SSS
夢小説設定
この小説の夢小説設定not部長。帰宅部のメンバー。
メビウスでのクラスは2年7組。年齢17歳。実年齢18歳。現実世界でも高校生
メビウス歴は一年くらい
帰宅部に入る以前からホコロビに気付いており、琵琶坂先輩と行動をともにしていたという設定です
(一部の話には男部長が登場します)
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仕事から帰宅しドアを開けた瞬間、見慣れた女物のローファーが並んでいるのが目に入った。
通知を見落としたかとスマホを取り出しWIREを起動させてはみたが、やはり彼女からの連絡は入っていなかった。珍しいこともあるものだと、琵琶坂永至は首を傾げる。
別段問題はない。見られて困るものはここには置いていないし、そもそも彼女には合鍵を渡して、好きな時に来ることを許可している。それでもこれまで、彼女がここを訪れる前に連絡を怠ることはなかったのだ。
それに、妙だ。家主が帰宅したというのに「お帰りなさい」の一言すら聞こえてこない。いつもなら玄関が開けば、すぐに嬉しそうに駆け寄ってくるのに。
「三緒里君?」
靴を脱ぎながら名を呼ぶ。しかし返事はない。
「三緒里君、いるのか?」
彼女の寝室。リビング。バスルーム。どこを開けても、彼女の姿は見当たらなかった。
出かけたのだろうか。いや、それなら靴が残っているはずがない。訝しみながら自室のドアを開け――ようやくそこで、発見した。
彼女は床で眠っていた。朝、永至が着替えの際に脱ぎ散らかした部屋着に埋もれて。
ただその姿は、普段の可憐な少女のものではなく――ポメラニアンの仔犬のものに変貌していたが。
「……おいおい」
思わず気が抜けて、永至は息を吐いた。
そう。雨宮三緒里はポメガであった。つらい、悲しい、寂しい――何らかのネガティブな理由でストレスが一定値を超えると、彼女の体は強制的にポメラニアンのそれになってしまう。
永至も知ったのはごく最近だ。彼女を含め、メビウスではポメガの特性は再現されていなかった。
「本当の犬になってどうするんだ、君は」
犬は好きだ。忠実で、よく働く犬であれば尚いいと常々思っている。しかし、それはこういう文字どおりの意味ではないのだが。
周囲に散らばる紺色のブレザーは、紛うことなく彼女のものだ。制服を着ていたということは、学校からそのまま来たか――もしくは、着替える間もなく自宅を飛び出してきたか。
後者だろうな、と永至は思う。人の姿を保てなくなるほどに彼女の心を掻き乱すのは家族だけだ。
そういえば、今日は久しぶりに母親と顔を合わせると言っていたような記憶がある。この様子だと、母娘の対面は理想どおりにはいかなかったということだろう。眠る仔犬の目尻には、薄っすら涙の跡が残っている。
ざまあみろと心の中で毒づく。性懲りも無く、頭におがくずが詰まったようなろくでもない人間に付き合うからこんな目に遭うのだ。たとえそれが血の繋がった相手だとしても、とっとと見限ってしまえばいいのに。今日という今日は、いい加減に三緒里も思い知っただろうか。
「身内を捨てるって言うんなら、ずっとここにいたって構わないんだぜ、三緒里君」
彼女が未だに『家族』に固執する理由が理解出来ない。現に自分は己の利にならないと悟った瞬間、さっさと父親を切り捨てた。
母も妹も捨てて己の元へ来るというのなら、二度と犬の姿になどさせないのに。
小さな体を両手で掬い、膝の上に乗せる。余程泣き疲れたのか、それでも彼女は目を覚まさなかった。
「早く立ち直りたまえ。その姿のままじゃ、何も出来ないじゃないか」
ふわふわの背を撫でてやれば、仔犬は安心したように「くう」と寝言を漏らした。
* * * * *
……ああ、起きたのかい三緒里君。さあ、気も晴れただろう。早く人間の姿に戻りたまえ。
…なに?出来ない?僕が部屋にいるから出来ないってのか?
何を恥じらう必要があるんだ。君、何度僕に裸を見られてると思ってるんだ?
それに、都合のいいことに、ここは僕の寝室でねえ。
君だって、まったく望んでいないわけじゃないだろう。僕の服に包まって寝ていたのはどこの誰だ?
――ほら。嫌ってほど可愛がってやるから、さっさと元に戻りたまえよ。