SSS
夢小説設定
この小説の夢小説設定not部長。帰宅部のメンバー。
メビウスでのクラスは2年7組。年齢17歳。実年齢18歳。現実世界でも高校生
メビウス歴は一年くらい
帰宅部に入る以前からホコロビに気付いており、琵琶坂先輩と行動をともにしていたという設定です
(一部の話には男部長が登場します)
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三緒里君、知っているかい。本来、ムースとババロアは似て非なるものだ。卵やクリームなど、素材を自然に固めたものがムース。ゼラチンが入ってたらババロアだ。
「というわけで、君の作ったこれは厳密にはムースじゃない」
「うわっ面倒くさっ」
自分でも無意識のうちに、そう口に出してしまっていた。ノータイムで「あ゛ぁ?」という威圧の声と、苛立ちに満ちた視線がこちらへ向けられる。あ、やっべ。まあ一度口に出したことを撤回するつもりはさらさらないが。
受け取らなくてはいけない書類があったため、仕事帰りに久々に赴いた琵琶坂先輩の自宅。突然の来訪になってしまったけど、魔王様に囚われた悲劇の少女――もとい、彼の同居人である三緒里は一切嫌な顔をせず、それどころか嬉しそうに俺を出迎えてくれた。メビウスにいた頃から知ってるけど本当にいい子だ。何で琵琶坂先輩みたいな人と付き合ってるんだろう。
そして彼女がお茶と一緒に出してくれたのが、手作りだというイチゴムースだった。日中一人でいる三緒里は、最近製菓にハマりつつあるらしい。
「飲食店のお仕事してた部長に出すのはちょっと恥ずかしいんだけど」と彼女は はにかんでいたけれど、俺の専門はスイーツじゃなかったし、それに現職は全然違うんだし、そんなこと気にしないでほしい。そもそも三緒里の料理の腕前は誰の前に出しても恥ずかしくない。今回のイチゴムースだって、ちょこんと真ん中に乗せられたホイップクリームやイチゴの果実が見た目にも可愛らしいし、味だって美味しかった。柔らかくて優しくて、作った三緒里の性格そのものって感じだ。
――なのに、この男ときたら。
「人の作ったものによく平気で文句言えますね……。いらないんなら俺が代わりに食べちゃいますよ」
「別に文句なんて言ったつもりはないね。後学のために指摘してやっただけだ。誤解がもとで、三緒里君が今後どこかで恥をかいたら可哀想だろう」
物は言いようってのはこういうことだよなと思う。この人は結局、自分より遥かに歳下の女の子に知識マウントを取りたいだけなんだ。まあ、ムースとババロアの違いなんて俺も知らなかったから、ちょっと勉強になったのは事実だけど。
当の三緒里も慣れたもので、「そうなんですね、勉強になります」とか言ってニコニコしてる。だんだん琵琶坂先輩の扱い方が分かってきたんだな、この子も。
だいたい、これは真のムースじゃないーババロアだーなんてどっかのグルメ漫画みたいな台詞を吐いたくせに、琵琶坂先輩は黙々とそれを口にして、手の中にある器はすぐに空っぽになった。絵に描いたような完食である。
「美味いなら美味いって素直に褒めればいいのに……」
「おや、不味いなんて誰が言ったんだい?」
さらっと笑って、琵琶坂先輩は三緒里にお茶のおかわりを要求している。
……まあ、三緒里は空っぽの器を見ただけで幸せそうにしてるし。多分この二人のコミュニケーションは、これで間違ってないんだろう。外野の俺が突っ込むだけ野暮ってものだ。
もう三緒里が泣かされてなきゃそれでいいさ、なんて。親心なのか諦観なのか自分でもよく分からない気持ちを、俺は最後に残しておいたイチゴと共にぐっと噛み締めるのだった。