文豪とアルケミスト
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「今日はホットケーキの日だそうなので、おやつにホットケーキを焼いてみました!」
満面の笑みでそう宣言する司書を見ていると、本当にこの少女は記念日が好きだなと感心すら覚える。
記念日、伝統、年間行事。他人が勝手に定め、大多数の人間が是とするそれらに乱歩は興味がなかったが、この少女が尊ぶだけで少しは意味のあるものに思えてくる。
我ながら単純なものだと、乱歩は苦笑する。自覚しているよりもずっと、自分は彼女への恋情に狂っているのだろう。
「…乱歩さん、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありませんよ」
小首を傾げる司書から、ホットケーキの乗った皿を受け取る。
どういった菓子なのかは前の生から多少知っているが、昨今では少々事情が違うのだと司書から聞いた。何でも現代に生きる若い娘たちは、この上に果物や生クリーム、アイスクリーム等を大量に乗せるのを好むらしい。
その通りに、今日は食堂のテーブルの上にも様々、司書の用意したトッピングが用意されている。
夏目や谷崎は「何にしましょうねえ」等と、実に楽しそうに吟味していたが、乱歩はシンプルにシロップとバターのみに留まった。自身の生きた時代とは違うとはいえ、それが現代の「流行」であると言われると逆らいたくなる、厄介な質なのである。
しかし、隣に座る司書はやはりこの時代に生まれた娘らしく、白いクリームと苺で彩られたケーキを頬張っている。
この食べ物の何が、女性達の心を動かすのか。流行そのものに興味はないが、大衆心理の如何は実に興味深い。
「何なのでしょう…。味そのものよりも、見た目かもしれませんね。女の子はみんな、華やかなものが好きなんですよ」
理由を尋ねれば、司書からそんな答えが返ってきた。成程、一理あるかもしれない。
見た目のインパクトは確かに大事だ。見知った菓子が華やかに飾られていれば、それだけで新鮮に感じるだろう。
そう。興味のないものでも、シチュエーションさえ整えば極上の馳走となるのだ。
「司さん」
「はい?」
「クリームがお口に。失礼致します」
少女の唇の端に残る白を、手袋を着けていない左手で拭う。
親指に付着したそれを徐に舌で舐め取れば、彼女はフォークに刺さった苺よりも赤い顔をしていた。
甘露だと思った。今まで食した、どんな菓子よりもずっと。
ああ、これは悪くない。
「流行りのものも、偶にはいいですねえ。流行るだけの理由も分かりましたし」
「そ、そういう理由で流行っているわけではないと思いますよ、乱歩さん!」
「ふふ、失礼致しました。クリームを頂いてしまったお返しに、ワタクシのお皿からも一口どうぞ」
「それはもっと恥ずかしいです…!」
「遠慮なさらず。はい、あーんして下さい」
満面の笑みでそう宣言する司書を見ていると、本当にこの少女は記念日が好きだなと感心すら覚える。
記念日、伝統、年間行事。他人が勝手に定め、大多数の人間が是とするそれらに乱歩は興味がなかったが、この少女が尊ぶだけで少しは意味のあるものに思えてくる。
我ながら単純なものだと、乱歩は苦笑する。自覚しているよりもずっと、自分は彼女への恋情に狂っているのだろう。
「…乱歩さん、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありませんよ」
小首を傾げる司書から、ホットケーキの乗った皿を受け取る。
どういった菓子なのかは前の生から多少知っているが、昨今では少々事情が違うのだと司書から聞いた。何でも現代に生きる若い娘たちは、この上に果物や生クリーム、アイスクリーム等を大量に乗せるのを好むらしい。
その通りに、今日は食堂のテーブルの上にも様々、司書の用意したトッピングが用意されている。
夏目や谷崎は「何にしましょうねえ」等と、実に楽しそうに吟味していたが、乱歩はシンプルにシロップとバターのみに留まった。自身の生きた時代とは違うとはいえ、それが現代の「流行」であると言われると逆らいたくなる、厄介な質なのである。
しかし、隣に座る司書はやはりこの時代に生まれた娘らしく、白いクリームと苺で彩られたケーキを頬張っている。
この食べ物の何が、女性達の心を動かすのか。流行そのものに興味はないが、大衆心理の如何は実に興味深い。
「何なのでしょう…。味そのものよりも、見た目かもしれませんね。女の子はみんな、華やかなものが好きなんですよ」
理由を尋ねれば、司書からそんな答えが返ってきた。成程、一理あるかもしれない。
見た目のインパクトは確かに大事だ。見知った菓子が華やかに飾られていれば、それだけで新鮮に感じるだろう。
そう。興味のないものでも、シチュエーションさえ整えば極上の馳走となるのだ。
「司さん」
「はい?」
「クリームがお口に。失礼致します」
少女の唇の端に残る白を、手袋を着けていない左手で拭う。
親指に付着したそれを徐に舌で舐め取れば、彼女はフォークに刺さった苺よりも赤い顔をしていた。
甘露だと思った。今まで食した、どんな菓子よりもずっと。
ああ、これは悪くない。
「流行りのものも、偶にはいいですねえ。流行るだけの理由も分かりましたし」
「そ、そういう理由で流行っているわけではないと思いますよ、乱歩さん!」
「ふふ、失礼致しました。クリームを頂いてしまったお返しに、ワタクシのお皿からも一口どうぞ」
「それはもっと恥ずかしいです…!」
「遠慮なさらず。はい、あーんして下さい」