Caligula Overdose
夢小説設定
この小説の夢小説設定not部長。帰宅部のメンバー。
メビウスでのクラスは2年7組。年齢17歳。実年齢18歳。現実世界でも高校生
メビウス歴は一年くらい
帰宅部に入る以前からホコロビに気付いており、琵琶坂先輩と行動をともにしていたという設定です
(一部の話には男部長が登場します)
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「はっ、馬鹿どもが羽虫みたいに群がってるな。見たまえ三緒里君、あれが馬鹿の集まりだ。まったく、ハロウィンが本来如何なる行事かも知らないくせに、街に繰り出して集団で騒ぎたいだけだなんて痛ましい人生じゃないか」
「は、はい……そうですね、琵琶坂さん」
絶好調の弁舌に、曖昧に頷いておく。こういう時は素直に追従しておくに限ると、この人と共に過ごす日々から嫌でも学んだ。本当は、彼が指差す先の光景に別段悪感情も揶揄する気持ちもないけれど。
10月31日。世間はハロウィンムード一色。昼間買い物に行った近所のスーパーでさえジャック・オ・ランタンやコウモリの飾りで彩られていたし、そこからの帰り道では仮装した子どもたちとすれ違った。どこかの保育園の催しのようで、今から近くを廻ってお菓子を貰いに行くみたいだった。そういう光景を目にすると、本当に微笑ましいと思う。
ただ、琵琶坂さんが指差すテレビの画面には、夜の報道番組が映っていた。ハロウィンの街の様子を中継しているようで、楽しそうに騒ぐ多くの若者達の姿がそこにはあった。金曜の夜ということで、人出はかなりのもののようだ。仮装をして、繁華街や公園に屯する彼らの姿も毎年のことで、最早風物詩と言っても過言じゃないかもしれない。けれど、琵琶坂さんは容赦なく彼らを「馬鹿」と断じた。確かに、この人はああいう手合いのことは嫌いだろう。私だって、他の人に迷惑をかけたり、ゴミを散らかしたままにするのは良くないとは思うけれど。
そういえば、ハロウィンに本来どういう意義があるのかは私もよく知らない。どの宗教から始まったものなのかもよく分からない。カボチャとお菓子とモンスターのお祭りみたいなイメージはあるけど、絶対違うんだろうな。そんな不真面目で無知な私が、こんなもの食べていいのかな。琵琶坂さんの言説からすると許されない気がする。そんなことを考えながら、目の前にあるケーキをフォークで切り分けて、口へ運ぶ。上品な甘さで、ほのかな罪悪感を消し去るほどにすごく美味しい。
既にカットしてしまって見る影もないけれど、元々は黒猫の形をしたホールのチョコレートケーキだった。老舗の有名洋菓子店が販売しているハロウィンだけの限定スイーツなのだと、買ってきてくれた琵琶坂さんが説明してくれた。
「あまり誕生日のケーキらしくなくて申し訳ないけれどね。まあ、可愛らしいし、味も悪くはないはずだよ。ちゃんとしたバースデーケーキは、今度食事に行った時に用意しよう」
そう。今日は私の誕生日でもあるのだった。
当初は外食に行こうと琵琶坂さんが誘ってくれていたけれど、街に人が溢れるのを見越して、その予定は一週間延ばすことになった。私はまったく気にしていなかったのだけれど、まるでその罪滅ぼしかのように、琵琶坂さんは山ほどスイーツを買って帰って来たのだった。今や、リビングルームのローテーブルの上は、ジャック・オ・ランタンの形をした器に詰まったチョコレートだの、ゴーストの形をしたアイシングクッキーだのでいっぱいになっている。どれも、猫のケーキと同じお店のものらしい。
そして、琵琶坂さんはそのチョコレートをお供に、シャンパンのグラスを傾けている。普段から饒舌な人ではあるけれど(何しろ以前は喋ることがお仕事だったそうだけど)、テレビへのツッコミが普段の三倍くらい冴え渡っているのはアルコールの力も大きいんだろう。発せられる言葉は優しいものじゃないけど、琵琶坂さんはご機嫌のようだった。何しろ、一人でボトル一本開けそうな勢いなのだから当然かもしれない。最初は私がお酌をしていたけど、「誕生日の人間にそんなことさせられないよ」と言われ、結局琵琶坂さんはほとんど手酌で飲んでいた。私の注ぐペースがよっぽど焦れったかったのかもしれないけど。
こくんと液体を嚥下する喉を、じっと見つめていたせいか。琵琶坂さんはテレビからこちらへ視線を移すと、心底楽しそうなことを思いついたように、にんまりと笑った。
「君も飲むかい?」
「えっ」
手に持ったグラスを差し出される。中にはまだシャンパンが半分ほど残っており、小さな泡が煌めいていた。
興味がない、と言ったら嘘になる。透明感のある、すごくキレイな色の飲み物。琵琶坂さんはお酒が大好きで、いつも幸せそうに飲んでいるし、高価いお酒をたくさんストックしているのも知っている。どんな味がするのか、飲んだらどんな気分になるのか。
でも。
「だ――だめです。私、まだ未成年だから」
お酒は20歳になってから。今日の誕生日を経ても、まだその年齢に私は届かない。丁重に断る私を見て、琵琶坂さんはくく、と喉だけで笑った。
「相変わらず君は真面目だなあ。今どき後生大事にそんな法律守ってるやつ、そうはいないよ」
「も、元弁護士さんがそんなこと言っちゃっていいんですか。それに、琵琶坂さんだって普段だったら飲ませてくれないでしょう?」
以前も、同じようなことがあった。その時は、確かに「未成年に飲ませる酒なんかないよ」とにべもない返事をもらったはずだ。
けれど、琵琶坂さんは「言ったかな、そんなこと」と首を捻った。
「おっしゃったはずです」
「そうだったかな? まあいい。その時はそういうことを言ってやりたい気分だったんだろうなあ」
自由だなこの人、と率直な感想が胸に浮かんだ。知ってたけど。それに、そういう何にも囚われないところも好きなんだけど。
「まあ、雰囲気くらいは味わってもいいんじゃないか」
「え?」
続く琵琶坂さんの言葉の意味が分からず、思わず問い返す。目を丸くする私など意に介さない様子で、琵琶坂さんはソファに深く座ったまま、自身の膝を手で示した。
「おいで」
優しい声が、私を誘う。普段から唐突な言動や行動が多い人だとは思うし、今回の意図も私はまだ理解出来ていない。でも、これは勧誘じゃなくて命令だ。だから、おずおずと立ち上がって移動し、琵琶坂さんの足を跨いでソファの上に膝立ちになった。座っていいものかどうか思案していたら、琵琶坂さんの手が私の腰から太ももにかけてをするりと撫でた。それを「座れ」の合図だと解釈し、そのままぺたんと腰を下ろす。
……本当にこれでいいのかな。その不安を胸に琵琶坂さんの顔を見たら、満足そうに微笑む双眸と視線が合った。
「まったく、君は本当に可愛いなあ、三緒里君」
「え、わ、わわっ」
突然琵琶坂さんの両手に、頭をわしわしとかき混ぜられた。け、結構強い。頭ががくがく揺れるし、どんどん自分の髪がボサボサになっていくのが分かる。まるで大型犬でも撫でているようなその行為に「あわわわ」と声を上げ続けるしかない私を見て、一層琵琶坂さんは愉快そうだった。
この人、多分見た感じよりかなり酔ってる!
「び、びわさかさんっ」
「ん?」
「琵琶坂さん、ちょっと飲みす――んむっ」
抗議の声は――琵琶坂さんの唇の中に飲み込まれた。ずっと私の頭を撫でていた琵琶坂さんの手に、突然頬と首を固定され、ぐいっと引き寄せられて、身動きが取れない。
ぬるりと口内に入り込んだ舌が、まるで別の生き物みたいに私のそれと絡み合う。
「ふ、あ……」
「そのまま口開けてろ」
息継ぎの合間に命じられ、角度を変えて、また深く深く口付けられる。唇の端から水音がするたびに、頭の中は霧がかかったようにぼやけてきて、何も考えられなくなっていく。
触れる舌が、唇が、ひどく甘い。それが先程まで口にしていたシャンパンとチョコレートの香りなのだと、ようやく気付く。「雰囲気くらい」って、そういう意味だったのか。鼻腔から肺まで満たすようなアルコールの残滓で、酩酊しそうになる。
――ううん、そうじゃない。私が酔わされているのは、溺れているのは、アルコールの匂いじゃなくて、きっとこのキスそのものだ。
長い時間の果てに、ようやく唇が離れる。それだけで、「はぁ……」と、自分でも驚くほど熱い吐息が漏れた。
「随分と物欲しそうな顔をしてるじゃないか」
琵琶坂さんの声は弾んでいた。でも、涙の膜が張った目では、どんな顔で私を見てるのかよく分からない。私自身も、いま一体どれほどだらしない顔をしてるんだろう。
「生憎、トリック・オア・トリートなんて趣味じゃなくてね」
そう言いながら、琵琶坂さんは力の入らない私を抱きかかえて、ゆっくりとソファに押し倒した。うっすらと目元が紅潮した琵琶坂さんに見つめられて、私の鼓動はどんどん早くなっていく。
「くれてやった菓子の代わりに、一つ歳を重ねた君を存分に好きにさせてくれたまえ」
――その意味が分からないほど、無知でも無垢でもない。
こくんと小さく頷くと、「いい子だ」と頭を撫でられた。琵琶坂さんの体が、徐に私に覆い被さる。
そして、そのまま。私の首筋に、顔をうずめて――
……そこから、微動だにしなくなった。
「……び、琵琶坂さん?」
いつまで経っても先へ進まない行為を不審に思って呼びかける。ぽんぽんと何度か背を叩いても、琵琶坂さんはそのままだ。そこで、気付いた。耳元で響く、規則的な寝息に。
まさか、いま、この状態で――そう考えても、目の前の事実はひとつ。
しっかりすっかり、琵琶坂さんは眠りに落ちていた。
「嘘でしょ……」
思わず、はあと溜息が漏れた。
いや、理解は出来る。琵琶坂さんはお仕事から疲れて帰って来たんだし、お酒もかなり飲んでいた。こういう状態になっても無理はないとは思う。思うけれども。
……人をその気にさせておいて、寝落ちしちゃうなんてあんまりだ。
そりゃ、恥ずかしいとか、体力が保たないとか、色々あるけど。私だって、琵琶坂さんに触れたいし、触れられたい。大好きな人なんだから、可愛がってもらえるのは溶けちゃうくらい幸せなのに。
「だから飲みすぎだって言ったのにぃ……」
本当に自由だなこの人と、さっきと同じ感想を思い浮かべた。けれど、今更ぼやいたってどうしようもない。それに、穏やかな顔で眠っている姿を見ていると、愛しさだけが胸に湧き上がって、何も言えなくなってしまう。
とにかく、このままじゃ風邪ひいちゃう。自分よりもはるかに長身な体の下から必死に這い出て(それでも琵琶坂さんはまったく起きなかった)、寝室へ向かう。そして、持ってきた毛布を眠る琵琶坂さんの上にかけた。本当は引きずってでもベッドに連れて行きたいけど、私の力じゃ絶対に無理だ。
……ちょっとだけ。そう思って、眠る彼の傍らに潜り込む。
二人で横になるとちょっと狭いけど、とても無理ってほどじゃない。琵琶坂さんの家のソファが広くて良かった。
琵琶坂さんのぬくもりを、もう少しだけ感じていたい。だから、ちょっとくっついて横になるだけ――そんな言い訳めいたことを、考えていたはずだったのに。
いつの間にか私も、とろとろと夢の世界に落ちていった。
*****
……寝返りさえ打てない窮屈さに目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む光は、既に日が昇っていることを物語っている。寝起きの朦朧とした意識ではあったが、即座に今が何時か気になった。が、すぐに今日は土曜日かと思い至り、微かに安堵の息をつく。問題ない。特に急ぎの仕事もないし、今日は休むと決めていたのだ。
そうか、ソファで寝てしまったのか。目の前のローテーブルには、空になったシャンパンの瓶が一本。少し調子に乗って飲みすぎたかもしれない。何せ、昨夜は妙に気分が良かったのだ。さて、原因は一体何だったか。
それにしても、腕の中が妙に温かい。何かあったかといつの間にか掛けられていた毛布を捲ると、すぐにその理由は判明した。
そこには、少女が一人、実に幸せそうな顔ですやすやと眠りを貪っていた。
そうか、この窮屈さの正体も彼女だったか。昨晩彼女と事に及ぼうとしたはいいものの、睡魔に負けて意識を飛ばした失態が今更まざまざと脳裏に蘇る。さすがに、記憶を失うほど飲んではいない。
そのまま、ここで寝ていたわけか、彼女は。毛布を持ってきたということは、一度寝室へ向かったんだろうに。
「びわさかさん……」
突如、三緒里君の口が僕の名を紡いだ。起きたのかと思ったが、何のことはない、ただの寝言だ。一体どんな夢を見ているのやら、その顔は実に腑抜けた間抜け面と化している。涎を垂らしていないだけ、まだマシというべきか。
「……夢の中の僕なんか不要だろう」
本物がここにいるっていうのに。
鼻でもつまんで無理矢理起こしてやろうかとも思ったが、無防備な姿を見ていたらその気も失せた。気晴らしは今じゃなくてもいい。
起きたらまずシャワーを浴びよう。そのあと、リビングを片付けて、朝食を食べて――それから、昨日やり損ねたことを、存分に彼女に味わわせてやる。
「体中が凝り固まった礼もしてやらないとなぁ……」
一晩、こんな状態で過ごさせやがって。どうしてやろうかと算段を立てながら、華奢な背を軽く叩いてやる。
今は彼女の目覚めを待つだけだ。一日お預けを食らわせたこの純真な顔が、如何に快楽に溶けるかを夢想しながら。