
「ええ、どうぞ。折角来てくれたんだから。それに、私達二人じゃ食べきれなくて」
「うん、いっぱいあるからどんどん食べて。お爺ちゃんとお婆ちゃんが箱で持って来てくれたんだけど、日持ちするものでもないし。どうしようか悩んでたから、須田くんが来てくれて助かっちゃった」
俺の向かいに座る牧野さんと奈瀬が揃って頷く。あ、もうすぐ「奈瀬」じゃなくなるんだっけ。でも今更下の名前で呼ぶのも何か気恥ずかしいしな。多分名前が変わっても、俺は「奈瀬」って呼び続けるんだろうな。
連休を利用して、久し振りにやって来た羽生蛇村。勿論真っ先に美耶子に会いに行ったけど、見知った顔に挨拶もしたくて、駐在所と病院を経由して最後に教会にやって来たら、牧野さんと一緒に奈瀬がいて驚いた。付き合ってたのは知ってたけど、とうとう奈瀬の卒業を待って籍を入れることが決まったらしい。俺と1コしか違わないのに将来決めちゃうとかホントすげーって思うけど、牧野さんの立場とか考えると色々あるんだろうな。そういや美耶子の姉ちゃんも似たような感じらしいし、偉い人って大変なんだろうな。
で、既に奈瀬は牧野さんの通い妻状態になってるらしい。学校ももう自由登校の時期で、受験しない奈瀬は登校したところで居場所に困るんだそうだ。これから受験生になる俺としては、身軽になった奈瀬がすっげえ羨ましい。
いっその事同棲すればいいのにって提案したら、「一応けじめはつけないとねえ」と牧野さんは苦笑いしてた。その顔に、ホントはずっと一緒にいたいんだって本音が滲んでる。うんうん、気持ちは分かる。俺だって美耶子とずっと一緒にいられたらっていつも思ってるし。
そんなこんなで、このイチゴは奈瀬の家族からの差し入れらしい。そういやイチゴ作ってる家だって言ってたな。「羽生蛇蕎麦に入ってるイチゴジャムも夕夏ちゃんのお家で作ってるんだよ」って牧野さんは嬉しそうに言うけど、あの絶望的な食い物、余所者の俺はちょっと良さを理解してあげられない。この新鮮なイチゴはホント美味いんだけど。
でもいい時にお邪魔したな。食べていいって言うなら、そりゃもう遠慮なく。こちとら育ち盛りの男子高校生なんだから。
「あ、須田くん、一応コンデンスミルクもあるからね」
「サンキュ。でも無くても充分甘いよ、これ。奈瀬の爺ちゃんたちに『美味かったです』って言っといて」
「ありがと、みんな喜ぶ。村の外の人に食べてもらえる機会なんて、滅多にないし」
パッと笑って、奈瀬はコンデンスミルクをまぶしたイチゴを口に運ぶ。するともぐもぐ咀嚼する奈瀬の口の端、白いミルクがちょっとだけ残った。
「夕夏ちゃん、ついてる」
即座に牧野さんの手が伸びる。親指が奈瀬の唇を拭って、そのまま牧野さんは流れるようにその指を自分の口に持ってって、舌で舐め取った。
……それがあんまりにも自然だったから、俺は冷やかすことも茶化すことも出来なかった。何となくぼんやりと、指舐めてるのに品があるなーなんて考えてしまう。育ちの良さってこういうとこにも出るんだなー。
そういや病院で宮田先生に「教会には気をつけろ」って忠告されてたんだった。そん時は首傾げたけど、今更理解出来た。あー、こういうことかー!
多分今俺の顔は、テーブルに乗っかってるこのイチゴたちより真っ赤だと思う。うん、多分向かいの奈瀬とおんなじように。
「…慶さん、その」
奈瀬の手が、牧野さんの袖をくいくい引っ張る。
「……今、二人っきりじゃないから…」
小さな奈瀬の抗議で、牧野さんもようやく気付いたらしい。みるみるうちに、俺達と同じように耳まで赤くなっていく。つまりここまでは完全な無意識。俺知ってるぞ、こういうのバカップルって言うんだろ。
「ああああああの、須田くん、今のはね、その、何ていうか」
「いいです牧野さん、弁解しないで!その方が俺よっぽど居た堪れなくなるから!」
わたわた焦る牧野さんを必死に止める。
ああもう、この一言に尽きるだろう。
――食べさせてもらったイチゴの分含めて、ご馳走様です!