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夢小説設定
この小説の夢小説設定▼牧野夢主
女/17歳/高校生
羽生蛇村在住の高校二年生。薙刀部所属。
明るく活発。
小さい頃から求導師様大好き。
▼三上夢主
女/編集者
三上脩の担当編集兼恋人。
夜見島に行くと言った三上に同行して島へと赴き、共に異変に巻き込まれる。
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教会裏手の墓地に、名が刻まれていない小さな墓があることは知っていた。決まってこの日、伯父──先代の求導師がその墓に手を合わせていたのも知っていた。
しかし、代替わりして早数年。ふと、あの墓はどうなったのだろうかと考えたのは、純粋な好奇心に他ならなかった。
花屋で仕入れた紫陽花を手に、教会への階段を上る。すると、目的地には既に人影が二つ並んでいた。
「…司郎」
「わ、先生だ!」
実の兄と歳下の義姉が、俺の顔を見て目を丸くする。
「今、司郎の話をしてたんだよ」
「うん、先生来てくれたらいいなって。だからびっくりしちゃった」
立て続けに、二人分の明るい声が俺を取り巻く。頼むから、喋るなら一人ずつ喋ってほしい。
「…お邪魔でしょう。用が済んだらすぐ帰りますので、ご心配なく」
「邪魔だなんて。終わったら、うちでお茶して行ってよ、司郎」
「慶さんの言う通りだよ、先生!最近会えてなかったし、色々お話ししよ?」
笑顔を浮かべた二人にがっちり両脇をホールドされ、逃げられないことを悟る。
…全く、お節介にも程がある。何で頼みもしないのに、連れ立って墓参りになんか来るんだ。あなた方二人には、縁もゆかりも無い相手だって言うのに。
既に活けられていた真新しい花の隙間に、持ってきた紫陽花を差し込む。
何となく手を合わせたら、兄と義姉も祈りの形に指を組んでいた。
顔も知らない相手。名も無き──いや、俺に名を奪われてしまった誰かが、生まれた日。
だからと言って、何か特別な感情が沸き立ったわけでもない。この墓参りはただの気紛れだ。
ただ、両隣に感じる二人分の体温に、安堵を感じたのも事実だった。
「もしかして、これまでも毎年来ていたんですか、兄さん」
「…申し訳ないけれど、そうじゃないんだ。何となく、ふと父がこの日、墓地に通っていたのを思い出してね。でも、これからは毎年来るよ」
「私も来るよ!お誕生日には、誰かがお祝いしなきゃね」
「……気が向けば、俺もまた来ますよ」